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どう足掻いたってどうにも出来ない事がこの世の中には沢山ある。
空と海が決して混じり合えない様に、夜と朝が同時に空を占めれない様に、宇宙と地球が共存できない様に。俺と浦原の間にも決して超えられない壁がある様に。
初めて見たその白い羽織はヒラヒラと悪戯に風に靡いて一護の視界を残酷にも優しく覆った。

「……本当に、死神だったんだな…」
「まあ……昔の話ですけどね」

そう言いながら苦笑する浦原はいつもの彼なのに、着ている物が違うせいか、どこか違う雰囲気を醸し出していて、中身は一護の知っている浦原なのに、やっぱりどこか違う人物の様に見えた。
100年と言う途方も無い数の過去が今、一護と浦原の間にうねうねととぐろを巻く。

「……隊長服、にあわねー……」
「ありゃ、そうっすかね?」
「だってアンタ…ずぼらじゃん…隊長なんて、務まっていたのかよ?」
「うーん…これと言って何もしてなかったかも…」

ハハ、そう笑うのにどこか違う。
あんたの過去なんて露程も興味がないと言ったら嘘になる。本当は何もかも全部、あんたの事を知りたいと思うのは何も俺が子供だからじゃない。あんたの事が好きだから。初めて好きになった人だから。そう思うのに、超えられないである過去が凄く憎たらしい。やっぱりあんたと俺の間には壁があって、それを必死で壊しても壊しても次なる壁が立ちはだかる。何度壊しても、先に壊れるのはきっと俺の拳だろう。

「………なんで、」
「ん?」
「…なんで、あんた。死神なんだよ……」

消え入りそうな一護の声は浦原の鼓膜を酷く傷つけた。
なんであんた、死神なんだよ。なんで俺は人間なんだよ。どうにもこうにも、そればかりはいくら無駄に長い時間を生きてきた浦原でさえ、どうにも出来ない事。

「……じゃあ、なんで君は人間なんだろうね」

あと数十年足らずで君はアタシを置いてアチラへ行ってしまう。

「っ!…いか、ねーよ!」
「本当?」

一護のハニーブラウンが浦原を見て、そして大きく見開かれる。
眉が少し下がり、金色の瞳は優しく笑みを象るが、その色彩に含まれるのは深い深い悲しみ。浦原のそんな表情を今までに一度だって見た事がなかった。
なんで、お前が泣きそうなんだよ!
そう思ってはいても、一護にはどうする事も出来ない。勿論、それは浦原も同じ事。

「……っ、いか、……無い…」
「本当に、本当?」

なんで子供宜しくな駄々をこねているんだろうか自分は。浦原は思う。

「っ、ほんとう…っ!」
「本当?嘘、……吐かないで下さいよ」

約束と言う文字程、信用できない物はない。人の心程、移ろい行く物は無い。まだ季節の変わり目が信用できる程。この子供と出会った時から嫌な予感は十分していたのに、途中で引けなかった自分はまだまだ弱い。恋情に、弱い。この子供の瞳に弱い、この子供の、一護の気持ちに弱りかけた。
うそつき、一護さんの、嘘つき。何度心の中でそう言っただろうか。

「俺、…俺が死んでも…、絶対、絶対…」
「うん。もう良いよ。ごめんなさい。アタシが悪かった。だから、良いよ一護さん」
「よくねえよ!!!」

今になってやっと、一護は自分が放った言葉の無責任さに気付き、その重さに押し潰されそうになった。
浦原、浦原、浦原!
心の中で何度も名前を呼ぶも、お互いの間を遮断する壁は大きくなるばかりで、自分の無力さにいい加減腹が立ってきた。

どう足掻いたってどうにも出来ない事がこの世の中には沢山ある。
浦原と一護の間に聳え立つ壁は見えなくても、そこに一生、お互いを繋ぎ止めておく様に、忌々しくも存在し主張する。
それを諦めきれる程大人でも無いし、愛と言う名前でぶっ壊せる程子供でも無い中途半端な二人は途方も無く互いを抱き寄せ、抱き締め、ただ終末を怯える様に過ごすだけなのだ。言葉無く、そんな無力な物を押し殺し、飲み込んで。夜の静けさを分かち合う様に抱き締めあいながら眠るしか無いのだ。
そうするしか、術は無いのだ。無かったのだ。





















出来ることならひとつに溶け合いたい




あきゅろす。
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