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side神聖紅帝国


神聖紅帝国の奥深くで、皇帝であるエカチェリーナ三世は嗤っていた。賢帝と名高い彼女であったが年を負うにつれ猜疑心が強くなり、一時休戦の協定すら破って第二次南部大戦の火蓋を切った。

全てはあの憎らしきウェダーガーデンの第二王子…『最も神に近い人間』と呼ばれる彼があの国に生まれてしまったことが原因だ。

というのも、ROKIは代々紅から排出されていた。今の二代目は自分の姉であるイザベルがその名をうけている。
ROKIの母国には大陸魔術機構から様々な恩恵をうけることができる。無償での魔術学院の設立、教師としての魔術師の無償での派遣。その他にも魔術師の育成をはかるための予算が幾らか分けられた。
恵まれた気候と領土を持つウェダーガーデンとは違い、国土の三分の二を砂漠が覆うこの国は魔術だけが頼りだった。水霊と会話し乾いた国土に雨を降らし、土霊を崇めて肥沃な土壌を請う。国民が生活していく上で魔術はなくてはならないものだった。
──そして、その生きる為に必要な能力を教える魔術学院も。
ウェダーガーデンは王子の戦力を恐れてなどと片腹痛い勘違いをしていたようだが、全くの見当違いもいいところだ。

ROKIの名を他国に渡すわけには行かなかった。この国を守っていくであろう、自分達の子孫のためにも。
自分達の子供の頃のような、生まれた赤子が食べるものがなくて殺され、食われるようなそんな国には戻したくなかった。

強く唇を噛んで、戦局を知らせる魔術紙を握り潰す。離れた距離にある紙に風霊が同じ内容を写してくれるその紙には、良くも悪くもない内容が描かれていた。唯一の勝ちと見れるのは向こうの第一王子を撃破した主力部隊だけだ。
向こうに余程いい策士がついているのか程良く一進一退を繰り返し、まるでこちらが疲弊して白旗を挙げるのを待っているようだ。

「カトリーナ、今平気か?」

物思いに耽っていれば、傍らの隠し戸が開いて現在のROKIである姉が顔を出す。美丈夫にも見えるほど背の高い彼女は、エカチェリーナの顔を見て豪快に笑った。

「なんという顔をしておるのじゃ。美人が台無しじゃぞ。憔悴しきった顔もまた美しいがな」
「なにを仰りますか……姉上。体調が優れないとききましたよ、このようなところに来ていてはなりませぬ。きちんと休んでいて下さらねば」
「はは、如何に休んでいようと良くなる病でないのは、そなたも知っておるじゃろうが」

年にそぐわぬ美貌の姉は、悪戯じみた表情でそう告げた。しかし笑えるような内容ではないし、冗談でもないことをエカチェリーナは知っていた。
神聖紅帝国の皇帝一族には、ある能力があった。不思議なことに血族の誰かが皇帝の名を拝命すると、その血族には斑に先見の才を持つものが生まれる。先見の才とは、人間の持って生まれた宿命的なものだけが薄らと『わかる』能力だ。
そしてエカチェリーナは特に強いその先見の才を買われて帝位に着いたのである。共に育ってきた姉の避けられない死期を、誰よりも見せ付けられてきたのは彼女自身だった。

「神会と魔構から封書が届いた。神会への入会の誘いと、ROKIの次代を承認せよとな。転生も出来ず人間にも交われず延々と生きるなど、生き地獄に等しいことは断ったがのう。──…どうする、やはりあの、ウェダーのガキじゃったぞ」
「……どうしようもありませんね。姉上の承認など形だけで、大陸魔術機構の決定は絶対です」
「そうじゃのう」

イザベルは憔悴した様子の妹の肩を抱き寄せた。この小さな華奢な肩にこの国の全てが乗っていると思うと、あまりにも不憫な心地になる。



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