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哲学的に物語を飛躍するのなら、それは物語の主人公でもある少年が大空を見下ろしまっさかさまにダイブしたから。簡易に済ませるとしたらハナイチモンメだ。空があの子を欲しがったってだけの話。物語の山場をひょいと軽く跨いで地に足を置いたと思ったら踏みつけていたのは灰色のアスファルトなんかでは無く、底の無い大空だった。ただそれだけのお話。それこそヤマもオチも無い。否、落ちは確かにあった。

か〜って嬉しいハナイチモンメ!まけ〜て悔しいハナイチモンメ!
ギラギラと輝く太陽によって焦がされた蜃気楼が浦原の視界を煙たくさせ、モノクロの世界でだけ見える幻想を映し出さない様にと必死で浦原自身を守っていた。そのモノクロの世界の中で耳に懐かしい幻聴を生み出される。
黒と白と青空と太陽と向日葵と。なんて事、凄く素敵なピクニック日和だこと。音に成さずに想いに成した。
ガス臭い香りに混じって線香の香りが浦原の鼻を掠める。じわじわと追い詰められるかの様に暑い。慣れない喪服の下で皮膚が爛れた様に汗を噴かせた。暑い。暑すぎて背筋に鳥肌が立っている。生来、浦原は夏が苦手だ。
キラキラキラキラ。反射する。水っ気全てを蒸発させたのにも関わらず世界は無駄に綺麗に光り輝いている。それが目にやたら眩しくて嫌いだった。
そう言えば、と浦原はふと見上げた青空にある少年を思い浮かべた。
あの子は夏の生まれだったっけ?
7月だったか8月だったか。既に曖昧になったあの子の誕生日。軽薄だと、薄情だと言われても良い、だって今はとてつもなく暑いのだから。脳みそがふやけても可笑しくないだろう温度が浦原の記憶を蝕む。まるであの太陽が作り出す蜃気楼みたいに記憶の中の少年がぼやけていく、煙たくなる。いつからあの笑顔を見ていなかったろう。いつかあの子の顔も声も何もかも薄れ行くと言うのだろうか。夏が見せる蜃気楼にあの子を探しても居ないと言うのに。
浦原はそうっと口角を上げた。
なあに、泣いてなんかいませんって。誰に言うでもなく、言葉にするでもなく。矢張り心の奥底で想った。
百合の花を万遍なく敷いた棺の中で静かに横たわっていた彼。白と橙が喧嘩する事も無く、綺麗なアートとしてただただ静かにそこに存在していた。彼の体重は40キロ。魂の重さを引いた数値。随分とまあ不健康的だこと。きっと今だったら軽々とお姫様抱っこでも出来るだろう。(きっと嫌がると思うけれど、)

「泣いてなんかやらない」

茹だる暑さの中、渦中の物語はひたりと足を止めたメリーゴーランドの様に、しんと静まり返っていた。動き出す事も無いまま、寂れた遊園地に放置される様に。光りも灯されず綺麗な装飾は年々薄れ行く。きっと、彼の居なくなった物語も同じ末路を辿るのだろう。

「絶対、泣いてなんかやりません」

感情のままに零した透明から君の記憶がするりと抜け落ちるのなら。想いを殺して嘲笑しておきましょう。灰色のアスファルトに墜ちて蒸発され消え行くのなら、零さずに内に溜めておきましょう。薄れ行く君の記憶にストッパーをかけれるのなら、喜んでこの身体ごと脳みそを改造致しましょう。ねえ、だから一つだけ我侭言っても良いでしょうか?

「泣きませんから、」




















どうか、代わりに雨を降らせて下さい




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