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浦原喜助のこんな姿、皆は見た事が無いだろうな。と一護は開けた扉に寄りかかりながら思う。
10畳程の部屋の真ん中にどでんと置かれた大きなダブルベッド。灰色と黒で統一されたベッドは至極シンプル。そのベッドに埋まる様な形で浦原はうつ伏せ状態のまま(しかもこれは…きっと全裸で寝てるな…)枕を抱いてくーくー寝ている。
窓から外の光を遮る黒のカーテンの隙間から少しだけ太陽の光が漏れて部屋をほの明るくさせた。
彼が好きな香の甘い香りと煙草、それから…

「…酒か…」

一護は眉間に皺を寄せてベッドまで近づく。ベッド側にあるローテーブルに携帯とセブンスターが無造作に置かれている所を見ると、風呂に入ったは良いが水も飲まずにすぐベッドインしたと言う所だろう。

「…おいコラ馬鹿」

広々としたベッドの中、真ん中寄りに寝そべった男が気持ち良さそうに、んー、と唸った。空いてるスペースに腰かけるとキシとベッドが鳴り、ふかふかとしたマットの感触が伝わる。
枕上に散らばる金色の髪の毛を指先で遊ぶ。頭を撫でながら耳元で名前を呼んだ。おい、起きろよ浦原。一護にしては優しい甘い声で。それから低い声でこのまま起きなかったら犯す。とも言った。

「……それは、…僕が…抱かれる方……?」
「狸寝入りか馬鹿」

うー。と唸った後、浦原は顔を一護の方へ向けてだるそうに片目だけを開けて一護を見た。眉間に寄せた皺が浦原の表情を暗く映す。

「平子と飲んでたんだろ?」
「……その名前聞きたくない…」

頭が痛むのか、更に眉間の皺を増やして枕に顔を埋めた。
平子と飲んだのだからきっとリサも居たんだろう。あの二人と飲んだらいくら酒に強かろうが確実に潰される…。
時計は午前10時を示していたがきっと浦原が復活するのは夕方頃だろうと一護は思い、小さく溜息を吐いた。
やっと二人で休みが被ったからドライブ行って映画観て外食でもしようと思っていたのに…平子覚えてろ。と心中で思い、金髪のおかっぱ頭を思い浮かべながら拳を握る。

「……どこ行くの」

先ずは水を飲ませようと腰を上げた瞬間、右手首を掴まれて引っ張られた。

「…水。飲むだろう?少し薄めとけ」
「嫌だ」
「ガキかっ。明日からまた連勤だろ?辛いだろ…」

頑なに離そうとしない。未だに枕元から顔を上げずにいる浦原は声だけで拒否する。本当に子供っぽい…。呆れて立ったまま浦原の次の言葉を待った。
浦原は酒に強いが、平子とリサが酒の席に加わるとこうなる。3ヶ月にいっぺんの割合でだが…あの二人が浦原を上回る下戸だからそのペースに乗って飲んでしまうのだろう。
約一週間分の疲れとストレスが溜まった体に一晩漬けの酒は辛い。

「……怒って、ます?」
「………」
「折角休み取れたのに…って、」
「………」
「……一護さん…」

怒ってないと言えば嘘になる。
久しぶりに二人一緒の休みが取れたのだ。たった一日だけど久しぶりに街に出て、映画観たり買い物したり外食したりしたかった。だけどそれよりも休んで欲しかった。一週間ずっと仕事に縛られていて、休む暇も無くあちらこちら移動しては書類と向き合い、会議なんて一日に何回あんだよってくらいずっと会議室に居たり。先月職場で見た時、あんたの目の下にクマが出来てたのを見たらなんだか居ても立ってもいれなくて。駆け寄って抱き締めてやりたかった。
もっと休めよ。ゆっくり休めよ。心配だよ…
浦原に言いたい事は沢山あるが、一護は素直にそのセリフが口に出せない。代わりに出てくるのはいつでも憎まれ口ばかりで…そんな自分に歯がゆさを感じているのに…。浦原のこんな弱った姿を見るのは心痛い。

「映画…観ようと思ってたんだ。あと買い物も…来月ルキアの結婚式だから…あんたにスーツ…見立てて貰いたかった…」
「………」
「外食、京楽さんがさ良い所教えてくれたから……一緒に食べようと思って…た…」
「………」

口から出た言葉が止まらない。一昨日から練っていたプランが口から零れて夢になる。手首に触れた浦原の手の平が冷たくて、顔を上げない浦原はズルイと思った。少しでも去ろうと後ずさりしたら手に力を込める癖に、先程からだんまりだ。
一歩、ベッドに近づく。床に膝立ちをしてベッドに肘を付いた。まだ手は外されないまま、冷たくなったシーツに顔を埋める。

「怒ってない…って言ったら嘘になるけど。……休みがおじゃんになったからとかじゃなくて……」
「………」
「あんたさ…あんた…、休めよ。もう少し…休んでよ…」

心配だよ。そう言った時、浦原が起き上がるのがベッドから伝わる。それから頭を撫でられて、その撫で方が子供扱いされてるみたいで癪に障ったが、冷たい手の平が不器用に撫でるのが可笑しくて、笑みをシーツに隠してふるふると頭を振って誤魔化した。

「ごめんね……それと、ありがとう」

頭に浦原の吐息が近づき、それから髪にキスされる。これからはちゃんと休みながら仕事しますよ。と古典的なワーカーホリック男は笑いながらそう言った。
顔を上げると浦原の顔が思ったより近くて初めてでも無いのに近づいてくる唇に恥ずかしくて目を強く瞑って受け入れた。口内に入ってくる酒の香りと甘さでこちらまで酔いが回ってしまいそうだ。

「……分かれば良い…それじゃあ今日は一日家で過ごそうぜ」
「大丈夫ですよ、なんか目が覚めちゃった」
「だめ!今日は一日家でのんびり過ごす!今決めたんだ!」

別に外出しなくても家の中での楽しみ方も色々ある。映画はまた今度観れば良い、浦原の家には大型の液晶テレビがあるのでDVDを借りて来て観たら良いし、外食しなくても何か作れば良い。本当は浦原と一緒ならどこだって楽しめるし安心するんだ。それだけは絶対に言えないけれど。

「……じゃあお言葉に甘えて…DVDとか借りてきますか?」
「うん、俺もそう思ってた」
「じゃあツタヤ行きますか。映画、何観るつもりだったの?」
「マンションの中に閉じ込められた人達が見えない何かに襲われていくってやつ」
「…………ああ…年齢制限のやつですか…」

ホクホク顔の一護を見て浦原は苦笑するしか無かった。きっとDVDも年齢制限かかったグロテスクなホラー物なんだろう…そう思ったら少しだけ頭痛がし始めた。
なあなあ3本とか借りて良い?借りて良い?と一護の瞳がそう語るので頭を撫でてもう一度キスをする。ホラー物3本はきついので(精神的に)一本コメディを入れて4本にしよう。そう心中で浦原は目論み、もう一度、キスをした。


















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