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マンハッタンでディナーを


毛並みの綺麗なノラ猫を拾った。ひょんな事から拾って家に置いて2年が過ぎようとしている。
月色の髪を持って垂れ目が印象的で綺麗な猫。
拾った時には酒臭いわヤニ臭いわで大変だったけど風呂に入れた途端に毛並みが良いんだと判断した。髪の毛は人工的で安っぽい金髪ではないし、瞳のグリーンアイズが上品で肌も日系人のそれとは違うきめ細かさだった。白い肌、焼けてないんだなと言えば焼けないんですと困った風に笑う。声も凄く質が良く透き通る様な低い声を持っている。笑った時に出来るえくぼが冷たい印象から一気に暖かみある物に変えてくれたから一護は彼の笑顔が好きだった。

専務、専務。ヒステリック気味に呼ばれて銀色のメガネを頭にかける。金髪ロングでウエーブがきつくかかった髪を一束にまとめて、シャネルの香水を仄かに香らせた松本が眉間に皺を寄せた面持ちで仁王立ちしていた。
一護はその面持ちを見て小さく溜息を吐き出す。目を通していた資料のその横、デスクに置かれた小さなデジタル時計が午後15時を示そうとしていた。

「松本さん…あのさ、俺」
「専務!なぜ今日のスケジュールを勝手に調整したんですか?」

うわ、バレるの早い…!
秘書課のトップ、そして常に一護のスケジュールを管理している松本は綺麗な顔を歪めて手に持っていたぶ厚い手帳を顔の横で振ってみせるから余計に青ざめてしまう。
ラスボスここで登場。心中で毒吐いてメガネをかけ直す。

「予定入ってさ…」
「15時から?」
「はい…」
「会長との食事を蹴ってまでの重用な予定ですか?」
「いやあ…って言うか山爺には断り入れたって!」
「はあ?私に何も通さず?勝手に?」
「いや…あの、松本さん…マジ怖い…」

カツカツ、黒のピンヒールが綺麗なフローリングを傷つける様に音を鳴らして近づいてくる。バン!と大きな音を立ててデスク上に叩きつけられた手帳はジーニアス辞典と同じ分厚さの様な気がする、ところどころにはみ出した付箋が色鮮やかで彼女らしいと思ったのもつかの間、直ぐ目の前まで迫った美人な顔がメンチ切ってきたので背中から冷や汗が吹き出てきた。

「誠に…申し訳ありませんが、今回ばかりは…見逃して下さい」

俺、専務なのに…なんてのは彼女には通用しない。いつの時代でも女が一番に強いのだと男は遺伝子レベルで知っているから我の強い美人は苦手なのだ。アイツも時々怖いよなあ、だなんて脳内は既に違う人物に切り替わっているが目前の美人の視線から逃れられずにホールドアップをして降参の意を示した。

「15時半までは書類整理で、サイン貰っていないのがあと何件かあります」
「はい…ありがとう」
「あと、詫びとしてはジャンポールのマロンコンフィでお願いします」
「…取り寄せておきます」

ありがとう専務、とにっこり微笑んだ彼女に引き攣り笑いを返してデジタル時計を見た。
現在時刻15時ジャスト、溜息も出やしない。


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あきゅろす。
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