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浦原の部屋は寒い。それは季節関係なく。茶色い昔ながらのちゃぶ台を一番大きな窓の前に置き、その上にはノートパソコンと何かの資料(現代の文字ではないアチラ側の文字だ)と黒い万年筆が。まるでちゃぶ台の上だけに世界が広がる様に、浦原の部屋はちゃぶ台とその上に散らばる物だけだった。それから夜になると布団が敷かれるが、それ以外、生活感がまるっきり無い寂しい部屋だった。

寒い。当の本人が思ったのは真夜中も過ぎ、後数時間で朝が来る時刻の頃。ひんやりとした外気が部屋の中までも侵入してきているのだろう。元々、暖房器具が無い部屋だ。いくらテッサイの張る薄い結界で浦原商店一帯が覆われていようが、真冬の冷えた空気には関係の無い事。
もう少し我慢してみようか、それともストーブくらいは買おうか?いやいやそれ系でこの部屋全体が暖かくなるような何かを自分で作った方が早いだろう。と冷めない頭でグダグダ考えながらうっすらと目を開く。
仄かに暗い室内、自分の目の前にオレンジの色彩が広がった。…ああ、そうか昨日。とまだ覚醒しない頭でぼやく。
浦原に背中を向けてスヤスヤと寝ている黒崎の旋毛が見える。成長途中とは言え、平均身長を上回った背丈だが、浦原の腕の中にすっぽりと収まるくらい黒崎の体は線が細かった。華奢な肩に触れてみる。末端の冷え性な浦原の指先が触れたせいか、少しだけ身じろぐ姿がなんだかやけに幼くて笑ってしまう。
ああ、暖かいなぁ。腰に回した腕に力を込めて肌と肌を密着させる。少しだけずれた毛布を黒崎の肩まで持ってきてやり、同じシャンプーの香りがする髪の毛にキスをした。
起きる気配が全く無い癖に、黒崎の体は本人の意思とは関係無く動く。それは小さく身じろぐだけだったり、寝心地好い場所を探る為に寝返りを打ったりと様々。肌寒さで目が覚めた筈の浦原は、隣で寝てる黒崎の子供特有の体温にすっかり気分を良くして再び瞼を閉じた。子供からは太陽の香りがする、優しくてガキ臭い香りだ。睡魔が襲ってくる前にちょっとした悪戯心で持って黒崎の露になったうなじに口付け幾分が強く吸った。

「……んー、」
「…まだおやすみ。」

夜はまだ明けないから。そう言語に含みあやす様に頭を撫で、それからキスを送る。
彼は怒ってしまうかもしれない、初めてつけた赤い痕をどういう表情で受止めてくれるだろうか?きっと本人以外の誰かが先に気付き指摘するかもしれない、その時の彼のドギマギとしたあわあわとした初心な慌て方と顔を真っ赤にしながら怒る彼が安易に想像出来てひとつ笑みを零して再び眠りの中へと落ちていく。



「ご機嫌じゃな、喜助」

馴染みの彼女にそう言われるまで浦原は自分の口角が笑みを象っている事に気付いていなかった。今日は平日、きっと彼は何も知らないで学校に行き、勉学に励み、そして友人達と戯れるだろう。それがこんなにも楽しい。誰かに見つけて欲しい様で見つけて欲しくない様なそんなちぐはぐな感情を今更ながら植え付けられる。ベタな独占欲だな。己で思って笑った。

「ええ、少しね」
くふりと笑ったのを馴染みの扇子で隠し、真っ黒い上質の毛並みを撫でた。
「気付くかなぁ、気付くと良いなぁ」
「また悪巧みか?」
「まさか!可愛い独占欲ですよん」

軽やかな動作でもって夜一は浦原の肩に乗る。腐れ縁とも言えるこの男に特定の恋人が出来た事に少なからず興味を持った。凄い歳の差カップルだが、浦原も子供じみた所があるのでまあお似合いかなと心の中ではそう思っているが、相手の本物の子供の方は少なからずこの男に振り回されているのだろうと思うと少し同情する。可愛い独占欲と浦原は言ったが、果たしてそれが黒崎にとって可愛い物にカテゴライズされるかどうかは本人次第である。

ふふん、ふふん。と鼻歌交じりに煙管を吹かす浦原の肩、吐き出された紫煙が冬の風に靡いたのを本能的に目で追った所で夜一の猫目は違う物を映し出す。
男の耳下、丁度はねた髪の毛から見えるか見えないかの際どい位置にある赤い痕。浦原は年がら年中引きこもりなので百年前から肌は白い。病的に白い。その白い肌に映えた赤が何を主張してるのか一目瞭然で。

「…ふむ。全く、可愛いヤツ等よのぉ」
「ん?」
「ふ、こちらの話じゃ」

ケタケタと夜一は浦原の肩、その可愛らしい独占欲が目につく場所で笑った。




















独占欲の強さならお互い様




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