[携帯モード] [URL送信]
22


浦原がヘマした。あの浦原喜助がヘマぶっこいた。その話しは瞬く間に広がり、一護の耳にも尾ひれもはひれも引っ付けてその話しは回ってきた。

「真正面からざっくり。いや、ぐっさりの方が当たってるか?あの浦原喜助がだぜ?背後からでさえも狙えない、どこにも隙が無いって言われてるあの浦原喜助!それが正面から該者を抱くようにして刺されたんだから、もしかしてヤツは該者となにかしら関係があったんじゃないかって言われてるぜ?」

どう思うよ相棒。珈琲を淹れている一護の隣で恋次は腕を組みながら煙草の紫煙を燻らせた。
灰色の煙が換気扇に吸い込まれていく。それを横目で見ながら昨夜の事を思い浮かべた。




「ばっかじゃねーの。あんた程のヤツがんな簡単に刺されてんじゃねーよ」

憎まれ口は一護の専売特許であるが、如何せん今回は間が悪すぎた。
連絡が無いまま一週間が過ぎ、浦原の事を人づてに聞いた一護は怒っていたのだ。
勝手な事ばかりしやがって。心中で吐き出した言葉のどれもが浦原を思っての事だが、敢えてそれは表に出さずに裡側で殺した。
白い病室。消毒液臭い室内。これまた清潔感溢れる白いカヴァがかけられたベッドの上、男は弱々しく笑んだ。その笑みが何故かとても癪に障る。
いつもの人を馬鹿にした笑みをして欲しい。そんな事まで考える程だ。マゾヒストでは無いのに、あの強気で強情な男の哀愁がこんなにも心臓を痛めつける。痛めつけているのは心臓では無いのかもしれないけれど…リンクした心の反響が心臓に響いて直接的な痛みを施すのだろう。

「……君、にね」

男はポツリと語り始めた。

「君にね、似ていました」

夕焼け色の髪だけ、ね。
逃亡中だった被疑者の年齢は16歳。世間ではまだゆとり教育真っ只中の子供だ。
親殺しの罪を被った被疑者は半ば半狂乱に陥って、ネゴシエイターである浦原の言葉に耳を貸さず凶器を手に接近。そして腹部を目掛けて刃を立てた。子供のひ弱な腕は、手は、摂取した麻薬によってズタボロだった筈だ。どこにそんな力があったのか。発見された時、彼ら二人は抱き合う様に路地裏で倒れていたと聞いた。

「…ムカツク。何それ。あんた、それだけで簡単に刺されてくれんの?敏腕交渉人だなんだ言われても私情だけでコロっと転がっちゃうタマだったっけ?ばっかじゃねーのか!」

病室内では静かにお願いしますね。一護の無愛想な顔を見た部下がやや弱腰で言ってたのを忘れて半ばヤケクソ気味に叫ぶ。
ムカツクくらいに悲しいのは何故だ。こんなにも焦燥を感じるのは何故だ。自分だけが…、自分の心だけがこんなにも痛い。

「ふざけんな。マジふざけんな。」

何がどうふざけているのか。寧ろ大声を発し、怪我人を愚弄する発言を吐き出している一護こそフザケテいる。不謹慎極まりない発言も出そうになったが、それだけは言っちゃいけない気がした。
ベッド脇にしゃがみ込む様にして点滴が打たれた腕に縋る。

「俺に似てた、とか……じゃあ、…じゃあ俺が一緒に死んでくれって言ったら、」

ダメだ。ダメだ。と脳内で警告音にも似た悲痛な叫び声が上がる。それでも、口からベラベラと面白いくらい出てくる音は、言葉は、その意味は清潔感漂う部屋の壁にぶち当たって反響し一護の元へと戻ってきた。

「さ、刺されてくれんのかよっ?んな簡単に…お前、ほんっと……馬鹿、だ。馬鹿だ馬鹿!ほんっとに大馬鹿野郎だ!」
「……怒られちゃった」
「ざっけんなよ。」

くしゃりと顔を歪ませて笑んだ浦原の金色に泣きそうになった。
ふわりと頭上を撫でた手の平の弱々しい力加減がとてもじゃないけれど心に痛みを齎して堪らなくなって一護は祈る様に目を閉じて顔を伏せた。
突っ伏したベッドからは消毒液の香りがして気分が悪い。

「…君が一緒に死んでくれって頼んだら……持ち出した凶器と共に君を抱き締めて、一緒に生きようって言いますよ。」

絶対。君を死なせはしない。
そう言った男の瞳は偉く真剣そのもので。ああ、これが本来の浦原喜助だ。と思ったら堪えていた涙がハラリと白のフローリングに落ちて弾けて蒸発した。





























響く愛の言葉のなんと言う凶暴さ




あきゅろす。
無料HPエムペ!