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おいおいおいおいふざけんなよ。
久しぶりに頭の血管がぶち切れる思いを味わう。こんなのは学生時以来だったからついつい表情に浮かべてしまった感情を指摘されて更に気分を害した。
なんだその目は。
生徒指導員に言われた事を思い出す。それと全く違える事なく言われた台詞。
3日だ。3日間貫徹を貫いて作成した資料。しかも直属上司が犯したミスの尻拭いだと言っても過言じゃない仕事だった筈だ。手前のミスを認めず部下に押し付け、死に物狂いでミスを訂正し始めから組みなおしたカリキュラムの資料に目を通す事なく「やり直し」のたった一言だけ。その一言が欲しい為に受け持った訳じゃない、決して褒めて貰いたい訳でもなかった。元来負けず嫌いな性格の為、手前のミスを3日分の睡眠を切り捨てて片付けるんだからな!の一心でやり遂げた仕事だっただけに反動は大きい。
なんでやり直しとか平気で言える訳?
どっこもミス一つねーし、つーかお前のミスを直す為に最初っから組んだんじゃん。前のカリキュラムと多少の違いはあっても組んだスケジュール通りには事を運べるし予算もギリで抑えた。これ以上何望んでんだよオッサンよ。なら手前がもう一度やれよミスひとつ無く全部完璧に作れよ。
心中荒れ狂って眩暈さえ起こしてしまいそうだ。

頭から浴びたシャワーの熱湯は身体を芯から温め気持ち的にもさっぱりさせてくれる。くれるがしかしこの憤りは一体どこで吐き散らかせば良いのか。上司のあの目を思い浮かべただけでも腸が煮えくり返るので、先程から目前の壁を殴りつけている始末。いつ隣から苦情が来るか知れたものじゃないしその前に穴が空いてしまいそうだ。それくらい、一護は怒り狂っていた。
くそムカツク…っ。
ガン!5回目に振り上げた拳がクリーム色の壁を殴りつけた。



玄関前。開いた扉に肩を預けて腕組をしている男から目線を反らし、ちょっとだけ唇を尖らせる。パジャマ代わりのネイビー色のスウェットに黒いロングTシャツを着た状態、そして皮のサンダルを足に引っ掛け風呂上りだとバレバレの格好で立っては何も喋らない一護を見て男は片眉を綺麗に持ち上げた。
少しだけ不穏な空気。来る時間帯を間違えてしまった。
しまったと思って出直す事はもう出来ないし、謝っても男の機嫌を更に悪化させる事になるのは分っている。
浦原は甘えを許さない。他人にも自分自身にも厳しい男で、一護の部屋の階下、そして一番端の部屋に住んでいる。一体いつ頃からご近所付き合いが始まったのか。既に思い出せないぐらい過去だが、今は胸の内に沸々とこみ上げてくるドス黒い感情が一護を支えていたし支配していたから敢えて考えない。浦原の機嫌が悪かろうがなんだろうが。
今日だけで良いから。

「なに?」

低く冷たい声が落ちてくる。浦原は言葉を投げつけるように発するから、こういう時の浦原との会話は心臓に悪い。

「…ちょっと、充電さして」
「は?」

不機嫌そのものな浦原の身体を押しやり、同じく自分も玄関へと身体を滑り込ませた。後ろ手に扉を閉めたと同時に抱きつく。
ガツンと大袈裟な音を立て、体制を崩してしまった浦原が壁に頭をぶつけたのだと知る。一護はそれでも抱きつく腕を離さずに胸に顔を埋めたまま小さくごめんとだけ呟いた。

「……ちょっと、」
「今日だけで良いから。充電。」
「充電って…」

後は抱きついたまま力を込める。一護よりも身長が高い浦原からは旋毛しか見えない。静かになった一護を見てハアと聞こえる様業と溜息を零した。
諦めて一護の背に腕を回す。回った両腕にホッとしたのか、浦原の腰に回した腕が更に力を込めて浦原を抱き締めた。少し、息苦しい。
何があったの?とは敢えて聞かない。彼の問題は彼の問題。解決するのは彼自身で自分では無い。この考え方は恋人に対しては少々厳しすぎやしないか?と一度知人に言われたがそれこそ自分達の問題であり、他人には関係の無い話しなのだ。甘やかすだけが愛ではない筈。
息を短く吐いてそろりと背中を撫でる。シャンプーと石鹸の香りがブワリと鼻腔を燻る。半乾きであろう湿った髪の毛に軽くキスを贈ればぎゅうっと抱き締められる。仕返しと言わんばかりに浦原もぎゅううっと力を込めて抱き締めた。

「……よし!充電完了!夜中にごめん!助かった!今度何か作る!」
「これで終わりで良いの?」

顔を上げて腕を解き、身体を離した一護を眺めて言う。
苦笑した一護が玄関の扉を開けた。

「でーじょーぶ!」

もう十分補給したと雄弁に語る琥珀色がニカリと笑んだのを最後に背中を向けて部屋へと戻っていく。後姿を見送りながら「ちょっと、残念」とニヒルに笑みながら小さく呟いた。



















甘くない関係




あきゅろす。
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