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歌うたいを生業とする男だけれど、それなら普段、甘く弾き語りをしているのか?と問われたらそうでもない。
男は驚く程寡黙である。


「…なにしてんの?」
「んー……紅姫と睨めっこ」

あ、そう。一護は別段興味なくそう呟く。
久しぶりに浦原のオフが取れた事で何をする訳でもなく彼の部屋でくつろぐ。お互い、やる事と言えば雑誌を読んだり、ペットである蛇に語りかけたり。
と言うか蛇と睨めっこって……どこまでお暇なのかしらこのアーティスト様は。一護は淹れたての珈琲が入ったマグカップに口つけながらその後姿をぼんやりと眺める。
はね放題の髪の毛がゆらゆらと揺れている。良い天気だから空気の入れ替えに窓を開けた為に入ってくる秋風に揺られてその金色はさやさやと揺れる。テレビで見るのとは少し違う色彩。もっと明るかった筈なのに…今ではススキの様に枯れた色彩を生み出す。

「…なあ、」
「んー?」
「今日、夕飯とかどうすんの?本当、どっこも行かなくて良いのかよ?」
「んー……」

一護さんはどっか行きたい?
振り返らないで逆に問われた。まるで覇気の無い声だな。そう思って、溜息ひとつ。

「や……俺は別に……」

あんたと一緒ならどこだって良い。そんな臭い台詞は喉奥で殺して飲み込んだ。

「……ふーん……じゃあ、家で作って食べましょうか?」
「良いけど…作るにしても明太子パスタしか作れねーぜ?俺」
「うん。君の明太子パスタ好き」

よっこらしょ。爺臭い立ち方で腰を上げた浦原は、一護が座るソファへと近付いてその隣に腰を下ろした。

「……なんだよ?」
「んー」

一護の肩に額を置き、足で挟むようにして一護に抱きつく。メディアでは抱かれたい良い大人の男性像として注目を浴びている彼ではあるが、一護の前になると途端にその仮面をひっぺがえして駄目な大人の代表となる。とても、子供っぽい彼。

「……おい。浦原……俺、読書中」
「へー。最近の大学生ってこんなファッション雑誌見るんスね〜」
「っ!おい!」

ひょい。そんな軽々しい音が鳴るみたく浦原は一護の手から雑誌を奪った。
耳元で囁かれた低音が少々、嫌味ったらしく聞こえたので一護はすかさず眉間に皺を寄せて睨みつける。

「一護さん」

先程とは打って変わって見せた真剣そのものな金色が目の前にある。ドキリ。大袈裟に唸った心臓がとても痛い。久しぶりに感じた胸の痛みは一護に苦い感覚と嬉々たる感覚を与え交差させ、呼吸困難に至らせる。
ブラウン管越しに見る瞳の色彩でも、紙面上で見る色彩でも、どの世界でも見る事が出来ない色彩が今、一護の目の前にある。
うわあ……何この色、すげー吸い込まれそう……
深い金色の様であり、濃い緑の様であり、透明な色でもあるその不思議な色彩が一護の瞳を捕らえて離さない。

「構って」

到底、自立して社会的成功を収めた人物から発せられる声では無い。その甘えたな声が一護の耳元付近で紡がれ、呟きながら浦原の額は一護の肩に乗っけられる。一護の腕に腕を絡めて、女性が男性に甘える様に浦原も一護に甘えた。
全く。天下の浦原喜助が聞いて呆れるぜ…。
溜息を漏らしながらその頭を撫で、金色の髪を梳き、露になる旋毛をえい!と力を込めて押した。

「…イタイ」
「ヘタレてんなよ!気色わりぃ」
「ヒドイ」
「酷くない!んな顔すんな」

綺麗な面が台無しだろうが。早口で捲くし立て、拗ねた顔つきの浦原の子供宜しくな尖がった唇にちゅ、と自身の唇を寄せてくっつける。

「今日は思いっきり甘えるんだろ?」

だったらんな面白くなさそうな顔してんじゃねーよ!
手加減して頭を叩けば再びイタイ、と拗ねて、それから浦原は笑った。
テレビでも、雑誌でも見た事の無い。無邪気でいてやたら子供っぽい笑みだったから、一護も可笑しくなって暫くは二人で笑っていた。















アーティスト様は甘えん坊




あきゅろす。
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