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レイニーデイズ、左耳から入る音はしとしと窓ガラスを濡らす雨の音。
レイニーデイズ、右耳に入る音は嗄れた声のボーカルのメロディとアコースティックギターの音。


灰色の世界が窓の向こうに広がっているね、物語のヒロインはやや癇癪持ちの甘えた声でそう言った。ギターを抱えてG7を押さえる彼の指に手をあてては冷たくて骨ばった嫌な指だと皮肉る。けれど彼の指を見つめる彼女の瞳はすごく優しい。
片方のイヤホンから流れる異国語と穏やかに流れるBGMの心地良さ、iPadの小さな画面上で繰り返される物語と、背中を暖める温い体温に一護は少々眠たくなったきて瞬きを二回繰り返した。
物語と同じく窓の外は灰色で、小雨が窓ガラスを濡らす。しっとりとした日曜日の午後は少しだけ薄暗く室内を煙らせた。
ディプティックのルームキャンドルが淡い炎をゆらゆらゆらし、イチジクの爽やかな香りを振りまく。彼のお気に入りだと言うキャンドルの内ふたつが一護からのバースデイプレゼントだ。
卓上に並べられたキャンドルの炎がゆらゆらと影を生み出しては仄暗さを演出、画面上の灯りが視界を刺激して、背後から伸びた手がiPadをタッチして音量を少し落とした。
雨の音が強くなる。
片方のイヤホンともう片方のイヤホンが一護と浦原を繋ぎ、ギターの音と雨音のBGMを共有させる。
腰を抱く彼の腕と煙草を持つ彼の指に神経が集中してしまって物語が全く耳に入ってこないから、視線を窓の外へ移動させて世界を包む曇天を見た。
一護、
やけに小さい声で名前を呼ばれたので気持ち分後方を振り向いて男の唇を見た。
外へ出たらサン付けなのに、二人っきりでいる時は必ず甘えた声でそう呼び捨てにする男の独占欲は付き合って一年目の時に気付く。
なんだよ。
声を出さずに呟く。
フ、と笑う顔はシニカルで、垂れた瞳の甘さを壊し冷たい印象を与える。悪戯に耳の後ろを撫でる男の指先も冷たいし周りが持つ男の印象も冷たいけれど、一護は知っている。

ちゅ、唐突に始まったキスの戯れにいつのまにか片方のイヤホンから音は鳴り止んでいた。物語の渦中で時を止められたカップルの顛末はきっとハッピーエンドでもバッドエンドでもないだろう。ラッグの上に放り出されたiPadから明かりが消えたと同時に一護は浦原の首に腕を回してキスを深い物へと変えて行く。
やはり唇も冷たい。キスの最中だろうと見つめてくる金色の瞳も冷たい。シャツの中に侵入して腰を撫でる指先も冷たい。どこもかしこも冷たい男なのに、一護は浦原が暖かい事を知っている。
ふ、荒くなった息遣いににんまりと笑んだ瞳。
窓の外の雨は変わらない速度で世界を濡らす。再びチラリと窓の外へ視線を彷徨わせれば絡めた舌先を噛まれた。
キスの最中で余所見はダメだよ、そう咎められている。
やや乱暴に押し倒されて下から浦原を見てば優しく微笑まれた。ソファがあるのに移動せずにラッグの上で戯れようとする男の意図はなんとなく分かっている。

「お前の指…冷たいね」
「万年冷え症ですから」
「"冷たくて骨ばった嫌な指先だわ"」
「…フ、"きっと君に温められる為にこの指先はいつも冷えているんだよ"」

都合の良いセリフだなソレ、皮肉って二人で笑いながら中断されたキスを最初っから始めた。


























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