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初心って事は知っていた。
見た目を裏切ってクソ真面目、家でも学校でも良きお兄ちゃん気質な彼がこういう色恋沙汰に不慣れなのは百も承知だった筈なのに。
ふむ。数秒だけ触れ合わせた唇を離しながらちょっとだけ考える。
これは…。
顔も耳も首元も全てを真っ赤にさせ、震えた眼差しを浦原へと送る一護を見て参ったと思う。
早かったかなあ。でも、最近では彼から手を繋げる様になる程度には進展はあった筈だし。お付き合いを初めて早5ヶ月、そろそろこちらから手を出しても良い頃合いだと踏んで唇を奪った。けれど彼の中ではまだ心の準備とやらが行われていなかった様だ。
拒否を示そうとして震えた左手首をそうっと掴んで人差し指で掌を撫でる。ツツーっと掌の皺をなぞる浦原の指先が更に一護の羞恥を煽った。
先程まで普通に話していたのだ。学校の事、友人の事、家の事、最近妹がやたらませてきて大変だの。本当に普通の話をしていたし、これといってフラグが立った訳では無い。
ただ、縁側に座って春の風を受けていた二人の間にそよ風に乗って花弁が落ちただけ。何の花かも知らない綺麗で淡い桃色の花弁。ふわりと音も無く落ちた花弁を見てなんとなく風流だなあ、って思った矢先の出来事だった。

目前に出来た影にふと視線を上げた瞬間、自然に落ちてきた唇は少しの冷ややかさを残してすぐに離れた。
え?
最初は何をされたかも分からない程の軽い接触。
間近になった浦原の瞳は薄いグリーンがかかった金色でその時初めて知る事となった。あ…少し緑も入ってるんだ。
胸中を占める様になった男への感情を自覚してからは一度も、こうしてマジマジ見る事なんて出来なかったから勿体無いと思う。もう少し早めに知っておけば良かったと思えるくらいは綺麗だった。
浦原の瞳に釘付けになった一護の琥珀色した瞳を見て浦原は再び口づける。唇と唇を触れ合わせ、尖った口先を軽く吸うとなんとも言えない音が生まれる。
ちゅ、その音が合図だと言わんばかりのタイミングで一護の顔は真っ赤に染まったのだ。

「…、…へっ?」

浦原はここでしまったと思った。
僅かな隙間を狙って入りこんだ風と名前も知らない花の花弁がGOサインを出したと、彼は彼なりに感じたからだ。まさか、ここでキスをされるとは思ってもいなかっただろう子供を前に少しだけ挙動不審気味に目を泳がす。

「あー……フラグが、立った。と…」

それでも二人の距離はこれ以上遠ざかる事も、近寄る事も無い。
触れるか触れないかの距離に唇と唇があって、声と吐息が一護の口端と頬を撫でた事。そして掴まれた手首に触れた温度によって感情が一気に溢れ出した。
ぼわ!とも、ぶわ!とも。なんとも言えぬ恥ずかしい音だ。

「ば、っ!馬鹿ッ!」

結局、振り絞って出した言葉はとても子供じみていて浦原の眼をきょとんと丸くさせる。

「いや…うん。ごめんなさい…」
「あ、謝るくらいなら!…ちょ、どけっ!お、おお俺、か、っかえ」
「ごめんなさい。帰せない」

あーこれ、ヤバイ。
顔だけじゃなく、きっと制服下の体も全て赤いだろうと思えば歯止めが効かなくなった。
近づきすぎた浦原の肩を押しのけた腕も取りながら浦原は言う。額と額を合わせて瞼を閉じてみればグっと喉を鳴らした一護の戸惑いが色となって瞼裏に浮かんだ。
もう少しこのまま。否、本当ならもっと深い口づけを。
子供は知らないかもしれないが、大人だって困惑の真っ只中だ。どっきどき、唸る心臓が外に漏れてしまいそうで浦原は苦笑を抑えきれない。
なに笑ってんだよ!
調子を取り戻しつつある一護の叫びを聞きながら再び口づけ、甘ったるい時間を呼び寄せようと柄にもなく丁寧に、そして優しく慎重に口づけを深めていった。

























スプリングキッス




あきゅろす。
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