モノポリズム
※現パロ
※大学生くらい
―――何時も事、済ます俺は相当アイツに浸食されてる。
それを打破する術があるのなら教えて欲しいが、実行には移せる気はしない。
浸食はかなり根深い。
「……ん…」
まだうっすらとしか開かない瞼を押し上げ、瞳に映る自分の部屋。
脱ぎ散らかした服とテーブルの上の読みかけの小説が目に入る。
枕元の携帯を手探りで探し、見た時間はAM10:32。
「やべ…寝過ごした…」
カーテンの隙間から差し込む光は穏やかだ。
溜め込んでしまった洗濯物を今日は片付けようと思っていたのに。
とりあえず、洗濯機を回そうと上半身を起こした文次郎の鼻にコーヒーの匂いが薫った。
「……何してんだ、仙蔵…」
「見てわからんか、コーヒーを煎れている」
この男の侵入を許したつもりは無い。
さも、自分の台所の様に扱う仙蔵に呆れながら、文次郎は溜め息を付いた。
「寝たと言うのに酷い隈だな。どれだけ寝れば取れるんだ、その隈は」
「うるせぇ」
仙蔵の悪態はいつもの事。こちらがそれに対して何か言い返すならば、何倍にもなって返ってくる。だから抵抗は差し障りない位で返すのが一番なのだ。
「俺もコーヒー…」
「湯なら沸いてる」
自分の分のコーヒーをマグカップに注いで仙蔵は、リビングのカーペットに腰を下ろした。
「………」
仙蔵が持つマグカップは何時の間にか当たり前の様にあった。何時からあったなんて部屋の持ち主である文次郎も知らない事だ。
仕方無く空回った手は自分でコーヒーを入れる為にヤカンを手にしたが、何か思い出した様に文次郎はリビングに向かった。
「何だ」
「や、眼鏡…」
テーブルの上を探す文次郎だが、眼鏡は見当たらない様だ。
「お前、眼鏡なんてしてたのか」
「最近作ったんだよ」
「ふぅん」
興味無く返事をしたが、ベッド脇の棚に置かれた眼鏡が仙蔵の視界の端に映り、仙蔵はマグカップを持ち替え、それを手にした。
あ、と言う文次郎を気にする事無く、仙蔵は眼鏡を掛けたが度の合わない眼鏡では眉間に皺が寄るだけだ。
「度がキツイ」
「両目2.0の奴が眼鏡なんか掛けんな」
しかめっ面の仙蔵から眼鏡を取り上げると、文次郎は眼鏡を掛け、小脇に洗濯物を抱え、台所の方へと戻って行った。
水の流れる音がして、ごうんごうんと洗濯機が鳴り出すと、文次郎はコーヒーを片手にテーブルを挟んで仙蔵の向かいへ腰を下ろした。
コーヒーを口に含み窓の外を見て、文次郎は良い天気だ、と零す。
「その良い天気の朝に洗濯機回しとけば良かったのにな」
(何時からいたか知らねえけど気を利かせて、てめぇが回すなんて思考なんてコイツにはない、な)
淡い期待は簡単に砕けて、虚しさだけが残る。
「おい」
「え」
「眼鏡を掛けた方が、その隈を隠せて良いじゃないか」
「……うるせぇ」
思考を読まれたと思って出た声と、仙蔵からの珍しい褒め言葉(分かりにくいが)に反応が遅れた事にほんの少し体温が上がる。
(本当、何なんだ)
「午後は?」
「出掛ける。買い物しなきゃなんねぇ」
「何、買うんだ」
「夕飯の買い出しだ」
カレーが食いたいと呟いた仙蔵に、はいはいと返事を返し、膝を付いたままタンスの中から服を取り出す。タートルネックにジーンズを引っ張り出して、上に羽織るものは…と、辺りを見回そうとしたら、後ろからドカリと仙蔵が文次郎に覆い被さり、文次郎の身体はカーペットに雪崩れた。
「って〜…仙蔵!」
「眼鏡。邪魔だな」
後ろから回った仙蔵の手は顎を撫で、そのまま眼鏡を外された。
その行為に振り向き掛けていた首は、半ば無理矢理仙蔵の方へ向かせられた。
「いっ」
てぇ!と続くはずだった声は仙蔵の唇に鬱がれ、掻き消された。
コーヒー味の唾液が喉を通った瞬間、状況を理解した頭は沸騰しそうになり、文次郎はもがいた。
「い、いきなり何だっ…!」
指が沿えられ濃い隈の上をなぞり、仙蔵は口角を上げる。
「眼鏡してたら、この隈がよく見えんだろ」
「さっきと言ってる事違うじゃねーか!!っ、んっ!」
反抗も抵抗も全て押さえつけられ、さっきより深いキスが苦い味を口内へ広げ、呼吸を奪った。
短い呻き声を漏らせば、またそこを封じる様に何度となく唇は重なる。
酸欠で頭がクラクラした辺りで漸く唇が離れて、降りてくる嘲笑した様な視線に、思わず目を逸らした。
「バッカ…じゃ、ね、の…っは、げほっ…」
「キスするのに、眼鏡したままだと邪魔だろ」
「バカタ、レ。…っ!」
「…文次郎、眼鏡を掛けるのも、外すのも、私の前だけにしろよ」
「は…?っ…!?」
脇腹の辺りからTシャツの中に入ってきた仙蔵の手に文次郎の身体は強張る。
嫌な汗が項を通った気がした。
「ばっ…何考えてんだ、昼間だぞっ」
「洗濯が終わるまでには、こちらも終わらせるさ」
「ぜってー終わんねー!!つーか午後から出掛けるってんだろ!やれるか!!」
「腕を組んで歩いてやろうか」
「いらねーよ!!」
「ならば、大人しくしてろ」
「っ…くっ…!!?」
後ろから攻められては抵抗は限られている。
これ以上抵抗しても無駄なんて事は重々承知だが、せめてもの抵抗に思い切り睨んでやったら、仙蔵は愉しそうに唇で弧を描いて、その唇を重ねてきたのだった。
(あー…また洗濯機回すハメになった…)
洗濯機の回る音が、文次郎の短い呻き声を掻き消した。
「その隈、もっと濃くしてやろうか」
「遠慮する」
end.
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
コウへの開設祝いです。
始めて仙文書きました、仙文になってますよね?仙文だよね??
分かりにくいけど、仙蔵は文次郎の眼鏡に萌えたんです(爆)
自分以外に見られたくないから、引き止めてこう釘射しとけみたいな。
割と素直にしたつもりだけど、仙蔵の愛情表現って分かりにくい。てか私の文章力の問題ですがwwww
こんなんで申し訳ないけど、コウに捧げます。
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