11 酷い雨の降る火曜日だった。 土砂降りとは程遠くシトシトと静かに降り注ぐ雨模様だったけれど、それでも空を占めた曇天が鮮明なまでの灰色でこちらの憂鬱を彷彿させるくらい、なんだか悲しい雨の日だった。 店内の照明をいつもより少し落とし、あちこちに光る小さなランプのみで過ごす。古ぼけた喫茶店だが、現代社会から逃れた位置付けのアンティークさ加減が自分でも気に入っていた。 全て木造で建てられており、店内に漂う珈琲の濃い香りと木々の香り。どこか懐かしさをかもし出す喫茶店のカウンターに一人の青年が先程からずーっと外を眺めて座っていた。その横顔を時々ちらりと浦原は盗み見る。 1ヶ月程前からこちらに通う様になった青年は見事なまでに明るい髪の毛の持ち主で、青年と一緒にやってくる友人らしき青年も赤色の髪の毛をしていたので凄く目立っていた。まるで朝と夕暮れが一緒くたになった様な二人にくらりと眩暈を覚えた。 いつも一緒に居た二人。無愛想なオレンジ髪の青年は笑うととても可愛らしかった。 そんな青年が今日は一人、こんな寂しい雨の日にカウンターで外を眺めている。 「……何にしますか?」 「あ、……すみません……えと…、ロングブラックを…」 青年の友人がいつも頼むオーダーが彼の口から出た。少しだけ眉間に皺を寄せる。 来店した時、青年は上から下まで雨模様だった。貸したタオルを気まずそうに返しながら、いつも二人肩を並べて座っていたカウンターに今日は一人で座る。 注文し終えた後、彼は再び窓の外へと視線を戻した。 コポコポと珈琲にお湯を注ぐ音、その瞬間にブワリと店内中に香った独特の香り。耳に心地好いジャズがブルースに変わった時、彼は窓から視線を外して顔を俯かせた。 「……どうぞ」 「あ……有難う御座います……」 本当は苦手な珈琲を一口飲む。やっぱり苦いそれは彼の口に合わなかったらしい。 頬を伝う透明なソレが残り雨で無い事を知っているけれど。敢えて何も言わず、何も触れず、戸棚から出した小ぶりな鍋にミルクを入れて火にかけた。 シナモンとバニラスティックを淹れ、専用のティーパックを入れてコトコト弱火で煮込む。 甘い甘い、香り。それでもどこかスパイシーで安心する様な香り。 出来上がったソレを丁寧にマグカップに注ぎ淹れ、彼の目の前に出した。 「…?……あの……」 「ソレより幾分か甘くて美味しいですよ。代金は要りません。ソレも、コレも」 先程出した珈琲カップを取り、自分の口元まで持っていって一口飲んだ。涙の塩分が混じった珈琲はとてもとても苦く、こちらにまで彼の悲しみが伝わりそうな程。 マグカップに入ったタゾチャイティを眺めた後、彼は恐る恐る口付けゆっくりと流し込む。 「……美味しい………」 小声で放った瞬間、再び彼のハニーブラウンから涙が零れ落ちた。 天気予報では明日の天気は快晴らしい。ようやく梅雨時期が明ける。明日は青年の涙も乾いてあの向日葵の様な笑顔が咲きますように。浦原は苦い珈琲を飲みながら彼が眺めていたであろう隣の席をチラリと横目で見た。 ブラックコーヒーに涙 |