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You have been troubled with what I said.



I did not think troubling you, although it is having said for you.
It cannot be said to sorry.
I want you to cry.
What should I just say?
sorry and I say good-bye...



君に泣いて欲しいんだと言った男の表情は酷く切なげでこちらの心臓を潰さん勢いで歪んでいたから一護は何をどうしたら良いのか分からなくなってトリガーを引いてしまった。
カラスがカアカア煩く鳴く夕暮れ、オレンジ色を混ぜた優しくない真っ赤な色が室内に充満する。そこから見える太陽の明るさ等は一護の瞳に入ってこない。琥珀色が薄汚れていく瞬間を浦原は見て心強く思った。
いなくならないで僕の太陽。
詩人の様に思って伸ばした腕は彼をドアの外へ放り出す。予想外な己の行動に目の前で横たわった男の体が夕暮れに濡れた。
なぜこうなったのか、そしてなぜ一護が己の愛用しているトカレフを持っているのか。全てにおいて謎だったがこれだけは確かな事実で浦原は頭を抱えてドアへと凭れ腰を下ろす。
ドンドン!ドン!ドン!
浦原開けて!開けて!浦原開けろ!開けろよ浦原!
一護が泣き叫ぶ声がドア越しに。鼓動と熱くなった吐息が振動と共に伝わってくる。

「ああ…今は夕暮れ時、なんとかしなきゃ…うるさいなあ一護さん…」

ドンドン!!ドンドン!
あけて!あけてここを開けろ!と一護は相変わらず煩く浦原の鼓膜を劈く。
目の前に横たわる男は僅かだが息を漏らしている。ヒューヒューと不格好に生きている姿はとてもじゃないけれど醜いと思った。

「あなたがいけないんだ…早く一護さんを離していたら良かった…あなたがいけない…あなたが…悪いんじゃないか!」

振り上げた掌には鈍器。



全てはアタシがしでかした不始末です。と男は淡々と語っては視線を演技臭く反らした。
嘘を吐いている目だと平子は悟った。悟ったがしかし、証拠は全て卓上に置かれている。指紋から凶器、動機からアリバイに置いて全て完璧に備えられている。そこが落とし穴だと言う具合で証拠は十分に揃えられているからそれが逆に胡散臭かった。完璧な物などこの世にはなくどこか欠落部位があってもおかしくないのに卓上の書類と目の前の男の瞳がソレは完成された血生臭い惨劇だと語る。
一番に胡散臭い。
何はともあれ解決ですね先輩と、去年結婚したばかりの幸せボケを引きずる後輩は笑顔で言った。
ナニが解決なもんかくそったれ。

「後味悪いわボケ」

彼の男は髪を短く切られ独房の中へ、そしてもう一方の青年の事を平子は気にかけた。
黒崎一護、書類上では他人でも戸籍上では浦原の兄弟となる者。
可愛い弟ですよ、男はにっこり笑ってそう言っていたが平子は違うと踏んでいる。

「アレは弟に向ける目やないで」

吐き捨てたセリフと共に煙草を放りアスファルト上で火を踏み消す。
むわりと雨の香りがして曇天を煽りながら嫌になると内で呟いた。


貴方に泣いて欲しいのだとあの男は言った。さぞや悲しげな顔をしていただろう自身に向かって最高潮の文句を言って見せた。
一護の目の前では珈琲に砂糖5個とミルクをたっぷり注いだ平子が居る。ブラックで良いと言ったから淹れたのに…なんだろう嫌味かな?そう思ったのも束の間、兄の事で聞きたい事が二点あると年若い刑事は告げた。

「戸籍上では兄やな、これは…」
「兄は母親の連れ子だったんです。両親が再婚で、それで俺よりも上だったから兄。」

そうか、かなりべっぴんさんやな母ちゃんは。卓上に置かれた写真、浦原の写真を指先でなぞった後に刑事はフフと笑った。

「死にました。」

ピタリ、刑事の指先が止まる。

「死にましたよ。母は3年前に。」
「…そうか。気の毒様や」
「他の男と心中でした」
「………」

夕暮れ時、ここは西日が強く射し込むな。
窓を背にした青年の表情が上手く伺えなく、平子は目を細めて見る。

「余所見ばかり…母はそんな女の人でした。きっと兄も呆れていたし、うちの親父なんてなんで再婚を考えたのか…まあ確かに美人ではあった。あったけれど…ダメな男に引っかかるパターンだあーいう女は」
「…なんやオヤジさんの事、遠まわしに貶してんのか?」
「ハハ。まさか………アレも、ダメな男でしたから」

アレ。
実の親に向けて放つ言葉では無いな。平子は苦い気持ちで珈琲をズズっと啜る。なんて苦い珈琲なんだろうか…砂糖とミルクを多めに入れたと言うのに、珈琲独特の苦みは平子の舌先を痺れさせては胸に苦味を落した。
まだ…青年の瞳が何を物語ってるのかが分からない。

「ダメって…まあ男なんてそういうもんやろう。浮気癖でもあったんかい?やから…兄貴が殺した?」
「刑事さん、何が聞きたいんですっけ?」

青年の声は無邪気に歪んでいる。
平子は初めて違和感を感じた。
なんやこの部屋…おかしいで…。

「刑事さん、甘いのがお好きでしたか?」
「あ…や…すまん。癖やねん。ブラックが好きやけど…なんや、この色が嫌いでな」
「俺はブラックは嫌いだ」
「甘党なん?自分」
「兄が好きなんですブラック」

言葉を区切って珈琲を飲む。一護の珈琲には何も入っていない。不躾な白さはどこにも無かった。
鼻腔を燻る焦げくさい香りの出所、珈琲じゃ無い?平子はクンと鼻を鳴らす。少しの音も逃す事をせずに一護はマグカップに唇をつけたままクスリと嘲笑。

「臭い…ですか?」
「いや…やけどなんや…おかしいなこの部屋」
「おや。何かおかしな部分でも?」

そう、おかしい所など何ひとつない所がおかしいのだ。
どうしてこんなに綺麗で、そしてどうしてこんなに焦げ臭いのか。否、焦げくさいとは違う。これは…ニスの香りだ。

「だだっぴろい部屋やな…あの壁はなんや?ドアのひとつくらいあってもおかしくないでこの部屋。現に外から見た時は二階建てやった筈や…………なんで階段も無いん?」

お見事。一護は声を出さずに笑う。


お前は母さんに似てとても綺麗だね、と父は言った。
初恋の人を娶った男の末路なんてこんなもんさと頭のいかれたベーカリーの婆さんは墓標を眺めて一護に告げる。あれは今日みたいに嫌な雲が流れる雨の日だった。
大型トラックの下敷きとなった母に最早人間としての型など残されてもいず、灰と化した母にはどこにも生前の面影は見当たらなかった。人間はこんな簡単に死んでしまうのですね牧師様。幼き頃の賛美歌が未だ耳に残って離れない。

「お前の泣き顔も笑顔も全部母親似だね」

一護を溺愛していた父親が次に娶ったのは被害妄想の激しいあばずれで、美しい母のブロンドを濃く受け継いだ男が一護の兄になった。名前は喜助。母の旧姓でもある浦原を捨てれずにいる彼を皮肉っていつまでも兄とは呼ばずに浦原とだけ呼んでいた一護であったが、父の愛情は一護が成長する毎に酷くなりつつあったのも重なって一護は浦原の制止も聞かずに家を飛び出した。



「兄さんがいけないんだ…」

走馬灯が頭を駆け巡る。呪文のように呟いた言葉はフローリングに落ちて砕けて刑事だった男のトレンチコートを赤く汚した。
兄さんが…浦原がいけないんだ。
ぼそりぼそぼそ呟く言葉を拾い上げてくれる人はこの部屋には居ない。
母の血を強く受け継いだ一護の体に触れるのは浦原では無くて父であり、浦原の心を欲して手を伸ばすも触れたのはあの冷たい指先ではなくて夕暮れの赤だった。
階段の無い部屋で、天井を潰した家の中、呼吸をしている生身の体を持っているのは一護だけで寂しいと泣いた心の隙間を埋めるのは屋根裏部屋にある大量のコカインだけ。
ブリーチした掌がとても臭い。なんだか顔までも溶けている気がして両手で顔を抑えた。やはり、漂白剤臭い掌からは人間の鼓動が聞こえずに思わずアアと泣いてしまう。
指先に残った筈の火薬の香り。
既に無くなってしまった香水の瓶。浦原の香りがもう無い。
無機質の独房に入った彼が戻るのは後何十年後だろうか。父殺しのレッテルをその背中に背負った彼はこれが愛なのだと自惚れているのだろうか。

「浦原がいけないんだ…浦原が…」

かつて愛されていたであろう女が毎夜毎夜呟いていた呪いの言葉が一護の胸を締めつけては嗚咽を誘った。
何も言えずにサヨナラだけを口走った男が今は、とても恋しい。






















小説の中にある深層と幻想と麻薬と愛でごちゃまぜにした焦燥をあなたにあげてそして歌ってみせましょうこの部屋でひとりサヨナラ




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