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土砂降りの雨だ。スコールがかった世界は霧状の雨に包まれてグレイに染まり視界を悪くさせる。
墓地に埋まった哀愁を全て掻き消し雨の香りだけをただただ地面に備え付けた。まだ午後の時間だと言うのにこうも暗いとなんだか憂鬱な気持ちにさせるので、脳内でお気に入りのジャズをリピートさせ、一護はすうっと息を呑んで静かに吐く。
グレイの世界に真っ黒い傘が二本。
大の大人一人分の体をすっぽりと包みこむ大きな傘だ。肩も濡れる事がなければ膝下を濡らす事も無い。けれど土砂降り雨にやられちまった地面はぐちょぐちょで皮靴を強かに汚していた。
ひゅっ、一瞬の隙を男が見抜き傘を投げ出して左手に持つステアーのセイフティを外し銃口を向けたと同時に一護も傘を放り投げ、コートの内側から取り出したグロックのトリガーを躊躇なく引く。
タン!軽い音が辺りに響き静かなる墓地を揺らした。
男、浦原の頬を掠めた銃弾は灰色の世界に飲み込まれ雨の中に消えた。
今度は男の番だった。横に逸れた一護の体、足元に銃口を合わせてトリガーを引く。一護の瞳を真っ直ぐ見据えながらに打つのは男の悪癖であり、コヨーテと呼ばれる所以でもある。
狙った獲物は食らいついて息の根を止めるまで離さない。皮膚を突き破り肉と骨を断つ牙はどんなに抗おうとも抜けやしない。浦原喜助はそうやって闇の世界に食らいついて生きてきた男だ。

さああああ、スコールが小雨に変わりより一層世界を煙たくさせる。
計二発の射撃音と銃弾が地面へとめり込む。まだ、雨が止む気配は無く、目前の男の殺意も失せる兆しはない。一護はとにかく笑いたい気持ちになった。
金色の瞳がギラリと光るのを見逃さなかったからだ。奴は本気で自分の命の終焉を望んでいる。堂々とした殺意にぶるりと肩が戦慄き、再度マズルを浦原の額に当てて引き金を引く。
パン!一発。一護の指が引き金を引くと同時に動き重心を右へ逸らしたせいで弾は外れた。
パン!二発目。これも失敗、コヨーテの速さに人間の動体視力が敵う訳が無い。
パン!パン!三発、四発。無我夢中で引き金を引き銃弾を浴びせ、近づいてくる獣の腹部を射止めたのは最後の一発だけ。

「っ!!」
「や、めなさい!」

あ、と思った時には既に右手を捕られていて、目の前には美しく光る金色があった。
雨で前髪はべったり張り付き、瞳を覆う睫毛から滴るのはきっと雨で決して劇的な涙では無い筈。雨に体温を奪われた左手は外気よりも冷たく一護の肌に傷をつけた。
お互いずぶ濡れの濡れ鼠状態だ。
真っ黒いスーツも、ズボンも、髪の毛も、頬も、傷痕も心も精神も何もかも。土砂降りの雨によって酷い具合に濡らされていた。
間近に迫った金色が歪んだ瞬間、コヨーテと呼ばれる男の心中が垣間見れた様な気がして一護の心は盛大に震えあがる。どうして、浦原。そう思って切に願うのに男は愛銃を地面へと落とし、代わりに冷たい唇を寄せ一護の唇を奪った。
冷ややかな雨が唇につく。冷ややかな唇が唇を撫でる。

「嫌だ」

か細い一護の声はグレイの世界には届かない。

「一護さん」

どんなに避けても雨は体を包むし冷ややかな唇は離れようとしない。どうして世界はこんなにも冷たくモノクロなのだ。問いかけたいのに侵入してくる舌先が声を全て奪いそして飲み込む。答えてくれそうにも無い男の首筋にそうっと両腕を絡ませて抱擁を強請った。
一護さん、一護さん。
浦原。浦原。
脳内でリピートされるジャズは物悲しいチェロのソロでフェードアウト。
土砂降りの中、キスを繰り返しお互いの呼吸を奪い合い、そして酸素を与え合った。





























CALL ME CALL ME(レインボーのかかる世界を頂戴)




あきゅろす。
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