突抜忍冬/阿水+水谷家
今日は、たまたま監督の用事で部活がない。
そこで、俺と水谷は二人きりで出かける約束をした。
いや、出かけようって誘ってきたのはこいつだ。
…なのに何でだ。
何でまだ準備してないんだ、こいつは。
「えへ、今起きちゃって」
へらっと笑って、寝癖のついた髪で玄関を開けた水谷。
寝坊した、だと。
まったくこいつは…。
「とりあえず、あがって!」
急いで準備するから!、
言いながら、ドタドタと二階に上がる水谷。
しぶしぶ上がれば、水谷の母親が苦笑いしながら、ごめんねーと謝ってきた。
あ、やっぱ綺麗。
「文貴ー、お友達待たせてるんなら急いであげなさい」
二階に向かって、水谷の母親が叫ぶと、変わりに姉ちゃん──彩世さんが降りてきた。
俺に気がつくと、にこっと笑いかけてくれた。
俺も軽く頭を下げて、微笑む。
「もしかして、文貴とデート?」
「え、あ…っまぁ」
「やだぁ!そーならそーと早く言ってよ」
そう言うと彩世さんは、別の部屋に入り、服を何着か担ぐと、リビングに戻ってきた。
「きよえちゃん、文貴は?」
「二階よ」
へぇ、お母さんの名前きよえって言うのか。
てゆーか、母親のこと名前で呼ぶんだ。
珍し……くは、ねぇのかな。
しばらくして、水谷が彩世さんと一緒に降りてきた。
「阿部ーあべあべ、どう?」
流石は彩世さん。センスいい。
寝癖のあった髪型も、綺麗にセットされていて。
あんな短時間でよくここまでできたな。
…しかも、不覚にも今ドキッとしてしまった。
「いいんじゃね」
ぶっきらぼうにそう言ってやると、水谷は嬉しそうにへらっと笑った。
「姉ちゃん、ありがと!」
ニッと笑って、俺の手を引いて玄関へ向かう。
「あ。きよえ、オレの靴どこー」
「そこ、一番下。開けてごらん」
こいつまで、母親のこと名前で…っしかも、呼び捨て!?
なんかすげ。
昔からそーなんかな、水谷家は。
「あ、あった!じゃ、いってきます!」
何してんの早く、
と水谷に手を引っ張られながら、こいつの家を出た。
そのとき、閉まるドアの隙間から、ちらりと見えた玄関先には、笑顔で見送る彩世さんと母親の姿。
わーこいつ、めっちゃ愛されてんな。なんて。
「水谷、お前幸せだろ」
俺がなんとなくそう言うと、水谷は、いきなりどうしたの、なんて言ってへらっと笑った。
ほら、なんか、その笑顔が幸せそうだもん。
突抜忍冬 -ツキヌキニンドウ-
(愛の絆)
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