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その目に口付けがしたい。猟奇的な思考がぶっ飛んだ意識内、睡魔との間に割り込んでくる。と言うのも、瞼を開けばあの金色だか緑色なんだか分らない不思議な色彩が目の前にあったからだ。

「…なに、見てんだよ……」

寝起きだから声が極端に低く掠れているのを自負する。なんだか恥ずかしい……。こうして寝起きにかち合う瞳と瞳が、自分の琥珀色だけが気恥ずかしそうに伏せられているみたいだ。

「寝起きの声、初めて聞いた。……とってもオトコノコっぽい声っスね」

左頬にかかる髪の毛をさらりと梳く指先は細くて長い。爪だって一護の爪とは違う。先に向けて細く伸びている所謂竹爪ってやつ。
膝をついて枕に右頬を埋めた浦原は微かに笑った。とても、ドキリとする。
夢にまで見るあの金色の瞳が目の前に。昨晩見た瞳の色はギラギラと光り、そして濡れていた。迫る快楽と羞恥に思考はドロドロだったけれど、一護を見つめる金色は欲を含みながら潤んだ。とても甘いなあ、だなんて思った。浦原の蕩けそうになる激情に身体の奥が感じた。

「……掠れてんだよ…、」
「その掠れ具合がとても良い」

浦原の声も少しだけ掠れて低い。低いのに、なんだか自分とは違った低さだ。掠れた甘くて低い声は直接下肢に響く。
不意に、低くて掠れた声に比例してゆらりと蠢いた金色が甘く光った気がした。

「あんたの目、とっても甘そうだ」
「……初めて言われた」
「…そうなのか?……じゃあ、俺が初めて?」
「うん。……君が初めて」

そっか。なんだか嬉しくなって急に浦原を抱き締めたくなった。一護はこんな気持ちになるのは正真正銘初めてだし、男なのに同性を好きになったのも、愛しいと思ったのも、触れたいと思ったのも、心が欲しいと思ったのも、混ざり合いたいと思ったのも何から何まで初めての体験で、溢れ出した欲求は一日一日増していっては心を痛めつける。欲しいんだあんたが。言葉に成して想いを放った時のあの恥ずかしさと言ったら無い。もうこの先きっと、この男以外に有り得ない持ち合わせた感情が再び熱を上げて一護の身体を巡った。激しい熱が循環する。
きゅん、と胸が鳴ったと同時に一護の琥珀色は歪んだ。まるで眩しい物を見る様に顰めた瞳に浦原の心臓もゾクリと唸った。
どうしたの、そんな顔。浦原は言葉にしないで触れた頬、その指先から体温として伝われば良いと思った。
目尻に触れて頬を引っ掻く様に線を引く。歪曲した触れた方がくすぐったい。真っ直ぐに見た金色が甘くて心がくすぐったい。

「舐めて、良い?」

昨晩の秘めた夜の名残を含んだ金色は、一護の前でとろとろと蕩けて甘ったるい香りを発するからそう言わずにはいられなかった。ハっとして口を噤むも、音となった想いは浦原の鼓膜を劈き視界を歪ませた。その歪な揺れ方も甘く見せる要素のひとつとして色になる。
とても甘く仕上がった金色。鼈甲飴の様な容赦ない甘さが脳裏に反映されて一護はゆっくりと手を伸ばして目尻へと指先を触れさせる。冷ややかな白い肌の上を撫でた指先は温かく、睡魔を引き寄せる。
されるがまま、浦原は子供体温に身を任せていた。

「……あったかい」
「…子供体温って言いたいんだろう」
「はは。……ねえ、もっと触って」

急に低くなった声色にどきりと心臓が高鳴った。
伏せた瞼を緩慢に開き、隙間から覗く金色が一護の目を射抜き押し潰そうとしている。浦原は一護の事を眩しいと言ったけれど、どちらかと言えば彼の方がより眩しいのだ。
月の色と酷似する儚い色彩は瞳を内側から潰して、心の裏側にもひっそりと傷跡を残すみたいに色彩を埋め込む。とても厄介なのにやはり甘いと思ってしまうのはこの男に心を奪われたからだろうか。途端に寂しくなった心がか細い悲鳴を上げた。
ねえ、もっと触って。呟かれた言葉が毒となって一護の狂気を育てる。
嗜虐心にも似た慈しみの心が乱暴に泣き喚いた。

「…食べちゃうぞ…この野郎…」
「じゃあ残さず最後の一滴まで咀嚼して」

卑怯だと思ったのは発せられる言葉全てが痛々しい程の狂気を秘めていると言うのに、甘い瞳は変わらず揺らめいているから始末に終えない事だろう。
一護はグっと息を飲んで甘い要素をふんだんに含んだ瞳に唇を近づけていった。















甘くて白い狂気




あきゅろす。
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