誕生日 星屑を受け取る。 キラキラとした塵は体温で溶けて、癒えない傷跡を残して手の平から溢れ落ちた。 昔の話だ。もう、遠い昔の… イノセントダーリン 今俺の置かれている状況を簡単に説明するならさながら、ちょっとしたファンタジーであって、フワフワと薄っぺらい布の上に腰掛けて、呆然とする。視界いっぱいに無数のスターダストが広がっている。いや、これは日々の疲れで頭が幻影を見せてるとかそんな生易しい物なんかじゃなく、信じがたい事実で。 こんな非現実な光景、約数年振りに拝むから多少は混乱していたけれど、目の前に居る昔と全く姿形変わらずな男を確認したらああ、なんだ。とそれだけで非現実的光景が瞬時に日常へと変わるのだからまだまだ成長しきれていない証拠みたいだ。 数年振り、正確に言うと5年振り。ここで久しぶり、元気にしてたか?だなんて他愛も無い挨拶が出来ていたらもっと昔とは違う関係を築き上げれていけたかもしれないのに。 仕事帰りに拉致られた上に今は雲の上、しかも得体が知れない乗り物にこいつと二人っきりな状況は至極最強でいて最低。ぐうの音も出なければ安易な言葉も見当たらない。 「早いものだ」 それなのに男が軽く口を開くのだから呆れて物が言えない。 久しぶりに聞いた声なんてまるで変わっていない。5年もの月日を、こいつの居ない日常を、当たり前の物に変えていった俺の5年もの苦行を。 一瞬にして粉々に崩しておいて何が「早いものだ」だ。 「髪、少し伸びましたね。それでも色は相変わらず。仕事帰り?スーツはあまり似合わないんじゃないの」 「何しに来た」 突然。って言葉がぴったりだ。5年前、こいつは俺の日常からぱたりと存在を消した。理由は人伝て。全くもってお前らしい。 見慣れない白い羽織がゆらゆらと夜空に漂ってまるで天使の羽みたいに綺麗だ、なんて思いたくもない。寧ろ逆に凄く腹立たしい。 忽然と消えたお前の記憶だけが鮮明に傷跡として残っている。 「君に会いに」 「聞きたくない。戯言だ」 「5年、待ちました」 「誰が待っててって頼んだ?俺は待ってもいないしアンタを忘れていた」 そうだ。5年の月日をかけてようやっと、あんたが居ない7月をなんの滞りも無く過ごせる様になったのに。本当に今更だ。無神経でいて酷く残酷な男。 昔っから変わってないんだな。 「あんたは昔っから俺を傷つけるのが上手」 「黒崎さん」 「とりあえず、降ろしてくんない?明日会議なの」 「降ろしたら、逃げるでしょう?」 なんだろう、このやり取り。 まるで俺が悪者みたいで気分が悪い。訳が分からない。これ以上、どう傷つけって? 浦原の言葉に嘲笑って、それから夜空を見上げる様にして、落ちた。 浦原が名前を叫んだけど、生身で落ちていく訳だから空気圧に鼓膜が耐えきれなくて、風の音をどこか他人事の様に聞いて目を閉じた。 「そんなにっ、嫌ですかっ?」 気付いたら目の前に泣きそうな浦原の顔があって、ちょっと心地良い。だけどお姫様抱っこは勘弁願いたいのに浦原は放そうともしない。 やだな、言い訳なんか聞きたくないのに。 「ああ、嫌だよ。本気で不本意だ」 「アタシの弁解も無視?」 「と言うか、なんでお前が泣きそうなの?俺が捨てられたのに。なんでお前が傷付けられた顔すんの。」 降ろせ。言ったら、駄目だと強い口調で言われたので諦める。 5年も経ったのにまだ諦めもしないで脳味噌が、体が、心が、神経が、浦原喜助と言う酷い男の事を鮮明に記憶している。 嗚呼、柄にも無く怒ってる。 今にも泣き出しそうに、浦原の腕が俺を抱き締める。 「会いたかったっ、」 浦原が悲痛な叫びを吐き。 そして強く、強く抱き締められたから息が出来ない。 会いたかった?嘘八百も良い所。なのに…… 「……5年だ。5ね…ん、っ!馬鹿野郎!5年もの間、ずっと…独りだったっ」 言いたい事は沢山あった、空を彩る星の屍より沢山。 死んで彼処に逝ったら言おうと思っていた5年分の言葉はいつの間にか分散して夜空に溶けていく。星屑と一緒に、闇に同化していく。 「5回…君におめでとうを言っていない」 「じゃあ言え!5年分だ!も…っ、お前が居ないと生きてけないのにっまた、消えるのかっ?また…っ」 悔しいかな。この男を思って泣く事を止めた筈なのに、今目の前に居る浦原が例え夢でも構わないから、願うなら神様、流れ星様。今だけ、こいつを俺に下さい。浦原喜助を、俺に下さい。何度も何度も願った。 「もう、君を悲しませないから。ね、閉じ込めて独り占めしたい。お願いします、こんな貪欲で我が侭な男を、許して欲しい。」 何年振りかのキスをされた。 やっぱりおかしくなったって思ってくれても良い。 この瞬間にでもこいつと二人で星屑になれたらどんなに素敵で幸せなんだろうと、本気で考えて首に腕を回して抱き付いた。 5年前と同じキスを、 いったん誕生日おめでとう! 永遠の16歳ですね^^ 永遠の中二病ですね^^(お前だよ) 今年のベリ誕小説はちーっとばかし大人になった一護たんを書こうとして見事に玉砕かましちゃいました(最早日課) これでも二人を愛しちゃってるんです。二人共許せ |