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勝手ながら名誉の負傷

ガヤガヤと周りの雑音がやけに煩くて。不機嫌度は更に増幅していくばかりだ。
先生。飲んでいますか?
そんな声ばかりが飛びかって、愛想笑いも疲れてきた頃。

……酔ってんな。

先程から注意していた人物の顔が赤い。非常に、赤い。
あれ程警告したにも関わらず、周りのペースと挑発に案の定乗り、ぐでんぐでんになりながらも、本人曰く酔っていないそうで。


「ちょ、一護。お前大丈夫か?」
「ひゃい!らいじょーゆれすよ!あびゃらいへんへー」

ふへへ。
右斜め向かいの席に座り、あろうことか隣の阿散井に寄りかかっている始末。

「あら、浦原先生。飲んでます?」
「はい。もう十分に飲んでますよ」

苛立ちを隠しながら自分の隣に座った教員に笑いかけた。
ま。浦原先生がこんなんで酔うとは思いませんけどね。
ニコリと笑ったこの同期の教員は、一升瓶を空けながら言う。

…どっちがザルなんだか。

「…それにしても。一護は弱っちいわね」

松本は溜め息を吐きながらチラリ。ぐでんぐでんに酔っ払った一護を見て、それから意味心にこちらへと視線を寄越す。
参ったな。彼女は勘が鋭い方らしい。

「さて。それじゃあアタシはここら辺で。」

松本の視線を無視する形でグラスの中身を全て飲み干し、重たい腰を上げ、得意のスマイルを投げかければ。
えーっ、浦原先生もう帰っちゃうのお?
等と今年入ったばかりの女教員陣から黄色いクレーム。
ギャイギャイと煩く、困った様に笑えば、視界の隅で松本が嫌味ったらしく笑ったのが見えた。

人が悪いなあ、松本さんも。

心の中で溜め息を吐き、チラリと問題児を見る。(さてと)


「黒崎先生は相当酔っているみたいだ。アタシが連れて帰りますよ」
「……あ、浦原先生」
「阿散井先生は楽しくお酒飲んでいて下さいよ。折角の歓迎会なんですから」


くてん。と、阿散井の肩に頭を乗せて、すっかり泥酔している黒崎さんの体を引き離す。その際、少しだけ負け犬の表情が歪んだ。

(残念でしたね、阿散井さん)





「…うぇ、…み、水…」

バタン。
騒がしい居酒屋から少し離れたコインパーキングに向かい、停めてあった自分の車の助手席に黒崎さんを乗せれば。その反動で意識が半分戻った様で本人は酷く、気分悪そうに呟いた。

その酔っ払いよろしい発言に呆れを感じ、近くにあった自販機からミネラルウォーターを買い与え、車のエンジンをかけた。
取り敢えず今車を動かせば二次災害勃発しそうなので。
窓を開け、エンジンを切った。

ごくごく、隣で水を飲み干す音が聞え。
窓から涼しげな夜の風が吹いてくる。
ああ。それなのに、苛立ちは一向に治まらない。

「っはあ、…大分、良く…なったかも」
「………」
「浦原、」
「………」

隣を見ずに、胸ポケットから取り出した煙草に火をつけて大きく吸い込みながら吐き出す。

「浦原ってば」
「………」
「なあ、」

ツンツン。
無視を続けていれば、それが気に触ったのか。隣の彼がシャツの裾を掴み、自分を主張する為に引っ張る。

「……なに。」
「怒ってんの?」
「…別に」
「怒ってんじゃん」
「だったらなに。」

怒ってますよ。苛立ってますよ。良い大人の男が。これ、見よがしに。
だって、当たり前でしょう?
君、いくら職場の飲み会でもね。恋人の前で他の男とイチャつくのって、どうなのソレ。例え酔っていたとしてもだ。アタシは忠告しましたよ。あまり飲むな、って。
自分がお酒弱い事ぐらい、自覚なさいよ。(分からないくせに、)

「なに…って…」
「アタシが怒っているから何なの。その理由さえもあやふやなクセして。」
「うら…」
「アタシがなんで苛立ってんのか。君、分かります?」

アタシが味わった気持ちを、君は知らない。

「……俺が、酔って恋次に、」
「止めなさい。アタシの前で他の男の名前を呼ぶな」
「っ!…じゃ、じゃあ言うけどなっ」

急に声を張り上げながら、黒崎さんが叫ぶ。車内の中、開け放たれた窓から彼の声が漏れ出す。

涙を目にいっぱい溜めながら。

「お前だってな!お前、だって…っ、女の先生達に色目使われてニコニコして!酒注いで、ベタベタ触られて…っ!ま、松本さんは分かるけど!…他、ほかの人達は明らかにお前狙って、…て……うー、も。やだ…」

キョトン。
今の自分を表現するならこんな音が最適であろう。
目が点だ。
全ての自分の思いを出し切った黒崎さんはとうとう、泣き出してしまい。
ボロボロ、ボロボロ。
瞳から溢れ落ちた涙と、口から漏れる泣き声。

「お、俺が…どんな思いで…っ、そ、ひっく。…それ、見てた、と」
「一護…」
「あのな、…お前っ…俺は、お…男なんだっ」

綺麗な女の人には、負ける。だろう?
そう言った途端。アタシが女性陣に囲まれている姿を思い出したのか。一護はわんわん泣き出して。

「も…っ、だめ…っぜった、い渡さねえ……」

ひっく、う。うー。
しゃくり上げながら、首に腕を巻きつけ、一護が抱き付いてきた。
耳元に聞こえるのは。
小さなごめんなさいと、愛の告白。

「ごめ…っ、なさ……ぅ。好き、ら…はら…す、きぃ」
「…一護…アタシも、ごめんね。」

ごめんなさい一護、アタシは自分の気持ちだけ優先して。君の気持ちさえ後回しにしていました。
こんなに、好きなのに。
こんなに、君の事。愛しているのに。

「気付かなくて…辛い思いさせてしまって。ごめんなさい。ごめんなさい一護」
「ぅ、うー…っ」
「好きだよ。大好き」
「もっ、と…」
「好き。一護、愛してます。」
「もっと、…キスも、」

ん。泣き顔で睨まれて、唇を出され。その可愛さに笑いながら。
アルコールのお陰で普段より赤くなったそこに、貪る様喰らいついた。

「ふぁ…っん、ぢゅ、ん、んぁ」
「一護…一護…」
「や、んぁ…やめ、な…でぇ…っ」

素直なぐらい貪欲に求められて。
恥ずかしいくらい、お互い欲情する。
重なり合う唇から愛が溢れ、落ち。

ああ参った。


好き過ぎて、愛し過ぎて。
どうしよう……。





勝手ながら名誉の負傷


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