リク部屋 6 「・・こう・・・こう・・・・江太!」 呼びかけられた声にハッとする。手元を見れば、入れていたお茶があふれそうだった。 「あ、すみません!」 いそいで手を止めて急須を置く。その手を、若様につかまれた。 「俺といるときに何を考えている?」 細めされた目に、僕は視線をそらした。それが気に入らなかったようで、若様はもう片方の手で僕の顔をつかんだ。 逃げられないことを察して僕は口を開いた。 「若様は、僕なんかで良かったのですか?」 「は?」 声が、震えた。 「ぼ、僕には、なんの教養もないし、お茶すらまともに入れられないし、家だって、」 敬語すら、うまくつかえやしない。 若様が僕の頬をなでた。 「・・・・お前でいい。俺は、お前がいい。」 さっきとは違って、柔らかい声が僕を包む。 「江太、お前は今までの誰とも違う。まっすぐに、俺を見る。・・・・お前は、ずっと俺のそばにいろ。」 その言葉に、涙がにじむ。 「はい、若様。」 頑張ろう。 この方に、ふさわしくなるように。 この方に恥じぬような人になろう。 僕が、この方を支えるんだ。 「・・・・江太。誰かに、何か言われたんじゃないだろうな・・」 「え?」 「手の甲が、腫れている。」 はっと、自分の手の甲を見た。確かに腫れていた。けれど、人を殴ったなんて、情けなくて言えない。でも、若様に隠し事をしてよいものか。 その時、伸介さんに言われたことを思い出した。 『彼を許す気持ちが少しでもあるのなら、このことは若様には黙ってなさい』 母さんや若様をバカにしたことは許せないが、人を殴ることは許されないことだ。 僕は若様の目を強く見つめてなんでもありませんと告げた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |