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ギシ、とベッドが唸りを上げる。
大の男二人分の体重により奏でられる音がこんなに卑猥だなんて一護は思ってもいなかった。出来れば耳を塞ぎたいが、目の前の憎たらしい悪魔のせいでそれは叶わない。
両手首を頭の上で拘束され(しかもどこから出したのか、銀色に光る手錠で、だ)自由を奪われるも、一護の瞳は常に悪魔を睨んだ状態だ。その瞳がドロドロに蕩ける瞬間が凄く楽しい。そう悪魔である浦原はひっそりと心中で思い、ほくそ笑む。

「そう睨みなさんな。逆効果だって、言わなかったっけ?」

くふりくふり、柔らかく笑う癖に赤く光る瞳だけは獣の様で、凄く意地が悪い。その瞳に捕らわれたら最後。一護は理性を保つ為にぎゅっと眉間に力を入れて睨む。
長くて神経質な指先が体の隅々を愛でる様に服の上から撫で、赤の瞳が変わらず柔らかく笑みを象る。最後の意地と言わんばかりに隙をついて蹴りを入れるも、易々とかわされ、逆に足さえも捕らわれる。
着用した衣服は上着のシャツと黒のボクサーパンツのみ。なんて趣味の悪い。そうは思っても、まだ熱を高ぶられる様に触れてこない事の方が不思議だった。今日は何かがオカシイ。

「なあに?不思議そうな目。質問があるならどうぞ?」
「…………何、企んでやがる?」
「おや、随分賢くなったじゃないですか」

喉奥で笑う様に声を出した男を睨むも、のらりくらりとかわされ、眉間の皺に口付けられた後、一護の上から退いて隣に寝そべり、左肘をついた状態でそこに頬を置き一護を眺めた。
いつでも何を考えているのか思考の読めない男の行動に不安になった一護の瞳の色がお気に召したのか、浦原は小さく笑うと指をパチンと鳴らした。

「………なん、だよ……これっ」
「久しぶりに召還してみました。一護さん、気に入ってくれると良いな〜って思って」

語尾にハートマークがつきそうな程、その声色には嬉々が含まれており、指が鳴った瞬間、一護の足元から緩慢な動作で現れたぬらりとしたゼリー状の不思議な生物に全身の毛が逆立った様な感覚を覚える。
マズい、これは、マズい。非常にマズい。
頭の奥で警報が鳴る。

「いやいやいやいや、なんだって聞いてんだよ!これなんだよ!」

一護の悲痛な叫びとは裏腹に浦原は暢気に微笑みながら一護の髪の毛を弄ぶ。時々キスを贈ったりもするが、うねうねと微動だに迫る軟体生物に一護はそれどころでは無い。
ぬめぬめとしたゼリー状のそれは赤ん坊の腕の太さくらいある体を器用にくねらせ、一護の太ももを辿りながら上へ上へのぼってくる。這われる度、軟体生物の体から出される液体がぬめり付き、気色悪さが倍増した。

「……きも、っちわりぃっ!!!!おい!バカ!これ取れよっ!!」
「あれま。口が悪い事で」

そんなお行儀の悪い子にはお仕置きっスよん、等と耳元で低く囁かれた瞬間、再び指を鳴らす。
浦原が指を鳴らしたと同時に、一護の体を這っていた軟体生物がピクリと反応し、あろう事か3つに分解。同じ大きさの気持ち悪い生物が増えた事に一護の顔は先程とは打って変わって真っ青になる。

「さあ、一護さん。じっくりたっぷり味わって下さいね」

悪魔の囁きが鼓膜をレイプした。




こう言うのも癪ではあるが、子供の頃は憧れていた。
金色に見える髪の毛は光の当たり具合で何色にも変化した。月の様な不思議な色だったり、砂漠の砂の様に寂しげで消えてなくなりそうな色だったり、眩しいくらいキラキラ光り輝く天使みたいな金髪だったり。自分のオレンジ色の髪の毛よりも綺麗なその色に目を奪われるばかり。
成長しても追い越せない男の背丈に何度か嫉妬もしたが、屈まれてキスをされるのも悪くは無い、等と思っている時点でアウト。既にこの男の虜となっている自分と向き合うのが嫌だった。
こんなの、空しいだけじゃないかっ。
浦原の口から代償と出る度に一護の心はそう叫ぶ。

ひゅっ、と小さく息を飲んだ。隠そうとしても両手を拘束された状態では十分な動きも出来ない。
声を出さない様に噛んだ下唇から少し、血が滲む感覚。口内は血液の鉄臭い香りでいっぱいだ。
うねうねと動く生物が液体を吐き散らかしながら一護の体を弄ぶ。それを見て浦原は柔らかく微笑みながら一護の髪の毛を弄ぶ。余裕綽々な表情を一発ぶん殴りたい。

「く……っ、ん」

三体の生物の内一体が一護の内部に細長い触手を忍ばせ、先程から緩い愛撫だけを繰り広げている。
時折触れる良い所をその触手が刺激した際に動く腰が情けなくて男としてのプライドをズタズタに切り裂く。浦原は直ぐ傍に居るのに、殴りたくとも手さえ自由に伸ばせられない。浦原は触れてくるのに、自分からは触れられもしない。それが一番悔しかった。

「…っ、まえ、……ほんっと……ぁ、後で、」
「殴る?それとも殺す?まあどっちでも良いスけどね。それよりもまだそんな口叩ける程元気があるなら……」

もう三匹くらい増やしてみますか?
意地悪な低い声で囁かれた。その絶望的とも言える言葉に一護は目を見開き、浦原を見る。開きっぱなしの口はわなわなと震え、若干涙目になった瞳の底が不安に犯されていた。その様を見て浦原は恍惚する。
ああ本当、良い顔をする。
思わず舌舐めずりをしてしまう程に。

「い……ゃ、だ……やだ……、」

弱弱しくも首を横に振りながら、泣くまい泣くまいと思っていたのに、浦原の冷めた赤色を見た瞬間、感情の箍が外れてブワリと何かを溢れさせ、その大きな眼からボロボロと無防備に涙が頬を伝い、黒のカヴァがかけられた枕に斑点を作り出した。
その間にも蠢く得体の知れない生物は好き勝手に一護の体を堪能し、緩い愛撫ばかり施すものだから、ピクリと動き出した腰は、腕は、足は、一護の思考全てを無視して生物と浦原をただただ喜ばせる。
契約なんて言葉、もう一生聞きたくない。
代償なんて言葉、なくなっちゃえば良いのに。
軽々しく欲しいだなんて言う浦原が凄く憎い。
それなのに、目の前の男は悪魔らしく微笑んで一護に偽者の愛を囁くものだから、またもや涙がボロボロと瞳から溢れ出、そして零れる。なんの、抵抗も無く。それが今の自分と重なって二重に悲しくなった。




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