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ギャンブル的恋文の書き方。



あー!兎さんだ!幼子の甲高い声が耳に入り浦原の足を少しばかり留めた。

「兎さん兎さん」
「……アタシの事をお呼びで?」

黒の足袋についた砂埃が分る程度に明るい往来の場所で留まるのはあまりよろしくない。浦原は近付いてきた子供との距離を適度に取りながら胴乱をそうっと後ろへ隠す。

「おいちゃん達の事を兎って呼ぶんだよっておっかさんが言ってたよ。ねえねえ、凄く早く走れるんだよね?だって兎さんだもの。走ってみせて」

こちらが気後れしそうになるキラキラとした眼差しを真正面から直接受け、浦原の口角はヒクリと苦々しく引き攣り上がった。



ギャンブル的恋文の書き方。



アハハハハ!先程から愉快な笑い声を上げ、終いには笑いすぎた為に腹を痛めるこの体たらく。
茶を啜りながら、隣でヒーヒーハーハー唸っている家主を放置し浦原は空を煽いだ。ああ、なんて快晴。穏やかで活気溢れた空の青さときたら。こちらの目ん玉をぶっ潰す勢いだ。
燦々と照る太陽が目に痛くて顰め、出された茶と茶菓子を交互に頬張り飲み、懐から煙管を取り出した。

「頂いても?」
「ははははは!は、腹、……いてええ……ハ、ははっ」

とうとう身を屈めて腹を押さえ始めた。それでもまだ笑っている。流石にこれはしつこい。

「……先生、勘弁してくださいよ本当、……まさかそんなにドツボ嵌るなんて思っちゃあなかった」
「だって、…だって、おま、お前!…うさ、兎って!お前が、兎って!!」

自身で発した単語に再び反応して蹲りながら笑う。
こうなってしまっては飽きるまで笑い続けているだろう。笑う角には福来ると言うが、笑いすぎると副も引いちゃいますって先生。浦原は内心毒吐きながら煙管に火を落として二三度吸い込んで吐き出した。
くゆりと揺れる紫煙が青空に良く映える。年収めに降った雪はもう溶けてあちらこちらに水溜りを作っては模様を描いている。とても穏やかな冬の午後。

「はあ……笑った笑った。……面白い話しを聞いた。こりゃあ今年は安泰だな」
「そんな、他人様を笑っておいて安泰だなんて。先生、罰当たりますって」
「お前だから良いだろうよ」

煙草盆に放置されていた延べ煙管を取り、浦原と同じ様に火を落としては些か深く吸い込んで吐き出す仕草を見せる。
橙色の、目を剥く様な色彩が冬の太陽に晒されてキラキラと綺麗。時々、光りを余分に吸収してしまったその色彩が放つ光りが目に痛い。
浦原は眩しさに堪えかねて片目を瞑る。

「で?今日の分は?」
「……注文書が5枚に、書状が2枚と手紙が1枚」
「なんだ面白くねーな……ほとんど仕事の件じゃねーか」
「売れっ子先生なんだ。仕方無いでしょうに」

頬に空気を入れて膨れっ面を作る。その頬を人差し指で押す。柔らかくて暖かなほっぺの感触が指の腹に残って離れがたい。

「で?手紙ってのは誰からだ?」
「さあ。ご自分でお読みなさいよ。じゃあアタシはこれで」

カンッ。と小粋なくらい演技がかった音を鳴らして灰は煙草盆へと落ちる。
ご馳走様と一声かけて立ち上がれば若干揺れた琥珀色を横目で見定め、クツリと小さく喉を鳴らした。

「…もう、帰るのか?来たばっかだろう」
「まだお仕事が残っているんで。兎は年初めが大忙しなんです」

茶化して言えばふふと笑われた。その柔らかい笑みが心地好くてもう少しだけ居座っていたいが、地面をぐっと踏み感情を抑える。

「では、先生。また暇あ見つけたら伺います。慌しくってすいませんねえ」
「いや。大丈夫。いつもご苦労様。また気軽に来いよ」

待ってるから。そんな打算的で甘い言葉は出てこない。しかし雄弁な琥珀色がそう言っているのを知っているから浦原は右足で思いっきり地面を蹴って駆けた。
背後で残念そうな溜息が聞こえたがそれも渡した手紙を見たら杞憂に変わるだろう。
兎と呼ばれた男のささやかな想いが記載された手紙を貴方はどう解釈するだろうか。今度伺った時は貴方はどんな顔でどんな仕草でどんな言葉で出迎えてくれるだろうか。
賭けにも似た密やかな文字が、想いが、こうも浦原の心根を揺さぶる。
雪が溶けて水と化した水溜りに真っ青な空が映し出され、そこを飛び越え駆け抜ける黒兎の姿を瞬時に捉えては画にして空へと飛ばした。













◆A Happy New Year!!!!明けましておめでとう御座います!無事に年を越せた事に感謝感謝。
旦那様の誕生日に引き続き年越しの小説でも書こうか、いやいやここはちょっと間を置くか。と思っていたのですが今年は兎年だと知り直ぐにファンタジー甚だしい話しを思い浮かべたので妄想を吐き出しながら書きました。もうね、浦原を兎って呼びたくて仕方なかったんですよ(笑)
本当は思いっきり夢あるファンタジーを書こうと思ったんですがちょっと夢見すぎたので似非江戸っ子飛脚浦原と売れっ子画家一護でお送り致しました。恋文って良い言葉ですよね。ラブレターよりも泥っぽくて生臭い感情が詰め込まれていそうでもっぱら恋文と表するのが好みです。
皆様の一年が良い年でありますように!!ラブを込めて!!
今年もhyenaと妄想管理人meruを宜しくお願い致します。

2011/01/01
hyena:)meru




あきゅろす。
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