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番外編




「あれ?今日はギター持参ですか?」
「ああ……どっか置く場所無いか?」

午後にスケジュール移動させた撮影日に一護が持って来たのはメイプル1ピース・ネック仕様である56ストラトキャスター。黒のメタリック調の至ってシンプルなデザインだ。ギターカバーも同色なのにそれを持ち歩く人間が対照的に眩い色彩を持ち合わせているのだから浦原は少しだけ口角を上げた。一護は何色にも染まらないな、と思う。

「ギターなんて久しぶり。これ、一護さんの?」
「おう。ってか触った事あんの?あんた」
「うーん……音楽の授業の時くらい、っスかねえ…」
「………ごめん。なんか学生時代を想像できない…」

失礼な。
少しだけ眉を上げて恨めしげに見ると青年は笑った。この頃、良く笑う様になったなと思う。最初はギクシャクとして、こちらに警戒心を丸出しにしていたのに(きっとこの青年は隠し事が出来ないであろう、感情が顔に出てしまいがちだ)いつの間にか浦原の前でコロコロと表情豊かに笑むのだ。
まるで猫みたいだ。浦原は思う。

「もしかしてこの後は収録?」
「うんにゃ、恋次の家に置いてたのを引き取っただけ」

そう言いながら肩からギターを下ろし壁に立てかける様に置く。しんと静まった室内に弦が揺れる音が聞こえた様な気がした。

「…ねえ、ちょっとなにか弾いてみてよ」
「は?」

今度は瞳を少しだけ細ませてきょとんとした表情をする。あ、なんか子供っぽいかも。そう思ったけれど言葉には成さずに笑ってみせた。

「なにか…って?」
「うーん…何が得意?」
「得意っつーか…レッチリとかジェット、ニルヴァーナにフィンチくらいなら…」
「上出来。じゃあ、フィンチのレタートゥユーは?」
「得意」

パーフェクト。そう言って浦原は笑った。
流石と言うか、慣れた手つきで軽くチューニングを済ませ、フローリングに座りながらギターの弦を弾いた。
途端にメロディが部屋中に充満する。耳慣れたメロディ。照れ臭いのか、一護はメロディを生み出すだけで歌ってはくれないかった。少し残念だと思う。

「It's empty tonight and i'm all alone」
「……Get me through this one」

流暢な英語だと思う。流石だと言うべきか、当たり前と言うべきか。
じーっと見られながらこんな風にリクエストを受けてギターを弾いた事が無いので恥ずかしさのあまり俯いてしまったが、メロディに乗せて歌を紡ぐ浦原の声がすんなりと耳に入ってきてからは目の前に居る浦原をついつい見つめてしまった。
カチン、目と目が合わさった時の音が鳴った…、様な気がした。
合わさった金色と琥珀が自然に重なり合って目が反らせない。やっぱり不思議な色だと思う。吸い込まれそうな、力強いんだけれどどこか寂しいその色彩に心を奪われてしまう。

「Do you notice i'm gone?」
「Where do you run to so far away?」

瞳が合わさった後は声とメロディが合わさった。浦原の声は凄く心地良い。やっぱり歌上手いな。そう思いながら弦を弾き、歌を紡ぐ。
英語は得意では無いけれど、なんとなく形としては覚えている。多少、浦原とずれる所もあったが、それは奏でたメロディラインと浦原の声によって掻き消された。

「I'm gone away……流石、一護さん」

ジャララン、と最後は静かにブルースを奏でる様に弦を緩く押さえ、音を消した。
それに合わせて浦原の声も消えていく。ちょっとだけど残念だ。

「あの黒崎一護に弾き語り頂いたお礼は高くつきますかね?」

ニヤリと意地悪く笑う。その挑発的な笑みが一護の胸を大いに高鳴らせた。鼓動が煩い、きっと彼に聞こえるくらいの爆音だと思う。

「ふん。高いどころじゃねーぜ?代わりにあんたも何か弾けよ」

一護も負けじと意地悪く笑みながらギターを渡す。

「えー?…何が弾けたっけなぁ…じゃあ、」

少しだけ戸惑いながらもギターを受け取り、ピックでじゃらんと弦を弾いた。素人にしては綺麗に音が鳴る。きっと何年かはギターを触っていましたと言う感じの音の出し方だ。

「ビートルズかよ」
「あら、馬鹿にしちゃいけませんよ?」

喉で殺す様に笑った後は再び流暢な英語を紡ぎ始め、瞬く間にロック・ポップスが広がった。懐かしい響きでもって一護の耳を優しく撫でる。
浦原の声が、ギターの音が。一護の心臓箇所に小さい傷跡を残す様に記憶を刺し込む。
所々で聞こえる愛しているの単語がやけに耳に痛い。
彼の母国語であろうその発音で持って紡がれると恥ずかしい様な居た堪れない様な、責められているわけでも無いのに何故か心苦しくなる。なんだって恋ってヤツはこうも複雑な思いを持たないといけないんだろう?
彼の神経質な指先がC7を弾く。彼の甘い声が歌を紡ぐ。少しだけ伏せた瞼、その長い睫に夕焼けが重なって影を作る。
西日が射し込み始めた部屋はうっすらと赤色に染まり、ギターを弾きながら歌う浦原がひとつの画になって一護の目に映る。行った事も無い筈の彼の故郷を感じた。

「…んだよ、上手いじゃねーか」
「まさか、君よりは劣りますよ?」

なんでも器用にこなす嫌味なヤツだな、そう言ったらまた笑われた。
音が鳴り止んだ部屋はいつもの色彩を濃く映し出し、一護に幻想を見せるのを止めた。もう少しだけ、ほんのちょっとだけ、あの幻想に酔い痴れていたかった。時間が止まってしまえば良いと、生まれて初めて思った。

「久しぶりに弾いたから指が痛いっス…」
「はは!だらしねえ!」
「君はいつも弾いてるからね。」

不意に指先を握られる。浦原の体温が一瞬にして一護の温度と混ざり合う。

「やっぱり、硬いね」
「…ま、毎日の様に触ってたらこーなるよ!」

なんだか恥ずかしくなって、乱暴に浦原の手を払った。
女の子みたいに柔らかな指先じゃない事に少しだけ落胆した。やっぱりどう足掻いても自分は男であり、浦原も男だ。
男が望む滑らかな肌も、柔らかな温度も皮膚も、何も持ち合わせてはいない。彼が触れたのが自分の固い指先だと言う事が、こんなにも男だと言う事を痛感させる。なんで、……馬鹿な事を考えるかもしれないけど……オンナノコだったら良かっただなんて思った。

「一護さん」

自分の馬鹿らしい思考がバレない様に、浦原に背を向けてギターを仕舞う。やけに丁寧に仕舞う、時間稼ぎだ。
背後から聞こえた声はなんとも優しいメロディを奏でながらすんなりと一護の背中を撫でた。

「また、こうして遊びましょうね」

そう言って笑った浦原の顔に夕焼けの赤がほんのりと馴染み、まるで照れている様な錯覚を見せる。

「…おう」

きっと赤くなっているであろう自分の頬も、この優しくて暖かな夕焼け色に染めて隠れる事を願いながら、それでも一護は笑った。嬉しくて、笑った。





























おぼろげに繋がった単調なメロディ、照れ隠しで弾いたC7







◆camera番外編となります^^^
最近仲良くなりました素敵絵師オコバさんのイラストを見て僭越ながらお話を思い浮かべてしまったので許可を頂いて書いちゃいました^^
やふー!!やっと書けて満足だぜ!と一人で浮かれていますが、時間系列は撮影時です。まだまだ一護の幼い恋情が爆発する手前です(笑)
素敵なオコバさんのイラストではギターとカメラの交換をしているんですが…やっぱり力が足りなかった私は弾き語りをさせる事で妄想爆発させました…反省…。
オコバさんありがとう御座います^^^すげー楽しかったです^^!
ここまで読んで頂き有難う御座いました^^またcamera本編に力を注ぎたいと思います!^^



meru




あきゅろす。
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