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ホラ黒崎さん、向日葵が咲きましたよ。柔らかな声で、これまた柔らかく微笑みながら浦原は一護に向かって言葉を紡ぐ。その透明度の高い声が好きなんだとは決して言えない一護だけれど、眉間に寄せた皺の警戒の印を少しだけ解いて傍に近寄るくらいは出来る様になった。

空が広いと感じる様になったのは浦原の家に引っ越してきてから。あのコンクリートジャングルみたいな都会とは違い、浦原の家はのどかな田舎の少し街の喧騒から離れた所に位置していた。青空の広い事、広い事。浦原はそこで様々な植物を植え育てては街の花娘達に安値で売っていた。

「去年、見たいって言ってたでしょ?これが向日葵っすよ」
「………すげー……本当に黄色…」

去年の冬、写真集でしか見た事の無い花が庭いっぱいに咲き乱れる。向日葵はその顔を皆、太陽へと向けて空を仰いでいたので、一護もそれに習って黒い日傘越しから太陽を見る。

「だーめ、火傷しちゃうでしょ?」
「………」

太陽の眩しい光が目を焼き付ける前に浦原の大きな手の平が一護の瞳を覆い隠す。ぎゅ、と握り締めた日傘の持ち手部位。浦原と出会ってから半月経った頃に貰ったこの日傘が今の所一護の宝物だ。
青い空の下に広がる黄色い向日葵畑の中、時代錯誤な緑色の作業着と麦藁帽子を被った男と、黒の日傘を指した太陽と同じ色の髪の毛をした少年が一人。異様なその風景に、きっと空を舞う鳥達は不可思議に瞳を丸めて眺めているのだろう。
一護の血族は皆、日光に弱く、今はこうして日傘を指せば少しの時間外出する事は可能ではあるが、ご先祖様にいたっては日光どころか、日中は外に出る事さえも出来なかった様だ。

「綺麗、だな……これも売るのか?」
「まさか、これは全部君に見せる為だけに植えたんですよ?この向日葵は全部、黒崎さんの物ですよ」
「……え……」

浦原の職は花売りだ。多種多様な花を植え、見事に咲かせた後で街に売りに行く。
花娘だったり、高級レストランだったり、病院だったり、教会だったり。色々だ。それを知っているから一護はこの目の前に広がる向日葵達も全部街のどこかに売られていくのだろうと思った。
それなのに、浦原はなんて事無いとでも言う様に「一護の為の向日葵」と告げる。
それがどんなに嬉しくて、そしてどんなに心を締め付けるかを知らずに。そう、浦原は言う。一護の血族とは違う、普通の人間である彼が、異種である一護に幸せを植えつける。

「ば…っ、馬鹿言ってんじゃねーっ」
「えー、馬鹿じゃないっすもん、こう見えても昔は名の売れた科学者だったんスよ〜僕」

凄く嬉しくて、胸の鼓動も半端無いと言うのに、一護の口からは結局可愛くない言葉ばかりがポンポンと出てくる始末。自分の心とはウラハラな発言がとても歯がゆい。
浦原の笑顔が見れなくて、段々照りつける日光の強さに眩暈がしたから一護は踵を返して家へと戻る。
サワ、鳴いた風の香りが夏の香りを含んでいた事が凄く嬉しい。なんだかんだ言いながらも今年で7回目の夏を浦原と共に過ごす事になる。
それだけで良い。一緒に時間を共有できるなら、それだけで良いのに。

「今日のオヤツはオレンジタルトだからな、作業終わったら直ぐに来いよ」
「おおー、成功したんスか?さっすが黒崎さん!それじゃあ直ぐに終わらせましょうかね」
「おう、…………サンキュー、な」

それは小さな小さな声だった。
向日葵畑に広がった夏の香りと小さな声に、浦原はひっそりと笑い、大空を見上げる。なんて快晴、吹き付ける風も心地好い。今日は最高のピ
クニック日和。日傘とレジャーシート、バスケットにはオレンジタルトと紅茶の入ったポットを持って出かけよう。
涼しいそよ風に吹かれながら木陰でお昼寝タイム。なんて素敵な昼下がり。






















吸血鬼と向日葵と僕と、




あきゅろす。
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