The furtive romance to you 完成した歌を最後に歌おうだなんてベタ過ぎる事はしたくなかった。何気なく、いっそ清清しい程に、伝えられない心を詰め込んだ歌を何食わぬ顔で歌うには中盤にさしかかった時が良い。だから敢えて中途半端な所に組み入れた。きっと、マスメディア辺りは新曲と勘付くに違いない。でもこの歌だけは売り出さないと一護の中で決めている。世に出して良いものでは無い、こんな。自分勝手な歌は。 「あ…れ?」 一護達を照らしていた眩いくらいのスポットライトの光が少しだけその眩さを落とした所でベースの単調で低い音だけがフロア一帯に響いた。隣から小さな声がしたので浦原はウルルに視線を移す。 「………新、曲?」 「え?」 ウルルの声に反応したのか、目の前を陣取っていた観客全員がザワザワと雑音を奏で始める。浦原はステージに立つ一護がスタンドマイクを握り、目を伏せているのを見る。 暫くしてベースの音に一護の甘い声が乗った。たどたどしい英語だけど、綺麗だ。一護の声を合図にドラム、ギターの順番で音の色乗せが始まる。ロックバンドブリーチにしては珍しいバラード。ベースを引き立てて少し暗めに演奏をしているが、憂鬱にはならない。 浦原はカメラを構えるのを忘れた。と言うか、カメラを握れない。だって、だって一護さん。これは…。 彼は気付くかもしれないな。一護はどこか他人ごとの様に思う、舌に乗せた音がメロディーとして外気に吐き出される。それも自分の想いと一緒に、言葉となって、メロディとなって。彼の元に。 なんだか凄く胸が痛くて苦しい。ああ、ホラ。恋ってこんなもんだ。と誰かが言った様な気がした。 浦原、そうだよ、俺、お前の事が好きなんだ。自分の気持ちの代わりにメロディを口ずさむ。それしか出来ないでいる自分が凄く情けなくて、凄くちっぽけな様な気がした。 スポットライトが集中的にステージを、一護を照らす。さっきまで見えていたステージ下の観客の顔も見えない状態。探そうにも、彼のあの色を見つけられない薄暗闇の中、一護を覆うのは楽器の音と自分の声の音だけ。一人だと勘違いしそうになって隣の修兵を見た。 苦しい、苦しい、と発する音源の中で、理解者でもある修兵が一護の気持ちに気付いたかの様に見、それから距離を縮めた。 一護の間近、一護だけに向けて演奏している修兵の瞳を見る。 透ける様に溶けた黒の瞳に安心する。 恋の歌ってこんなに苦しいんだな。 まるで自分の歌から背を背ける様に、修兵を見て歌った。一人で歌い続けるにはあまりにも辛い、秘密の恋の歌。 「え…え…、凄い、近いです、ね……」 隣に立つ少女がそう呟いたと同時に、浦原は手に持つカメラを握り締めていた。 「………ええ、嫉妬するくらいに」 小さく、彼の声に紛れるくらい小さな声で呟いた。 「仲、良いんですね」 一度、写真撮影の時にそう彼に聞いた事がある。 まだ自分に対して彼の警戒が溶けていない時で、カメラを向けながらそう聞くと案の定、トレードマークである眉間の皺をいっそう深く刻みながら、誰と。と不機嫌極まりない声で問われた。 「檜佐木君。だっけ?」 「ああ……まあ、小さい頃から世話んなってる人だからな…」 「ふーん。良き兄貴分って所か」 「……そんな感じ」 今だから言えるけれど、あの時あんな事聞いたのは少なからず気になっていたって事だ。自分が、他人のテリトリー内を探る様な真似をするなんて、ああ、恋って怖いな。だなんて、カメラを握り締めながら。これは列記とした嫉妬心だ、と幼馴染の声で言われた様な気がした。 自分の中に巣食う何か、それがどの様な時に発症する気持ちなのかを浦原は十分に理解していた。 恋を知らない訳ではない。生きてきた今までの時間、本気の恋も何度かあったし、遊び半分の恋もあった。カメラマンとして世界をレンズ越しから見ているけれど、この気持ちだけは浦原の人間の部分として残り、暖かくて強い鼓動を奏でるこの気持ちをどこか客観的に心地好いとも思っていた。 年を重ねるにつれて、その気持ちが薄れていく最中、再び握ったカメラのレンズ越しに見る、目を潰される様な眩い橙色に恋をした。久しぶりの恋をした。今までに無いくらい、壊れてしまいそうな鼓動を誤魔化す様にカメラを握り締めたのは初めてかもしれない。そう、初めての。恋をした。 「それも、今日で」 ステージから奏でられた音響と共に響く彼の声が酷く甘くて、少しだけ掠れて、なんだか泣き声に聞こえた。 儚いけれどどこか力強くも感じられる歌詞はどこか自分の気持ちと酷似していて、カメラを握り、シャッターを無我夢中で押し続ける。 ふと、ズボンの後ろポケットに入っている携帯が小さく振動したので、それを手に取りディスプレイを眺め、眉間に小さな皺を寄せ、不躾な振動を奏で続ける携帯の電源を静かに落として、再びカメラを構えた。 耳に触れる彼の声が胸を激しく揺さぶる。 儚い、小さな、恋の歌を、彼が歌い、それを画にする為、浦原はレンズ越しに一護を見つめていた。 小さな恋の歌 ◆歌っちゃいました^^(笑) なんかラブソングってむず痒くなっちゃいますよね…英語ならまあオブラートと言うかストレートに伝わるし回りくどい言い方も無いので聞いてる側としてはすっきりするんですが…日本語はちょっと…って思ったんで敢えて英語で(笑) 修兵さんは一護の気持ちを一番に理解できるポジションに設定していたんですが…あの場面は些か恥ずかしい…orz 何してんの!修兵!ってな感じで読み返してわーわー一人祭りしてました← 浦原氏もカメラを握りながらギリってしてます(笑) なんだか家の二人はお互いに鈍い、不器用、ヘタレの三重苦の様な気がしてならない……orz メロディは少しだけNirvana意識です^^カートの声でバラード歌われてごらんなさいよ!恋に堕ちちゃうでしょう!!!← |