48 ポキリ。チョコレイトの甘い香りが仄かにする。唇にすんなり吸い付いてはふわりと溶けて甘やかな味を舌先に乗せた。 うえ…甘い。 苦手な筈の甘味を態々噛み砕く訳は目の前のオレンジ頭の子にあった。 えへへ。そう言わんばかりの笑い方。良い具合に酔ってる彼の頬はほんのり赤く色付いている。 普段の強面からは想像も出来ない子供らしい笑い方に浦原の心は心底参っている。ポキリ、前歯で噛み砕けば簡単に折れるポッキーの音。そして広がる甘い香りと甘味、更に目の前の酔っ払いに胸焼けを起こしてしまいそうだ。 「もう良いっスか…黒崎さん…」 「らめら!まだ三本しか食ってねーらろう!」 「呂律回ってねーよガキ」 着込んだ作業衣の裾から愛用の煙管を出そうとして失敗。子供の手が見逃さずに浦原の腕を取って止めたからこちらは成す術がないのだ。否、力では浦原の方が上なので子供一人をどうこうしようも至極簡単なのだが…他でもない溺愛する一護が施す甘えに浦原はとても弱い。弱くて好き勝手させてしまうのだ。 「まらまら甘くなってねーって!」 ほら!食えよ!そう言ってポッキーの箱を目前に突き出す。相変わらず酒の色を消さずに笑う姿は無邪気で残酷だ。大人の理性を好奇心だけで崩されちゃ堪ったものではない。 事の発端は浦原のキスが苦いとブーブーブー垂れた子供の発言。酔ってなきゃ絶対に言わないであろうその言葉に最初は面白がっていたが、学生鞄から取り出したポッキーを食え!と半ば強引に勧められてからは後悔の渦に巻かれた。 挑発すんじゃなかった…。 酔っ払った子供は何よりも誰よりも無敵である。まあ、惚れた者負けの心理も入っちゃいるが…。 ポキリ。 渋々唇に挟んで噛み砕く。 「……あま…」 吐き出した愚痴を子供の笑顔が拾い上げる。 えへへ。未だに笑いっぱなしの口元に箱から取り出した新しいポッキーを咥えさせる。 パキン! 勢いを付けて噛むから子供の口元からは違う音が聞こえた。 「うめえ!」 「そりゃあ良かった!ほら!じゃあ全部あげるー!」 そのまま流されてしまえ。と箱ごと一護に押し付けた所でもの凄い勢いで押し倒された。 予想だにしなかった子供の行動に呆気に取られ、身構えるまでも無く後頭部を畳の上に叩きつけてしまう。ガツン!今度は火花が散ったかと思う程の音が後頭部から響く。 「いったああ!ちょ!一護さん!これめっちゃ痛い!絶対コブできたからこれ!何笑ってんだあんた!聞いてる?!いきなり飛びかかる奴がありますか!もうちょっと色っぽくおした…お、」 ちゅっ。 痛いと体が感じた瞬間、言い知れぬ殺意を感じたがそれも軽やかで可愛らしい音と共に、触れては離れた唇に全て掻っ攫われる。 「えへへーあめえ」 浦原の上に乗り上げてはバードキスを贈ってぺろりと甘味を味わった一護は意味深に美味いと呟いて何度も小さなキスを仕掛けた。 ちゅ、ちゅ、ちゅ。 「…甘い?」 「ちょうあめえ!浦原あめえ!」 「フ、そりゃあようござんした」 ああ、自分はこの子供にすこぶる甘いようだ。 好き勝手されるのは本来、柄じゃない浦原だが、この子供にかかってしまえば意図も容易く甘受してしまう己に対して笑いをひとつだけ零して降参。 「キミには敵いませんよ全く…」 「えへへーあめえな、あめえようらはら」 「はいはい。もっかいキスして?いっぱいして?」 乗り上げた子供の細い腰に腕を回し、顎を取って甘く口づけを強請った。 甘受さえも甘いのだから胸焼けは更に酷くなるばかり |