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一護は緊張していた。それこそ心臓が壊れるんじゃないか、と言うくらい内側からの圧迫感を味わう。
中学の時に同じ男子生徒らが話している恋バナにてんでついていけない事があった。まず、恋と言う物がどんななのか知らない歳でもあったし、別に今は友人と馬鹿やって楽しむのが心地好かったから、あまり異性を意識した事が無かった。高校生になった今、男女問わず話しの話題になるのはいつも決まってソッチ方面だったけれど中学同様、一護は話題に乗れずただ聞き役としてそこに居た。
中学の時は高校になれば恋もしていくのだろう、と思っていたがきっと自分は淡白な方なのだ。そりゃあ可愛い女の子が居たら自然と目が追うし、雑誌に掲載されるグラビアアイドルの写真に少しも興味が無いと言えば嘘になる。
けれど恋は理性だけでどうにかなる物では無い。漫画やドラマ、映画や小説にある一般的な恋が一護にとっては理解不能だった。それが15歳の時。本日を持ちひとつ歳を重ねる今となって、一護はやっと恋を覚え、世間的に「恋人」と言うのが出来た。

浦原喜助はとんとイレギュラーな存在で初めの内は男に対して強い警戒心を持っていた。なんの感情も読み取れない表情を顔に貼り付けてコンを排除すると言った声にさえも感情の色が入っていなかったからだ。それがどうだろう?今は恋人同士としての付き合いがあるのだから人生、どこでどう転ぶのか分った物じゃない。それはまるで氷を溶かす様に、浦原は子供の警戒心を解き、己をその心内に詰め込んだ。
今日で一護は16歳になる。15歳の時には感じていなかった恋の感覚を、今現在、一護は痛いくらいに感じている。
さて、ここで冒頭に戻るが一護は今、緊張している。表面上ではそれを巧妙に隠している為、緊張感は伺えないが、心臓はバクバクと脈を速め、少しだけ酸欠状態に陥る。深呼吸をひとつして意を決した一護がそろりと口を開いた。

「……親父、今日…さ。………夜から出かけて良いか?…チャド達が祝ってくれるらしくって……チャドん家に、行きてーんだけど…」

夏休みが間近に迫った学校では午前中授業だけで終わる事が多くなり、今日も現国語だけしか授業を受けていない。後は実習と言う名の自由時間だった。
一護は今、父親の車に揺られ妹達が通う学校へと向かっている。今日は外食だ。
口を濁し、そして慎重に言葉を選びながら。助手席の窓を開けて真っ青な空を仰いだ。

「なんだ、泊まりになるのか?」
「……一応…」

そう、もしかしたら泊まるのかもしれない。そして………
もしかしたら今日、浦原と恋人同士としての夜を過ごすのかもしれない。



明日は誕生日でしょう?と普段と変わらない声質で男が聞いてきたので一護は自分が何を言われたのか最初の内は分らなかった。あまりにも自然に、あまりにも普段通りなので、あれ?俺って誕生日だっけ?と一瞬思ったりもした。

「……そ、だけど……あれ?俺言ったか?」
「いーえ。妹さんに聞きました」

ああ。そう言えば夏梨と遊子はここの常連だっけ、と思う。なんだかおかしな話だ、自分の恋人(世間ではそう呼ぶであろう人)が自分の妹達と顔見知りとは……。なんとも居た堪れなくてかなり気恥ずかしい。

「いくつになるんですか?」
「え……えっと、ジュウロク?」

なんで疑問系なのと浦原は笑う。
いつも変な帽子を目深に被り、他人に自分の内を晒し出さない彼が最近一護の前でだけはその瞳を隠す帽子を取る様になっていて、今は浦原の綺麗な瞳が鮮明に伺える。金色なんだか薄い緑色なんだか分らない不思議な色。ずっと見ていると吸い込まれそうな、まるで深海の様で、真っ白な光りの様な、そんな不思議な色。

「黒崎さんの誕生日ってのをウルルが聞いてね、それじゃあお祝いしましょう。って言っていたんで、……明日、家に来れませんか?」
「いや、別に良いよ……この歳になっても大勢で祝ってもらうのって…なんだか恥ずかしい」

子供じゃあるまいし……。少しだけ顔を赤くする。

「アタシが祝いたい」

見た事も無い瞳だった。真剣、とはどこか違ったけど、なんだかいつもの飄々とした浦原の瞳ではなかった様な気がして、一護は違う意味で顔を赤くしながら何故か何も言えずにコクリとただ静かに頷くだけ。
上手く浦原の顔が見れなくて俯いた顔を優しい手つきで上げさせられて頬に小さくキスされた。ありがとう。一護ではなくて浦原が言う。祝わせてくれて、ありがとう。その優しさを含んだ声色に、お礼を言う立場の子供は戸惑った。



昨日の事を思い出した途端、あの時身体が持った熱が再発する。どうにもこうにも……、親の手前、浦原の事を考えるのは極力抑えていたのに。記憶と言うのはふとした時に脳裏に浮かぶから困る。特に浦原の事となるとセーブが効かなくなる様な気がする。きっと毎日、頭の中は浦原でいっぱいで、凄く困る。恋ってこんな物だとは知らなかった。ただ一人の人に心が支配されてしまう。

「次の日も学校だろう?祝って貰うのはありがてーが、お前はまだ学生なんだからな。そこら辺はきちんと弁えておけよ?」
「……出かけても、良いって事かよ?」

普段テンションが人一倍高い父親の、真面目な物言いに言葉が詰まった。
ハンドルを持ちながら前を見据える父親の横顔を見る。

「ああ、ただ遊子達が今日の誕生パーティ楽しみにしているからな。あいつ等が満足するまでは家に居とけよ?あと、茶渡君に宜しく言っといてくれや。」

チクリ、と一護の中の良心が痛んだ。
父親の口から茶渡の名前が出た瞬間、本当は浦原の、恋人に家に行くのだと。言い出してしまいそうになる。一護は小さく頷いた。一護にとっての優先順位は家族が常にトップだ。きっとそれは浦原だって分っているだろう。だけどどうだ、今一護の胸の中は浦原でいっぱいで、油断したら優先順位が入れ替わってしまいそうになる。それが罪悪感に繋がるので、一護は隣に聞こえない様に小さな溜息を吐いた。



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