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彼恋2


「あ!何見てんだよてめえ等!!」

怪訝そうにグリムジョーの後姿を見送りながら控え室のテーブル上で広げられた写真集を見た後で一護はこれでもかと言う具合に顔全体を真っ赤にさせたまま、ソレを捕らえようとした。その隙を狙って修兵と恋次の手が横から掻っ攫う感じで取り上げる。

「あぶねーあぶねー、危うく破かれるとこだったぜ」
「返せよ!何勝手に見てんだよ!」
「…や、返せってお前…これ買ったの俺等だけど?」
「何勝手に購入してんだよ!燃やしてやる!よこせ!」
「お前ね、それはいくらなんでもじゃない?有名カメラマン浦原氏の作品でもあるんだけどな〜?」

ぐっ、と息がつまった。
修兵の口から浦原の名前が出てきただけでもこんなに胸がきゅうっと締め付けられる。なんだよ一体。名前だけでこんなにうろたえるだなんて重症じゃないか。
きゅ、と下唇を噛んで口元を一文字に結びながらもその鋭い視線は目前で写真集を片手に広げている二人の男を見据えていた。
浦原の作品でもある写真集。そう修兵は言った。それでもやっぱりどこかしら恥ずかしい物がある。まるで兄弟にお遊戯会でのアルバムを見られている感覚に近しい物があるのだろう。一護は首元まで真っ赤に染めながら、恥ずかしいもんは恥ずかしい!と心中で叫び、隙を見て恋次に飛びかかった。

「うをっ!お前どんだけシャイボーイだよ!」
「るっせーっ!修兵は許すとしてもお前にだけは見られたくねーっ!」
「差別!差別!」

あ、俺は良いんだ。そう思いながら、乱闘を起こし始めてじゃれ合っている(一護は本気だけど恋次が手を抜いているので猫のじゃれ合い程度にしか見えない)二人をよそ目に、テーブル付近にある茶色のソファへと腰を下ろしてまた一枚とページを捲る。

まあ、俺は小さい頃から一護の傍に居るしな。あいつが小さい頃の写真なんて五万と言う程見せられていたし…ってか真咲さんと一心さんがすげー一護の写真ばっか撮るから一護がカメラ嫌いになるんだよな〜。だなんて暢気に考えながら昔の事を思い浮かべていた。
ペラ、捲った。そのページにはマイクスタンドの前に立ち、どこか遠くを見て歌っている一護の姿があった。多分、あの時のライブで撮ったやつだろう。真上から淡いスポットライトが一護だけを照らし、その周りは真っ暗でそこには一護しか存在していない様な錯覚を生み出す。あの切ない小さなラブソングを歌いながら、写真集の世界に一護は一人、聴こえないメロディーを紡ぐ。
畜生。修兵は静かにそう思った。
なんだってこんな切ない気持ちにならないといけないのだ。浦原喜助の撮る「黒崎一護」は切ない。
それは被写体から滲み出る小さな恋の儚い色彩なのか。はたまた撮る側の諦めに似た執着心の色彩なのか。

「悪い意味で交じり合っている…」

自分にだけ聞こえる様に呟く。きっとその交じり合った色彩が目に毒なのだろう、そこまで考えた時、ガシャンと些か派手な音が響いたので恐る恐る背後を振り返る。

「っぶねー!!冷や冷やさせんなバカっ!」
「…っせぇ……」

はしゃぎ過ぎたのか、もしかしたら恋次のからかいが癪に障った一護がヒートアップしていったのだろう。パイプ製のテーブルが見事にひっくり返って倒れている。それに巻き込まれて同じくパイプ椅子も不様に倒れていたが、恋次が一護の腰を支えているのでボーカル様に傷は無いようだ。そこら辺は褒めてやっても良いが、いい加減落ち着いてくれ。と修兵は溜息交じりに立ち上がった。

「お前等ねえ…もう良い大人なんだから落ち着けっての…」

元はと言えば一護をからかいすぎた恋次も悪いではあるが、ムキになって周りが見えなくなった一護も悪い。咎める様に普段より低くそう言うと、二人はバツ悪そうな顔でそっぽ向く。
あーあ。こんなに床水浸しにして…。テーブルがひっくり返った事で、置かれていたジューサーが倒れ、中に入っていた飲料水(多分だけどスポーツ飲料とかそこら辺の類)が床にぶちまかれ、煙草やらが被害にあっている。買いなおさないとな…だなんて暢気に考えていると、床の上に倒れた無残な姿のテーブルの傍から黒の物体が見えて、修兵は恐る恐る、穿いているジーパンの後ろポケットを探った。

「…おい、まさかと思うが……あれ、携帯?」
「……」
「…!!?」

その時、自分の携帯のエナメル質な手触りがどこにも無い事に瞬時に三人は感じ、同じ様な表情で数秒だけ呆然と水浸しになっている床と、無残な姿の携帯をまじまじと見つめているだけだった。
もしここで誰かしらの携帯がアラームでも何でも良い、正常に機能して、その耳に小うるさい機械質な音源を発してくれていたら直ぐ様次なる行動に出る事が出来ただろうが、まさか携帯がずぶ濡れになっている事態を目の当たりにして瞬時に行動が取れなかったのが災いした。

「まさかだろっ!」

先に恋次が自分の携帯を取り、それに続いて、修兵、一護も自分の携帯を手に取る。
手の平に乗った携帯は起動するのを止めた様にしんと静まっていて、ずっしりとした重さがまるでその携帯の魂みたいだった。濡れた液晶画面には何も映さない真っ黒な闇だけがぼうっと浮かび上がり、少しだけ傷がついた液晶には自分の顔だけが映し出されていた。



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