[通常モード] [URL送信]
此の恋、袋小路





※タカ丸が腹黒いです。







コンコン、とタカ丸一人の長屋に戸を叩く音が響いた。

「はーい」

開けると綾部が髪を下ろして立っていた。

「綾部?どしたの、もう直ぐ消灯だよ?」

「今日、此処で寝ていいですか?」

言いながらタカ丸が引いていた布団の横に綾部は進む。

「あ、うん、いいよ?」

返事を聴いて布団に座る綾部の向かいにタカ丸も腰を下ろした。
どうしたの?と再度声を掛けようとしたら、白い細い腕が腰に周り、灰色かかった柔らかな髪が胸元に擦り寄って来た。

「……綾部?」

「………」

「どーしたの?ん?」

風呂に入って来たばかりなのだろうか。石鹸の香りが髪から漂った。

「…滝、」

「滝夜叉丸?何、喧嘩でもしたの?」

綾部は小さく首を横に振る。

「…私、滝が自慢話したり、理不尽な事するのも別に嫌じゃないんです」

「…うん?」

「時々らしくない失敗して慌てたり、悔しがってたりするのも滝だし」

今夜の綾部はよく喋る。
しかしタカ丸の寝間着を握る手の力は弱々しい。

「滝に何かあったの?」

顔は俯いていて見えない。綾部はより一層、胸元に顔を埋めてきた。

「七松先輩と抱き合ってたり、口付け、してたりするのも滝なんです」

淡々と話していたはずなのに、躊躇いが生まれた。

「私、滝が滝なら良いと思うんです。だけど、さっきの滝は滝、なのに、私の知らない滝だった」

さっきと言うのは、滝夜叉丸が七松と逢瀬していた事を言うのだろう。
頬を蒸気させ、ほどかれた髪は汗ばんだ額や背中に貼り付いて、二人は幸せそうに抱き合っていた。
七松に向かって『好きです』と呟いた声が頭から離れない。

「……何で。何でかなぁ、タカ丸さん」

『私もだよ』と返された返事に滝夜叉丸は恥ずかしそうに微笑んでいた。

「滝が笑って幸せで嬉しいはずなのに」

其の笑みは見た事は無かった。

「何で、私は哀しいんだろう」

二人の関係を知った途端、何故あんなに心臓が鼓動を早くしたのか。

「何で、涙が出そう、なんだろう」

痛い。と思ったのか。

「何で、ですか」

前髪がハラハラと目許を隠す。その間から覗く揺れ動く瞳は、タカ丸を写した。

「……何で、だろうね」

綾部の瞳に写る自身の表情は余り好きな顔では無かった。
二人が一緒に居るのを見て、傷付いた綾部。
綾部の告白を聴いて、又タカ丸も傷付いた。

「…タカ丸さんなら、知っているでしょう…何で教えてくれないんですか…」

タカ丸は只、困った様に笑いながら綾部を抱き締める事しかしなかった。
綾部も其れ以上は口を開きはしなかった。
か細い身体を抱き締める腕に自然に力が籠る。

(綾部の気持ち解ってるくせに、其れが何なのか教えない俺は意地悪だ)

そして、其の弱さにつけこみたい。

(此れをチャンスと思う俺は、性格悪い。でも)

「…其の傷、俺が癒してあげようか」






終。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
綾部は滝が好き、でも綾部は其れが恋とは知らない。タカ丸は綾部が好き。綾部が滝を好きなのは何となく知ってた。そして失恋して、やって来たのが自分の部屋。傷付いた綾部を癒す事で自分を好きにさせたいと思ったのです。
あぁ、何て解りにくい。
そしてタカ丸腹黒い。
綾滝はあくまでも綾部の片想いが好き。てか綾部は滝が幸せならいいんです。

.


あきゅろす。
無料HPエムペ!