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苛々していた。人の眠りを邪魔しておいて無理矢理呼び出しては扱き使う。挙句の果てには夕餉までに間に合わせる段階の仕事を足を引っ張って邪魔し、結局何もかも終わった時は既に空はどっぷりと黒で塗りたくられていた。だからもの凄く苛々していた。歩き煙草禁止マークが所々で目立つ街中の路地で無遠慮に煙草を吸う。しかも急いで家を空けたものだから巻きタバコだ。煙管が吸いたい。また、苛々した。
がちゃりとドアを開ける。ちょっとばかし螺子が錆び付いたドアは煩いくらい静まり返った室内に響いた。ああ、苛々する。耳に煩わしい音が浦原の神経を逆撫でして久しぶりに禍々しいオーラを背負いながら帰宅。勿論、家人は寝入っている所だろう。いつもなら優秀な部下達が出迎えてくれる家だが、絶好調に機嫌が悪い浦原を出迎えたのは夜の闇だけ。チッ、汚い舌打を吐き素足で床を陵辱した。ひんやりとした温度が体温を奪う。
今日は何をやっても気分が優れないだろうから風呂に入らず寝よう。そう考えて足早に自室へと向かった。


「あ、おかえり。遅かったのな」
「………は?」

自分でも素っ頓狂な声が出たと思う。
襖に当たる様にして開けたその部屋には居る筈が無い少年が当たり前の様に居て、そして極自然に声をかけてきたから。これが驚かないでどうする。

「仕事だったんだって?夕飯にも居なかったし、あ、腹減ってない?テッサイさんが作り置きしてたぜ?」
「いえ…大丈夫……、ってかなんで?」
「あ?」

浦原が口篭って問えば、大層柄悪く返された。眉間に寄った皺が凶悪過ぎる。

「や…だって君…明日学校じゃ……」
「……なんだよ、待っててやったのに、嬉しくねーのかよ……」

注意して聞かなければ聞こえない声だったろう。それでも浦原の耳には良く響いたその声が、言葉が、想いが。不思議と浦原の気持ちを幾分か和らげてくれる。けれど、まだ足りない。

「……凄い嬉しい」
「…………風呂、はいらねーの?」

顔を背けたまま、一護の声は不機嫌でも、浦原を伺っている様が手に取る様に分る。もうちょっと、もう一息。そう思いながら浦原は後ろ手で静かに襖を閉めた。心許ないランタンの明かりだけが室内を暖かく照らす。闇は間近なのにこの暖かさが癖になりそう。子供が居ると言う事実がとても暖かい。

「朝入る。今日は直ぐに眠りたい」
「……っ、そっか……。えと……」

敷かれた布団。その中で本を読んでいた一護の肩が震えるのが分った。意識して出した声は情事に出される低い声と酷似している。多分、彼は今もの凄く意識している。
ねえ、アタシの機嫌はまだ回復していない。浦原の金色は感情を露にしながら一護を射竦める。近づいて来た浦原の気配を感じ、そろりと顔を上げて浦原を見上げた。

「…………い、一緒に…」

恥ずかし過ぎて一護はやっぱり浦原から目を反らしてぶっきらぼうに、肝心な事だけを濁す様にして言いながら自分ひとりだけとっとと布団の中に潜り込む。それでも眩い頭髪だけが埋もれず外に出されているのが微笑ましくって愛おしい。
浦原はそんな一護を見た後クスリと小さく笑んで、羽織を脱ぎ、布団の中へと潜った。後ろから抱きかかえる様、腰に手を回したら再び小さな声が囁かれる。

「…やすみ…」
「はい。お休み」

そして有難う、ただいま。
浦原の機嫌はすっかり治り、気分良く眠りについた。























出来る事なら同じ夢を共有したい




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