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New little happy,in the NEW YORK!


ニューヨークシンボルのヤンキースショップはタイムズ・スクエアの42丁目沿いにある。オープンしたばかりのショップに行列が出来て7時間待ちだとか、背番号31番のイチローユニフォームが店頭に並んでゴシップの一面を飾ったのはついこの間の事で今でもまだ行列を成している。観光客がうようよと、そしてニューヨーカーのヤンキースファンとフリークが一様に同じ格好で並んでいる姿を見ればなんだか宗教的じみて浦原は呆れ顔で店を通り過ぎ、隣の馴染んだコーヒーショップへ足を運び入れた。
MUDと大きく黄色いロゴで記された看板は何とも異質でニューヨークには不釣り合いな単語だが、ここはどこのコーヒーショップのコーヒーよりも重くて濃いから浦原は気に入っていて、仕事で疲れた夜には必ず立ち寄って濃いエスプレッソを飲んで帰る事を日課付けている。
さて、彼の口には合うだろうか。少しだけ不安にもなったが、これがニューヨークなんだし良いかと呟いてレジ上部にあるメニューを見上げた。
流石に、ニューイヤーズイブともなればどこも驚異的な混雑で身動きが取れなくなってしまう。仕方無いからテイクアウトして寒空の下でコーヒーを飲むのもこれまた乙かもしれない、浦原は腕時計を見ながら列に並んだ。
ブブブ、ブブ。ジーンズのポケットで唸るモバイルフォンのバイブに気付いて取り出してから新着メールのフォルダを開いた。
"モカがあったらモカで"
たった一文だけども彼が寒空の下で震えながらも懸命に打ってる姿が想像出来る。早く買って彼の手を温めてあげなきゃ、そんな思いにも駆られる様に忙しなく列に並んだ人をレジ前から数えてみた。
ワン、ツースリー、フォーファイブシックス、セブン…エイト…。9番目、まあまあか。これがレストランやバーになってしまえばもっと行列が出来ている事だろうと踏んでメニューを見ながらメールを打ち始める。
あ、ホットチョコレイトとかもあるんだ。
普段なら見る事も無いメニュー下部にはHotChocolateと記されていた。コーヒーよりも割高だが一応、と彼に報告してみる。
"ねえ、ホットチョコレイトってのがあるけど?"
返事は直ぐに返ってきた。
"yeah!それじゃあホットチョコレイトで!"
メール画面越しに彼がガッツポーズを決めてる姿が安易に想像出来て面白い。短いメールのやり取りを続けて数分で列は数を減らし、とうとう浦原の番になった。

「hi」

馴染みの店員が仏頂面で忙しなく片手を上げてみせる。彼の顔には"忙しいこの日に限ってお前のニヤケ面なんて見たくない"とあからさまに書かれているから浦原もハイと一言挨拶して笑う。
浦原の笑顔をスルーし苛立った声で注文は?いつもの?と聞いてくる。

「いつものをホットでひとつ。あとはホットチョコレイトと…Umm…チーズケーキをひとつ」
「は?自殺する気か?」
「声、おっきいですからねコクトーさん。僕が食べるんじゃないから」

唇に人差し指をあてて声のヴォリュームを抑えろと示してもこの男が素直に聞き入れる筈も無く、忙しなく指でレジボタンを押しながらああ?と柄悪そうに答えた。

「ああ、あれか!LA野郎か!」
「だから!なんでさっきよりも声がおっきいんすか!」
「子供舌だな!そんで!?ヤツは!?」
「お前…良い加減にしろよ…ウルサイ…」

レジ前で叫ぶ様に会話を始めた男を周りの客が集中する。ヤメロ恥ずかしい…浦原が眉間に皺を寄せればハハと笑ってニューヨークジョークだと言ってのけた。そんなジョーク知らないし、それはただの嫌味って言うんだ。浦原が続ければまた豪快に笑う。

「たち悪いっすよコクトーさん…」
「忙しい時に知り合いの顔が見れたらテンションあがんねえ?」
「あがんねえっス」

即答した浦原を面白くなさそうに見たコクトーの傍でバイト生がおろおろとうろついた。オーナー、ウルサイです。バイト生からも苦情が出た目前の男に対してIt Serves you right!と小さく言えばニンマリとあくどい笑みを見せられたから嫌な汗が背中を伝い落ちた。

「みんな!さっきはすまなかったな!でも聞いてくれ!今日俺のダチが…後少しで来るハッピーニューイヤーにプロポーズするんだ!成功する様にエール送ってくれ!」
「なっ!」

先程よりも更に大きな声を出し、店舗中に、いいや下手したら外までも響いてたかもしれないコクトーの声に客もクルーも全員が一斉に浦原へと視線を向けて歓声を上げた。
ガンバレよハンサム!だとか、あなたならきっと大丈夫だわとか様々な声援が周りから響いてきたのに対して会釈しながら浦原はコクトーへと笑顔を向けた。

「お前、あとで憶えてろよ」

これで失敗したら全部お前のせいだからな、手渡された紙袋をブン取った浦原にハハとまた笑って俺の前祝いだと人の良い笑みで応えた。

「やっすい前祝い!」
「そうムキになんなよ。ま、ガンバレや」

彼なりに応援しているだろう事が分かったが、それで絆されると思うなよときつく睨んで未だ鳴り止まないエールを背に店を後にした。

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