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ワンコール・チャンス

どこに行きたい?だなんて聞かれたから普通の所。って素っ気無く返答。
だって、だって!都内にある有名フランスレストランとか予約しようとしたんだアイツ!そりゃあ安月給だけど貯えはある方だし…初めてのデートがクリスマスだから…ちょっとは奮発しよっかな?って思ったけど…いや、あそこは無い…前菜ひとつで3000円とか無いだろ!?しかも会員制…アイツ馬鹿なんじゃん?なんで学生なのに会員制のレストランが普通に予約できるんだよ?嫌だよ俺……



ワンコール・チャンス




「で、素っ気無く断った挙句にその後も連絡取ってない。と言うか無視している…と」
「ちがっ!それは単に忙しいから…っ」
「馬鹿も休み休み言え黒崎!君は忙しくなんかなかったろう?僕が全部やったんだ!君の仕事の分まで!」

キラリと眼鏡を光らせた長年の友人(高校からの)はその端正な表情を歪ませながら息継ぎなしでそう放つ。コイツ25M浸水とか余裕なんじゃないかな。なんて別の事を思ったが敢えて声に出して言わない。(だって後が面倒臭い)

「そんなんじゃ浦原君も可哀相だね。クリスマスに振られちゃう訳か…なんて哀れな…」
「だっから違うっつってんだろーがっ!誰がフルっつったよ!?」
「あれ?違うのかい?」

飄々としてる所は高校の時と変わらない。学生の頃は険悪な仲で大学が同じって知っただけでも絶対にコイツとは関わらないでおこうと思ったくらいだ。なのに…なんの因果か…職場まで同じになってしまって…。気付いたら一護の良き理解者となっていた。他の保育士達には似た者同士だとか言われているが本人達が強く否定している。
なんであんな眼鏡と。なんであんなヒヨコ頭と。そこが似た者同士なのである。

「取り敢えずこのまま連絡も何も無しってのは駄目じゃないのか?浦原君は君と違ってモテそうだしね。そんな態度じゃあ千年の恋も冷めるよ」
「ううーっ」
「唸ってる暇があったら電話でもなんでも良いからしろ」

言いたい放題言いやがって…そうぶつくさ言いながら短い休憩時間(今はお昼ねタイムだ)携帯を取り出して受信メールフォルダを開き昨日届いたメールを開き見る。
『やっぱり都合悪い?何か予定入ってましたか?』
それも返せず仕舞いだ…。だって、学生に奢ってもらうのとか社会人としてどうだよ?そう思い、また溜息を吐きながらエプロンのポケットへと携帯を入れた。
すーすー寝ている子供達の寝顔を見ながら、良いなぁ子供は暢気で…だなんて思ってしまう。
ああ、もう…プレゼントは買ったけどどうすりゃ良いんだよ…。そう奮闘している一護を石田は冷めた瞳で見ていた。




「あの、いち…黒崎先生ってまだ居ますか?」
「……ああ、あの馬鹿ならまだ残って仕事してるが。呼んでこようか?」

その問いかけに苦笑しながら首を振った彼を思い出す。先日の7時以降の事だ。学生服の上から黒いトレンチコートを嫌味なく着こなした青年は自分よりも幾分か大人びて見えた。それでも不安気な笑顔にどこか子供っぽさが見える。何をしてるんだ黒崎。と心中で友人を罵るが、敢えて顔には出さず、背を向けて歩く青年を止める事はしなかった。当人達の問題だ。僕を巻き込まないで欲しい。石田の本音はそこだ。

一護の事は大学に入ってから良くつるむ様に(不本意だが)なって知っていった。大学時代に特定の人が何人か居たが、どれも同性でちょっとした有名人だった。けれど皆気兼ねなく彼に話しかけていたし、中にはそれ目当てで近づく輩もいた。遊び人って訳では無いが少し気の多いヤツで、一年の間で3人くらい違う男が一護の隣を歩いてるのを良く目にしていた。そんな石田から見てみれば彼は少し一護のタイプとは違うかもしれない。大学時の一護と今の一護、なんだか違って見えて少し笑う。なんだ黒崎、今回は長続きしそうじゃないか。心中だけで褒めてやる。決して口にはしないが。(図に乗るのが彼の欠点だ)


なんだかんだで悩んで悩んで、それから仕事に追われてイヴの事なんて頭から一瞬だけ離れた。気付けば夜の7時。園児達はそれぞれの親と並んで今晩の夕飯の事をワクワクしながら話して帰っていく。それを見送りながら心中では溜息の嵐だ。
午後に入ったメールをもう一度見る。
『今夜7時過ぎにそっちに行くから。待ってて』
連絡もしないで放置して、とうとう相手も切れたんだろうか。なんだかメールの文字が怖い。こういう時の機械質な文字は思いが全く伝わらなくて、一護は嫌いだった。
眉間に皺を寄せてうんうん唸る。石田曰くウザイ行動。今日なんて帰り際に「じゃあ別れたら報告して。井上さんと茶渡君に伝えておくから」だなんて言って帰っていった。嫌味なヤツ。嫌味なヤツーっ!怒りの矛先を石田に変えて地団駄。静かな園内にその音がエコーして響くから、少しだけ心細くなる。今日はネルも居ない。4時頃にテッサイさんが迎えに来て元気な笑顔で帰って行った。きっと今日はご馳走があの家で振舞われるのだろう。久しぶりに両親も揃うと聞いたから。安心だ。
なんでこんなに…。考えてみた。今まで付き合った人はいたけどこんなに変なプライドが邪魔する事なんてなかった。フランス料理とかそんな豪華にしなくて良いんだ。クリスマスだからって特別にどこか行くとか…まあ、ムード作りって大切だと思うけど。映画観て部屋でのんびりしてケーキが食べれてプレゼントあげて、それで二人で過ごせたらそれで良いんだ。
ヴヴヴ、携帯のバイブが鳴り、慌てて携帯を見る。着信:浦原喜助。液晶にはそう表示されている。

「……もしもし」
「出れそう?」
「もう…着いたのか?」
「………迷惑なら帰ります。さようなら」

え?そう発すると同時に受話器の向こう側で無常にも音は途切れた。後に残ったのはツー、ツー。と言う機械質な音と石田の台詞。
『千年の恋も冷めるよ』

「っ!!」

数秒遅れて胸が痛んだ。それから何も考えず、何も羽織らず、パーカーのまま外に飛び出した。
空からこの前と同じ雪が降り出していたが、この前より少しだけ多め。園の門の所、そこに見慣れた長身が背を向けて歩いていくのが見える。堪えきれない涙が落ちて雪を溶かした。

「ま、待って!浦、原っ!」

ガチャン、ガチャッ。忙しなく門が鳴る音が夜の闇に吸い取られていく。声を張り上げたのにも関わらず相手は振り向かない。それどころか足の速度を速めてどんどん一護から遠ざかる。嫌だ。そう思ったら走っていた。これで終わりは嫌だ。こんなクリスマス、嫌だ!

「…っ、ごめ、…うら…ごめん…ごめん…」
「……はあ…」

なんてガキっぽいんだろう。浦原は自分自身を叱咤する。
メールを無視されて、電話も無い。もう着いたのか?には流石に傷ついたかもしれない。歳が離れてるといってもたかが4つ。だけど4年の差は結構遠い。近い様で、遠い。
それに焦っていたか。だからこんな子供っぽい事をするんだろうか?彼が自分のペースを乱す。一護だけが、浦原を狂わす。
後ろから抱き締められた。ぎゅうぎゅうって力いっぱい。顔は見えないけど、先程の一護の声を聞く限り、少し泣いてるだろう。なんで泣かせたんだ。先程の自分を殴ってやりたい。

「…浦原…俺、ごめ……っ。浦原…っ」
「………少し、傷つきました」
「っ、う…ん。ごめ…ん。ごめんな…」

等々しゃくり出した一護を振り返ろうにも、がっちりと腰を掴んだまま離さない。腰に巻かれた腕だけが見える。露になる手の平に触れてぎょっとした。

「っ!一護さん!あなた、コートは!?」
「え…あ…寒っ!!」
「馬鹿っスか?!今日何度だって思ってんの!?」

後ろを振り返って一護の頬に触れる。かなり冷たい。低体温な自分の手が暖かいと思う程に。涙で濡れた顔から冷たさが浸透しそうで。浦原は自分のコートの前を全部開き、その中に一護を入れて包み込んだ。
浦原の煙草の香りと香水の香りが鼻を掠めて脳を刺激する。優しい香り。甘くてけどどこか意地悪な香り。浦原その物だ。そう思ったらなんだか安心して、ほうっと息を吐いた。
人の体温ってこんなにも安心するんだな。一護を包み込む様にコートを背中まで回して、一護の肩を抱く浦原の腕が暖かい。一護は恐る恐る浦原の腰を抱く。その瞬間、抱き込む腕に力が篭った。きゅっと一護を抱き締めた後、耳元で僕こそごめん。と言った浦原の声はどこか色を含んでいて、甘いその声が鼓膜を直接すり抜け体全体に熱を広げる。やっぱり、浦原の声が一番透き通ってて、好きだ。そう思って静かに目を閉じた。雪の降る音が聞こえる。





「で?やったのか?」
「…お前、ほんっとにデリカシーとかないよな!!」
「今更君にデリカシー云々言われたくないよ。で?やったの。やってないの?どっち?」
「………た」
「はぁ?」
「やったっつってんだよ!」

石田の馬鹿にした表情、物言いにキレて一護は立ち上がって大声でそう叫んだ。その瞬間、持っていた雑誌(丸めたやつ)で頭を思いっきり叩かれる。

「馬鹿か君はっ。ここをどこだと思ってるんだ!」
「…何も懇親の力振り絞って殴らなくても……」

少し涙目になる一護を苦虫でも噛む様な表情で見た後、周りの客に少しだけ会釈した。コイツと居るとトラブルに巻き込まれやすい。と言うか一護自身がトラブルメイカーなのだ。石田は溜息を吐きながら目の前の冷めてるであろうカフェラテを飲む。一護は未だに頭を擦りながらキャラメルマキアートを飲んだ。

「まあ君の事だから手を出すのも早いと思ったけど……付き合って3日目でって…少し早すぎないか?」
「…うるせー……」

話の内容がアレなだけに二人共自然と小声になる。店内はR&Bがセンス良く流れていて耳障りでもない。コーヒーの良い香りが漂い、程良く効いた暖房が心地良い。年明け直前、幼稚園は冬休みに入り、保育士達も久々の休暇を取る。さて、彼女と映画でも見に出かけるかと思った所を悪友に捕まって連行。報酬はカフェラテだけ。少しだけ石田の額に青筋が浮かび上がる。

「なあ黒崎。僕を巻き込むなとあれ程言ったのに…君って人は……それは単に惚気たかっただけか?この馬鹿が」
「ひでえ!今はお前しか相談できねーんだからちょっとくらい付き合ってくれても良いじゃん!」
「…僕は3時からネムと合流するからな。その間に全て包み隠さず話せ」

お前、目が坐ってんぞ?等と暢気に良い、頬を赤らめながらキャラメルマキアート(いつ見ても生クリームが多すぎてこちらの吐き気を誘う)を飲みながら一護は渋々口を開く。

「あの…な…12月31日さ、アイツの誕生日らしいんだ……て一昨日知ったんだけど…さ…。んでクリスマスはどこも出かけられなかったから…遠出してみよっかな…って……なあ、どこが良いと思う?」
「馬鹿かお前は」

結局の所惚気じゃねーか。と石田がキャラをぶっ壊して叫んだ瞬間、一護の携帯が鳴った。自分から質問を吹っかけておいて石田を無視して電話を取る一護を見てそろそろ石田の血管がぶち切れそうだ。

「なあ…どうしよう…石田…」
「なんだ振られたのか?オメデトウ」

さして興味を引く内容では無い事は確かだ。そう思い、ファッション雑誌を見ながらカフェラテを啜る石田を見て一護の唇は尖った。

「ちっげーよ!京都行くらしい…どうしよう…京都…」
「逝って来い」
「…なんか冷たくねえ?」

何がしたいんだコイツは。甘える対象を間違っているとしか思えない。何が不満だ黒崎一護。随分愛されてるではないか。気持ち悪い。石田が無視し続ける中、一護の脳内では京都の旅館での色事秘め事がもんもんと妄想される。どうしよう…旅館でだなんてやった事ねーし…ああ!緊張する!なあ!何着て行ったら良いと思う!?キラキラした目で言いながら器用に石田の青筋を切っていく。

「この……ビッチが!!」

年末前の某コーヒーショップ。時刻は午後1時。この時間帯には不釣合いな単語が店内中に響き渡ったのは言うまでも無い。







◆石田が大暴れです(笑)
クリスマス小説と言いましょうか?前回UPした「ミルク色の恋が声をあげて笑った」の続編となっています。
少しばかり浦原さんを焦らしてみました。自分でも分からないくらい始まったばかりの恋にあたふたしているビッチな一護さん(笑)
そんな一護の不安が分からなくてイライラする子供な浦原さん。両者共々まだまだおこちゃまです(笑)
ウブな感じでクソ甘ったるい、少女漫画もびっくりよ!な二人が書いてみたかったクリスマス小説です^^
少しエロも追記しておきます^^本当にただやってるだけの反吐が出るくらいクソ甘ったるいエロ小説です↓↓よろしければこちらもどうぞ^^

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