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サアサア唸る雨が次第に強くなっては浦原の足の流血と左目上の額から流れる血液を急かす。体を冷やし過ぎたし、血も派手に流し過ぎた。額の傷は大したことは無いのに頭部と言うだけで派手になるから視界を鈍らせてしまう。
厄介極まりない感情が雨と一緒になって浦原を急かし始めた。
あの子はどこだ。
一旦はぐれてしまった(というより無理にでもこの場から退場頂いた)路地へ歩みを進める。
手に持つステアーはお飾りの重みを浦原の掌に預けて黒く発色し、もう遅いなどと無言で責めてみせた。
早く探してやらねば。頭の奥底から滲みでる感情が、浦原の金色を薄く光らせ、カサリと何かが動く音を拾わせた。
路地に面したこれまた狭い路地裏。
10階建の建物に挟まれ、中は程良い空洞を広げている。
神経を集中させ、覗けば暗がりの中にオレンジ色の光を見つけた。
頭上に広がった曇天は太陽の光を一切遮断したのにも関わらず、彼のオレンジ色には光の粒が集まって黒を照らす。見た目にはツンケンしてる髪の毛には天使の輪がかかることを知ってる浦原はホっと息を吐き出して形だけ構えて見せたステアーを下ろしてそろりと路地裏へ歩み入った。
ちゃぷり、程良くたまった水たまりに足を入れてしまえばそれは霧雨の降りしきる音とは違ったメロディを奏で、刀を握り締めた状態で蹲って座る少年の肩を僅かに揺らした。

「…一護さん」

曇天モードに低温が響く。
優しい音色が鼓膜を揺れ動かしては心をも揺れ動かす。
徐々に近づいてきたわざと立てた足音がすぐに間近まで迫ったと拍子にツンと鼻を掠めるstillのジャスミンの香りと火薬の匂いと、そして血液の鉄臭い匂い。
途端に出てきた涙は面白いくらいにぽろぽろと流れては一護の頬を汚し、雨と混ざって地に落ちる。今日が雨で良かったと思う反面、雨じゃなければ良かったのにと相反する気持ちを持ってしまう。同時に二つの感情を持ち合わせた心がズジリと体全体に負担をかけた。
また…怪我してる。
思った瞬間にタイミングを見計らわれて頭の上に乗っかる大きな掌は優しく冷たい。

「一護さん、ごめんね待たせた」

ソーリーアイムレイト。
若干カナダ訛りが交る言葉使いにホっと息を飲む。
彼の声は寝れない真夜中に飲むホットショコラと同じ安堵感を持ち合わせているから一護はこの声がどうしようも無く好きで、もはや無くてはならないものだとも思っている。
待ち望んでいた声が雨音を消しさり、pleaseと切に願っていた気持ちを消し去る。
心の中に巣食う白の獣はいつの間にか舌打ちをしたと共に消えていた。

「雨が強くなってきた。一護さん、立てる?」

頭に乗っかる掌が移動して抱きしめていた刀を撫でた後で一護の握りしめて固まって解けなくなた掌に触れる。
ひんやりとした冷たさ、それでも容赦のない四月の雨よりかは幾分人間臭くて暖かい。

「冷たくなってるよ。帰ったらお風呂入ろう。一護さん、……顔を見せてよ」

何も言えず、蹲ったままの一護にとうとう浦原が負けてしゃがみこんでもう一度頭を撫で始めた。
触れてくる体温と、投げかけては皮膚にあたって弾ける声色が徐々に冷えた心をほんわか温める。

「一護さん。声も聞けないじゃない……怒ってるのは百も承知。ほら、バカヤロウおっせーんだよ!っていつもみたいに叱って?」

一護よりも随分と年上な彼からの甘えが交った声が叱ってと懇願した。
いつになく優しい口調の柔らかさがとうとう一護の顔をあげさせては琥珀色に浦原の困り果てた情けない笑顔を映しだす。
額から流れた血液が金色を汚して不格好なウィンク状態を保たせていた。

「……怪我しちゃった。約束、守れなくてごめんなさいね。でも傷はあさ、…一護さん」

危うく後ろに倒れてしまいそうになる突然の抱擁に彼の重みを感じる。
首に回された両腕と、のし上げてくる重みと、心の重み。
震え出した体に肩へ埋まる顔。カシャンと倒れ落ちた刀の主を失ったような酷く寂しい音が一瞬の内に鳴り響いては早々と止まってカーテンコールを待機。

「ごめんなさい」

背中を撫でながら浦原はよいしょ、とジジ臭い掛け声と共に体制を保ちながら座って壁に背中をくっつけた。
じんわり背中から伝わる壁の冷たさに、濡れることも汚れる事も厭わずに水たまりに浸かるコートの端が雨水を吸収する冷ややかさが更に体を冷やし始めたが、抱きしめられた温もりが反して体を温め始めたことに対してホっと息をついた。

「なんだろう…今日は甘えん坊デイ?ラッキー、稀に無い一護さんのデレ期だ。いやあ、雨が降って良かったよかった」

茶化し込んで言えばポカリとおざなりに頭をつつかれる。
それに笑って今度は何も言わぬ子供に習って口を閉ざしては細すぎる腰に腕を回して密着する体の距離を埋めた。
ゼロとなった距離に雨粒も哀愁も何もかもは入ってこない、入り込ませないと言う具合に抱き寄せる。
きつくなった束縛に一護もホウっと息を吐く。
続けて浦原もホウっと息を吐き、頭上高くも蔓延る曇天を見て今こそ晴れるべき時だろう、と誰に言うでもなく胸中で唱える。
まさかそんな映画でもあるまいし、とほくそ笑みながらももしこれで晴れたらキスのひとつは貰うことが出来るだろうか等と浅ましいことを思ってしまって自身で吹き出しそうになりながらも必死にこらえてはコホンと咳ばらいをひとつ。

「ねえ一護さん、…もし晴れたら。キスしませんか?」

ムードもへったくれも無い発言だったが、子供の頬を真っ赤にさせるだけの威力は十分にあった。

「……晴れたら、な」

肩ごしの声はやっとの思いで振り絞った子供特有の高い音を混ぜて浦原の耳を心地よく揺らす。

「マジか…晴れろ晴れろ!!イエス様マリア様気象庁様お願い!」
「……浦原さんやめろ…俺が恥ずかしい…」

大人の癖に子供みたいなことするな。恥ずかしくなった子供は浦原の髪の毛を引っ張って制止をかける。
それでもめげずに大人は馬鹿みたいな単語を唱えながら空を泣きやませるのに必死で、とうとう声をあげて一護は笑ってしまった。
あ、晴れた。
相変わらず頭上高くの空は泣きわめいて冷たい霧雨を降らすのに、腕の中の太陽がケラケラコロコロ笑うものだから、そう小さく呟いて自然の流れでキスを仕掛けては恥ずかしがった子供の照れ隠しと言う名の暴力で頬をひっぱたかれるのだ。


















Thank you, God! My sun smiled!



◆前にjoinで上げた路地裏で待ってる少年一護の浦原さんお迎えver長編でお送りしました。
終わりまでは仄暗い感じでいく予定だったんですが冒頭が暗かったので最後は明るく元気に僕ポップティーンみたいなノリで仕上げてみました(わ、すっごいワケワカメな説明)
実はオリジナルなキャラと浦一を絡ませるのがすごい好きです。人には人それぞれの物語がある。なんてことない映画マニアな仕上がりでしたが楽しんで読んで頂けたら幸いです^^
BGM/Call Me Call Me.
meru;)xxx




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