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えっと…、これを左?え、あ…右か…そんで、これ?これ押すのか?押し、っうわ!…びびった…えと…んで右に回す!



「んぎゃぁああぁあああぁあっ!!」
「ちょっ!黒崎サンっ!?どうし……あーあ…」

羽織っていたベージュ色のコートをハンガーに掛けて、着慣れないワイシャツのボタンを緩めながらルームサービスを取ろうとメニューを見、革張りのソファへと腰かけようとしたその時、奇声が上がったのにびっくりして風呂場のドアを思いっきり開けると、そこに居たのはずぶ濡れ同然の一護が両肩を抱く様にしてブルブル震えていた。

「寒い、寒い、さーむーいーっ!!」
「…なにやってんの…あーあー。水じゃないスか。」
「お前が言ったんだろ!このスイッチ押して変な音出たらお湯が出るって!」

青の印が付いてるコックを捻っても水しか出ないと言うのは教えていなかったな…と浦原はガスがちゃんと起動しているのを確かめながら未だにザーザーと水が出るシャワーを止めて、近くに置いてある真っ白い大きめのバスタオルで一護をくるんだ。

「…私が悪かったっスよ。これね、赤がお湯だから。それにこの図柄がこれ、シャワーって言うの」
「……取りあえず風呂…寒い、寒い…クソ寒い…」
「…口悪いっすよ黒崎さん…」

駄目だ、この子一人で風呂は入れない。そう感じた浦原は目の前でシャツを脱ぐ。その潔さに一護は一瞬、浦原が何をしているのかが分からなくキョトンと小首を傾げたが、シャツを脱ぎベルトを外そうとした瞬間、察した様に一護の顔からボンっと音が鳴り茹で上がったタコの様に赤くなった。

「ななななっなにしてんだよ!」
「服脱がなきゃ入れないでしょ?」
「っ!だからなんでお前が入るんだよ!!俺から先だろ!?」

はぁ…。言われると思った。浦原は心中で思いながら溜息を吐く。それも心外だ!とでも言わんばかりに吼えてきた子供を見て、

「あのね、この調子で貴方一人を風呂に残すのが怖いの。だから一緒。ね?」
「俺はガキじゃねーっ!」
「……水被ったくせに」

ううっ。と唸る一護を見て再び溜息を吐く。慣れない現世で態々義骸に入ってのデート(果たしてデートと言うのか?3日3晩虚退治だったような…)も今日が最終日で明日の午後にはソサエティに帰る。今日くらいはゆっくりしようと思って手配していたホテルでの最初のひと騒動に、浦原はさて。と頭を働かせた。
辺りに目配せ、洗面台に置かれている小さな袋を見つけてこれだと思い手に取る。

「何…、それ?」
「見てて」

銀色のアルミ製の袋を角だけ開けながら中に入っている液体をバスタブへと注ぐ。

「わっ!」

二人でも十分な大きさのバスタブに注がれたお湯はもくもくと湯気を立てながらその液体を泡へと変えていく。真っ白い泡がふわふわと湯気に乗り小さなしゃぼん玉を作っては空気中に散漫する。
初めて見る光景に一護の表情は先程とは打って変わってキラキラしている。こうして見れば少年の様だと浦原は心中で思い、笑う。

「すげ…え、何これ…お前が開発したの?」
「違いますよ。これは現世にある…一種の娯楽?バブルバスって言うの」
「ば…バル?え、何?」

ぶくぶくと白い泡がバスタブを可愛らしく装飾し、浦原はコックを捻りながらお湯を止めてベルトを外した。それを唸りながら見て、段々露になってくる浦原の裸に更に真っ赤になりながら…どうしても一緒か?と小声で聞くも当の本人は無視だ。
そりゃあ、慣れない現世での失敗は多かったけど…それなりに楽しかったし(まあ殆どが虚退治だったけど…)今日で最後だからゆっくりはしたいけど…一緒の風呂って…まだ入った事ないし…なんか明るいし…

「…観念なさい」
「ぎゃっ!おい!おい!…っ浦原!!」

一護の洋服を剥ぎ取る様にし、素早くバスタオルでその裸体を包んだ後、横向きに抱きかかえ(当然暴れたが宥める様にキスを繰り返せば大人しくなる)静かにバスタブへと沈めた。フワフワした泡が瞬時に一護を包み込み、そのくすぐったい様な優しい感触に子供の瞳から羞恥心が無くなる。それを見計らって浦原は全ての衣類を脱ぎ捨て、向かい合う形で湯船に身を沈めた。
本当は一護が風呂に入ってる間ルームサービスを取って待っていようと思ったのだが仕方無い、これはこれで良いかもしれない。
初めて見る白い泡風呂に機嫌を良くした一護を見て、フと微笑みながらその鼻先に泡をつけてやった。

「ガキみたいな事すんなよ…」
「ね、上がったらご飯食べに行きましょうか。何食べたい?」

鼻についた泡を取りながら一護は考える。

「んー…何食いたいって言われても…昼に食べたフワフワした肉挟んだヤツ美味しかったぜ?」

昼に食べたハンバーガーを思い出して浦原は少し眉根を上げる。いくらなんでも夕飯にアレは勘弁願いたい。

「………お米、食べましょうか。肉料理と魚料理どっちが良い?」
「だんぜん肉!」
「はいはい。じゃあ肉料理ね」

ホテルから少し離れた場所に馴染みの料亭がある事を思い出して後で電話しようと思いながら、泡遊びを始める目の前の子供を愛し気に眺め笑った。




バブルトリップ




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