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あーやだやだ。浦原は不機嫌な面持ちを隠さず前面に出す。
ボタンひとつひとつ閉めていくこの瞬間が窮屈でたまらないから第一ボタンだけは外し用意されたネクタイは見て見ぬ振りをしながらグレイのベストを装着。細いパンツとベルト、そして上着は名高いブランドのロゴとマークがタグに存在していた。あーやだやだ。窮屈さに眉間の皺が増える。
肩書きとしては取締役になるが、私服出勤オーケイな職場なのに今日は半月に一度の会合で正装を余儀なくされていた。優に一年振りのスーツはあまりにも窮屈で息が出来ない。だから嫌いなのだ。
朝から引き摺る偏頭痛、そして息苦しさと底まで落ちた気分のまま会社のエレベーターを降りて「UKコンサルタント」と書かれた扉を開いた。

「おはよ…って珍しいっすね社長。スーツだ」

開口一番に言葉を投げたのは部下でもあり学生時以来の悪友でもある阿近で、皮肉たっぷりと少しの茶目っ気を装って浦原の事を社長などと呼ぶ。
片眉をピクリと上げてひとつ無言で頷く。
俺は今、酷く機嫌が悪いから無駄口叩くなよ。
しかめっ面はそう威嚇する。浦原の性格を一から十まで把握していた阿近は肩を竦めながらフと笑った。
朝一番のコーヒーを飲みたいが洗い場に向かうのも億劫で自身の席につこうとした所で背後の扉が開く。

「お、黒崎おはよーさん」

阿近の能天気気味な声に浦原も後ろを振り返る。と、そこにはドアノブに手をかけたままの黒崎一護が硬直し動きを全て止めて突っ立っていた。

「どったの黒崎?」

口をあんぐり開けて浦原だけをその瞳に映し出す。阿近はタバコを口に咥えたまま手をひらひら振ってみせるが、微動だにしない。なんだ…?浦原も思いながら眉間の皺を更に寄せて黒崎を見つめる。

「だ、…っ、び、ビビった…」
「…なにが?」
「しゃ、ちょう…スーツ!」
「黒崎…お前、カタコトになってんぞしっかりしろよ。浦原の正装がなんだって?」
「反則だ!」

ハア?二人して声を出し、顔を見合わせる。
少数で運営を行っている職場でただ一人、華の二十代である黒崎を可愛がる社員は多い。見た目の派手さを裏切って根はうんざりする程真面目で、もうちょっと手を抜けば良いのにといつも思っていた。現にいつだったか「上手なサボり方教えてあげよっか?」耳打ちしたら真っ赤な顔で耳を抑えて奮闘された覚えがある。
ああ…。数週間前の事を思い浮かべて浦原はある共通点を見出した。成る程、悪い笑みが表に浮かぶ。

「黒崎サン。」
「な…なんすか?」
「僕のスーツ姿、ツボでしょう?」

ボン!浦原の一言によって茹で上がるくらい真っ赤に染まった一護の顔。なんとも愛らしい照れ方に触発された阿近もにんまりと悪どい笑みを浮かべた。

「へえ…じゃあ俺も明日からはスーツ出勤しよっかなあ」
「なに言ってんの。黒崎サンはアタシのスーツ姿がお気に召したんだお前のじゃあ無理だ。ね?黒崎サン」
「いやいや分からねーぞ?スーツフェチってやつはギャップに翻弄され易い」
「おや。大層自信ありじゃないかそれなら月に一回はスーツ出勤デイにしよっかなあ」

悪巧みの笑みをそのまま貼り付けた男二人の前で黒崎は、わたわたあわあわと口を開きながら右往左往するしか術は持たない。
普段の装いもさることながら、やっぱりこの人…センス良い…。黒崎の瞳にはスーツ姿の浦原しか映し出されていなかった。























U(うらはら)K(きすけ)コンサルタント(爆笑)




あきゅろす。
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