からす カラスが泣いていた。 喉が焼ける様に熱い、飲み込んだ唾液に血液が混ざってなんとも言えない後味。正直、美味いとは思わない。 爽やかな風が傷口に沁みる。空はこんなにも澄んでいるってーのに視界が煙って今にもあの空から雨が降り出しそうだ。上下する胸から自分の鼓動を客観的に感じ、ああ、生きてるなあ。だなんて馬鹿みたいに思って笑った。 「っ……」 ヒリリ、と痛むのは口端か。それとも切れた頬か。分からないけれど確かに感じた痛みに今度は静かに微笑んだ。 あーもうダメ、限界。本当に限界。 動かない指先では咥えた煙草に火さえも灯せない。 「火、つけます?」 「………」 嫌な笑みだ。一護はそう思って小さく舌打ちした。 にやり。男の口角が上がり咥えていた煙草に火を移された。男が持っていた煙草から甘い香り、それとウザいくらいの白い紫煙が顔に降りかかるのが傷に沁みて痛い。 「綺麗に晴れましたねぇ」 「……」 「あ!見て見て!黒崎さん飛行機雲〜!」 「……」 「……あら、無視ですか?」 白いシャツに黒のベスト。安っぽい金髪とは違う、どこか透明で済んだ金色の髪の毛。タレた瞳はどこか甘く優し気に映るが、その薄緑がかった金色の奥に潜む狂気で大概の奴は脅えて、手も足も出ない。その狂気が自分に向いているのを一護は知っていた。 浦原喜助。ソサエティ高校を制している男だ。 この瞬間にも嫌な笑みと共にギラギラと光る狂気は一護の感覚全てを麻痺させ、見あげた空の色を金色に濁らせる。 「良い顔」 「………」 「傷だらけ。ここも、ここも、ここも」 「……っ」 瞼、頬、口の端、顔中にできた傷をひとつひとつ指先で撫でては爪を立てていく。浦原が産みつけるのは新たな痛み。 動かない指先がもどかしい。 咥えたまま味も何も分からなくなった煙草を、撫でる様な仕草で取り上げられる。 それでも瞳だけは浦原の狂気を全部否定するかの様に睨みあげていた。その揺れる事のない、変わる事のない琥珀色がたまらなく好きなんだと、浦原は思って口角を再び上げる。 「くく、黒の学ランって一番そそる」 「へ……ん、た……っ、」 「ああ、やっと口聞いてくれた。嬉しいなぁ」 ゆっくり、ゆっくり。砂糖細工を扱う様に取れかけたボタンを引きちぎっては捨て、鎖骨についた切り傷を舐める。ザラリとした舌先の感触が気持ち悪い。 浦原は一護に喧嘩を仕掛けておいて、常に傍観者を気取っていた。 河原に寝そべった形で見上げる夕日が目に沁みて痛い。そこら辺に転がったソサエティの生徒達をちらりと横目で見て笑う。 相変わらず、悪趣味過ぎて吐き気がする。 「こんな奴等相手じゃあ、君は潰せませんねぇ」 「さわ……んなっ!」 「おっと、…怖い怖い」 懇親の力を振り絞って、動かない左腕を振り上げた。 両腕を眼横にかざし上げおどけて見せた男の素振りが白々しい。握りしめた拳が震えている事に自分自身でも気付き情けなくなる。 空座高校で野獣と呼ばれている一護でさえも、この男の目の前では無力な子猫と化する。(特に今日なんて最悪だ…一体何人相手したんだか…) 兎に角、今はヤバイ…茶渡と恋次が来るまで…どうにか持ち堪えてくれっ そう自分を叱咤する様に下唇を噛み締めた。 「つれないなぁ。これでも一応、君の事好きなんですよ。僕」 「………少し、…黙ってくれませんか…浦原さん、」 「おや。ちゃんとしゃべれるじゃないですか……おかしいなぁ」 「舌を切ってこいと命令したんだけど」 ゾワリ。ひきつった背中が確かに恐怖そのものを一護の中に埋め込んだ。 ダメだ、この男はダメだ… 本当に情けない。くだされた恐怖に体中が震えあがる。カタカタと音まで鳴りそうなくらい。目の前の男の笑みが悪魔に見えてしょうがない。 くい、と顎を持ち上げられ、男の瞳がいつもより近くに感じられる。吐息も、セッターの香りも、狂気も。 「舌、出してごらん?」 「……」 「…出して?良い子だから」 「………」 「……出せって言ってるんだよ」 ぐりっ、口端の傷を爪先で抉られ、走った痛みと恐怖に口が開き、すかさず入りこんできたのは生ぬるい舌先の温度と煙草の味。 後頭部辺りに移動してきた手の平が、逃げようと抵抗する意識を抑え込む様に引き寄せる。何度も、何度も、角度を変え味わっていく。 最初は丹念に、 次は空気を食む様に、 三回目には舌先を噛まれた。 くちゅりくちゅくちゅと鳴る音が煩わしい…左耳だけいかれていたのが幸いして半減だったが、それでも脳内に直接響くその音に一護は眉を潜めて浦原を睨みあげた。 酸素が足りなくなっていくその手前、クラクラとした眩暈の中で必死に、絶対に逸らすものかと、まるで親の仇を見る様な視線で。 「ん、…ふ、……っ、ぁ、」 「…ふ、甘い声」 唇を離された瞬間に、浦原と一護の唇を繋ぐ様に銀色の糸が引く。 それさえも味わう様に、最後は一護の下唇をベロリと舐めて浦原はようやく熱を持つ柔らかな唇を解放した。 空を染める夕日に反射するみたく一護の頬が赤く染まる。なんて良い表情。 浦原は次なる快楽を求めるように背筋がゾワリと呻る音を聞いた。 「初めてのキスは血の味って…なかなかにバイオレンスで刺激的でしょ?」 「マジ…あんた殺すっ」 「元気出てきましたね。それでこそ黒崎一護です」 戦慄いた拳を包み込む浦原の手の平は思っていた通りに冷たく、そこから伝わるのは平均以下の体温だけで。何を考えてるんだこの男…。一護はそう思うしかなかった。 「僕ね、君の血の味が好きなんですよ」 最後に気色の悪い言葉だけを残し、浦原が腰を上げた。 ふふ、と一護が嫌う笑顔を投げかけ煙草を咥えて背中を向け歩きだす。 かつん、かつん。アスファルトを通して音が響く様に態と気配を辺りに散ばせて歩く姿はもう幾度となく見てきただろうか。 力の抜けた体は再び柔らかな芝生へと吸い込まれ、見上げた空は驚く程に綺麗な赤を発色させていた。なんて綺麗な夕日。冗談じゃない。 「…………くそっ」 どこかでカラスの鳴く声が聞こえた。 男の残留だけが消えない ◆噂のヤンキー映画を見まして。ええ、何とは言いませんがアレです(説明にすらなってない←)もう最高潮に悶えました。やってくれるぜ小栗旬(おい←)や。あれは究極のガチフォモ映画ですね。そうですよね? そんで悶えた結果がこれですよお嬢さん。コンセプトは男の絆と言うやつです。ふ、笑っちゃうよねーっ!絆すらもねーっつーの。敵同士やん。や、それもかなり悶えます。大好きだ馬鹿ーっ 鬼畜うらーらたん頑張った(やりきった感を出す腐←) |