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「ねえ」



「ねえ」

奇妙な感覚だなと思った。飛んでるんだか落ちてるんだか分からない、重力に逆らいっぱなしの体から力が根こそぎ取られていくみたい。浮遊感。きっとここは海の中なんだと夢ながらに思う。
リアルな感覚はそのままで声だけは甘いなんて反則だと思う、あんたいつもそんな風に笑いながら猫なで声出すよな。目の前で笑いかけた男にそう言ってやりたいけれど不思議な事にこの夢の中じゃあ俺は一言だって声を発せられない様で。応えてやれないのが凄く歯がゆくて唇を噛んだ。

「ねえ、君はいつだって不機嫌な顔で我慢しますよね?」

なんだ我慢って。

「ねえ、アタシにして欲しい事、本当はあるんじゃないスか?」

別に…あんたにこれ以上望んだ事なんてないよ。

「ねえ、アタシらってどういう関係なんでしょうかね」

なんだよあんた、何か不満なのかよ?

少し悲しげに、困った様に笑いながら浦原さんは頬に触れる。俺がこんな風に不機嫌な時はいつだって優しく触れる。まるでガラス細工でも扱う様に丁寧に、その冷たい手で触れる。(別に…そう簡単に壊れる訳でもないのに…)夢の中でくらい人間的な体温持っていても良いんじゃないのか?

「ねえ、」




結局、夢から覚める時なんてのは必ず大事な部分を削って脳が覚醒するんだ。とても大事でそれでいて切なくて苦しくて、夢の中では感じない感情が目覚めてから思い出した様に心臓を痛めつけるから。正直、浦原さんの出る夢は見たくないんだ。

目の前にある浦原さんの寝顔を見てほっとする。少し触れた指先から伝わる暖かな温度に安心する。
なあ、あの時なんて言おうとしたんだよ。
声が出ない。だってそうだ昨晩はあんなに乱れたのだから。オッサンは年甲斐も無くいたいけな未成年の体を弄ぶ。少しくらい手加減してくれたって良いのに、この人は毎度毎度、全力で俺を愛する。
なんか歯がゆいな。

「…ん………はよーございます、」
「……あけおめ」
「?」
「明けましておめでとうの略」
「ふ、………ことよろ」

まだ眠たい様な声で、目を細めて頭を撫でる。本当にガキ扱いが好きなオッサン。

「略すなよ良い大人が」
「えー……一護さんもじゃないー」
「まだ未成年でガキだもん」
「……もんって……可愛いなぁもう…」

ふふ、笑う度に浦原さんの吐息が額を掠める。くすぐったい。モゾモゾと大人しく腕の中に収まって、胸に耳を当てるようにひっついた。トクントクン。作り物の体でもちゃんと心臓は機能しているらしく、この男の手は人間さえも作れてしまうのだから少し恐ろしい。いつだったか神になりたいの?って聞いた事があるけどそれはやんわりと否定された。

「どうしたの……、甘えてるの?」
「…………」

ここで怖い夢を見たと言ったらきっとこの男はにまりと嫌味ったらしく笑うに違い無い。だから不恰好にも首を横に振るしかできないのは俺がまだまだ子供だからだ。それくらいの逃げ道は用意していて欲しい。

「ねえ、」

突然、夢と同じ台詞を甘ったるい声で言われたものだから自然に体がビクリと動いてしまう。全く、夢の中と言い、反則な声をお持ちで。一体何人の女を泣かせてきたんだよその声は。

「今年も宜しくね、一護さん」
「…………おう」

ふふふ、柔らかく笑んだ後、抱き込む腕に力を込めてより密着した肌と肌から分け与えられる温度が心地好い。
この温度があればきっと俺は大丈夫なんだ。どうぞ今年も宜しくお願いします。作り物の心臓にお礼を言う様にそうっと口付けた。











飛びぬけて幸せではないけれどまどろみの中で貴方に会えた事は少なからず幸福な事なんだろうと思ったんだ。



◆新年明けましておめでとうございます。どうぞ今年も不束な者では御座いますが宜しくお願い致します。
と言うわけで何の変動もなく2010年が来ましたね。皆様このクソ寒い中どうお過ごしでしょうか?私、大晦日には爆睡かましておりましたよ。ほんっと眠るの好きだよね自分。地震来てもびくともしません。少し自慢です(なんだソレ)
ってな訳で正月小説ですが…いまいち一護が掴み取れないです凹。あの子って夢とかに魘されそうですよね。なんか極端なトラウマを飼ってしまったが為に大切な人程離れていって欲しくない。そんな感情が先走って夢オチで自分勝手に暗くなりそうな……あらあら思春期特有のアレですね。ちょっとそんな一護を目指して玉砕しました(笑)
これからもこんな一護と浦原様が繰り広げる恋愛小説(書いてて恥ずかしくなった単語←)ばかり書くと思いますがどうぞ今年もhyenaを宜しくお願いします^^


meru






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