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アキラの先生
第4話(2)
母親が帰ると、先生はアキラを最上階の談話室につれてってくれた。もともと人気がない場所だったが、夕方になるとさらに人は減る。壁に飾られてる絵画をボーっと眺めている先生の肩に、アキラは頭を乗せながらおんなじ絵画を見ていた。
「お父さんは、先生のことが嫌いなんだ……」
「そんなことないよ……これ以上入院が長引くよりは、家にいたほうが回復が早いんだから」
「でも……僕になんにも言わないで……」
「早く学校に行きたいって、思わないの?」
その言葉は、いつもの先生にしては少し冷たく感じた。先生にはたぶん、ほかの患者がいる。アキラの代わりも。でも、アキラに先生の代わりはいない。学校の友達に“治療”してもらったってたぶん気持ちよくなんかならない。それに、こうやって隣にいるだけで安心できるのはだぶん先生だけなんだと思う。
「僕は先生といるほうがいい」
「そうかな……学校のほうが楽しいよ?サッカー部に入るんだろ」
目がしみた。なにかが入ったみたいに。ごしごしこすると目の奥がちくちくして痛んで涙が出た。ついでに胸の奥もちくちくして痛い。縮こまって先生に体を押し付けた。
「なんか、目に入った……痛い」
「えっ?まばたきしてみて」
「うん……」
先生があごをつかんで顔を近づけると、アキラはそのまま胸のなかに飛び込んでく。
「わっ、ちょっと……どうしたの」
「治療して……苦しいの」
白衣から見えるズボンのジッパーに手をかけた。先生はあわてて手首をつかむ。尋常じゃない強さで、手はびくともしない。こんな優しい顔をしてるのに。
「ダメだよ。もうダメなんだ」
「どうして?特別な治療だって言ったじゃん!」
広い談話室に声が響く。キョロキョロあたりを見渡すと、先生はホッとしたようにため息をつく。泣き出すアキラを抱きしめた先生の肩も震えていた。
「ダメなんだ……アキラは、もう治療は必要ない。退院するってことは、そうだろ?」
「やだ。退院しないもん」
「アキラ」
大きくはないが通った先生の声は、まっすぐ耳に入ってきた。おそるおそる顔を上げると、悲しそうな先生の顔がそこにある。時折見せる、あの顔だった。
「ごめんなさい……」
「いや、先生も悪かったよ……アキラに治療したのは僕だもの」
そう言うと立ち上がって大きく伸びをした。
「今日、病室に行くよ。それで最後、いいな?」
「うん……ありがと、先生」
アキラは先生の手をとり、病室に戻った。


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