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洗濯機と冷蔵庫、ベッドとローテーブル、灰皿とノートパソコン。これだけ家にあれば十分だと思っていた。
それなのに、

「なあなあ、この家鍋も無いんだぜだからホラ、買ってきてやるからホラ」

ん、と右手を差し出した目の前の子供に頭を抱える日がこようとは思いもしなかった。





それでも君が笑ってくれるのなら





「あのね、ここはアタシの家でアタシが要らないと思ったから買ってないだけで、これからもそんなに必要性を感じないから買わなくても良いんスよ」
「じゃあどうやって料理するんだよ!馬鹿かお前は」
「バ……、あのね別に君が住む訳じゃないから良いでしょ?何、居座る気?」
「はあ?今更何言ってんだよ!最初に言っただろ!俺はラフメイカーだって!」

そう、それ。今目の前できゃんきゃん喚きながら差し出した右手を頑なに下ろさず眉間に寄せた皺の数を一層増やしながら暴言を吐きまくるこのクソ生意気な子供が今巷で噂のラフメイカーらしい。

一週間前に浦原宅へと届けられた冗談じゃない大きさのダンボール箱に入っていたのがこれ、黒崎一護と言うラフメイカーらしい。2035年、地球の半分が鉄製で出来た星になってしまうまで時間は残酷にも人間を日々進化させていき、地球上の人工の半分が試験管ベイビーで成り立っている今であるが、例えどんなに進歩しても所詮、人間なんて生き物は娯楽に弱く、こんなどうしようもないロボットばかり生み出すのだから幸先不安である。
ラフメイカー、通称「幸せお届け人」なんて言うふざけたネーミングのアンドロイドはセクサロイドで最も有名な機械だ。
製作会社は世界でもトップ5に入るソサエティ・カンパニーで、えんぴつの芯からロケットまで幅広い企業を受け持つ程だ。それが何故この様なセクサロイドを製作したのか、時代が変わるにつれて企業の方向性も変わるらしい。

「関節に言うけどな。俺はラフメイカーの黒崎一護、あんたは浦原喜助。いわば俺のマスターだ。なんて呼べば良い?マスター?ご主人様?それとも名前で呼んだ方が良いか?」
「ちょっと待って。何かの間違いだと思います」

3日間連続続いた抗争のせいでろくに寝れてないと言うのに、久しぶりに帰ったら家の中には見慣れないでかい箱と無理矢理こじ開けられたらしいダンボールの屑が辺り一面に広がっていて、黒い革張りのソファーに我が物顔で寝転びながらその子供は偉そうに口を開きそう言う。

「は?なんの間違いだよ。ホラ、紹介状」
「なにそれ…」
「うーん…領収書っての?購入者があんたに俺をあげたの、俺プレゼントらしい」

子供の手から受け取った透明なシートを受け取る、左上にあるボタンを押せば、デフォルメ化された文章と商品番号、それから3D機能で憎たらしい顔が出てきたのと同時に能天気な声で話し始めるのだから浦原の腹腸が煮えくり返る。
愛用するリボルバーを持っていたらならきっと今、この場で発砲していたかもしれない。

「やあ元気かな喜助君。」
「藍…染…」
「君っていつでもどこでも仕事人間だから僕は僕なりに凄く心配しているんだよ。だからね僕が作った自慢のセクサロイドを君に上げるよ。何、遅い誕生日プレゼントだと思って受け取ってくれれば良いさ、それとねこの一護クンだけど」

耐え切れなくなって透明なシートを真っ二つにへし折った。

「返却方法は」
「ない」
「アタシには受け取らないって言う選択もある筈だけど?」
「ない」
「なんでっ?」
「だって相手は藍染博士だぜ?お前がどういう手を使って俺を返却しようが戻されるに決まってるだろう?そう言う時一番誰が苦労するか考えた事あるか?俺だよっ!!だから受け取れ。はい決定」

口が減らないガキとはここまで人の神経を逆撫で出来るものなんだなと冷静に考える自分が居る。
今までの人生の中で女に不自由した試しが無い浦原にとって、一護は重荷にしかならなかった。例え女に不自由していても誰が好き好んでガキにしかも同性なんかに手を出すだろうか?
旧知でもある藍染の胸クソ悪い笑みが浮かんで更に神経を逆撫でされる、なんだ今日は厄日か?とさえ思ってしまう程に。

「言っておきますけど、女に不自由しないアタシからしてみたら君の必要性を全く感じない。君には悪いんですけどね、全然、全く欲情しないから!」
「……何言ってんだお前?欲情?何それ」
「…………おい」

きょとん、と本当に分からない仕草をする様に小首を傾げた一護を見て、浦原はとんでも無く嫌な思いをしたが、敢えてもう一度聞く。今度ははっきりとした口調で。

「だって、君。セクサロイドでしょ?それ専用アンドロイドでしょ?」
「セク…、何?確かにアンドロイドだけど?専用って?なんの?」
「冗談でしょ…」

浦原が一護を見ながら途方に暮れていると、へし折って再起不能にした筈のシートが再起動してあのなんとも人をイラつかせる事に長けた声が勝手に喋り出す。

「ああ、きっと君は怒りに任せて領収書をへし折ってるかもしれないから予備で再生システムを内蔵しておくね。あのね届けた一護クン、セクサロイドとして作ったけど、彼自身、身形は15歳かそこそこだけどそっち方面の事に関しては赤子レベルだからね、君が手取り足取り腰取りおしえて」

再び機能を停止させた。今度は足で踏みつけて内蔵システム自体が壊れる様に強く踏みしめる。容赦なく心の中で死ねと思う、嫌ほんきこれマジで。

「なあなあ、そっち方面ってどっち方面?」
「…………本気で勘弁してくれ……」

キラキラと瞳を輝かせて好奇心旺盛なガキは浦原のシャツを掴んで上目使い気味に聞いてくる。初めて見た子供の瞳の色はヘーゼルナッツ。なんだかやけに甘ったるそうなそれを見て浦原は深い溜息を吐いた。





それが一週間前。あれからどんなに返品しようとしても難なく返ってくるその荷物。その度に一護からは痛々しい程のローキックをお見舞いされる。だから、俺が一番疲れるっつーの!!いい加減にしろ!このうすらトンカチ!等と暴言を小1時間も叫ぶのだからたまらない。浦原のフラストレーションだけが増えていく一方で、心なしか殺風景だった家の中も物が増えていってる様な感じがする。
一護の服に、下着、それから絵本と漫画に小説、ゲーム機等々。騒がしいのが一人増えただけでも煩わしいと言うのに、家の中までも煩わしくなる。もう本当に限界。

「ねえ…なんで物が増えていってんの…ってか君お金とか持ってるの?」
「ん?ああ、これは全部博士が送ってくれたんだよ。俺の好みも全部知ってるし」
「………あの狸…」

本当に一回くらい殺したって罰は当たらないと思う。そう思いながら浦原は煙草に火をつけ吸い込んだ。
白い煙が天井まで昇り、やがて消え行く。それを一護は目で追いながら再び浦原に向かって右手を差し出す。今度は左手も一緒に差し出したので両手が浦原の目の前に来る。

「だから!ホラ、鍋買うからお金!!」
「……博士にでも買ってもらえば?」
「馬鹿かお前!お前の為の鍋だっつーのになんで博士に買って貰わないといけないんだよ!」
「だからアタシは要らないっつってるでしょ!」
「俺とお前が要る物なの!!ホラ!かーねーっ!!!」

なんだろうこの頭の悪いカツアゲ。子供特有のキンキン声がヒートアップしたら正に地獄絵図だ。明後日からまた仕事だって言うのに本当、休んだ気が全然しない。これだからガキは嫌いなんだ。

「ねえ…本当、君。いつ出て行くの?」
「そんなのお前が幸せになったら自然消滅するよ」
「フェアリーか」
「フェ…、何それ。美味いのか?」
「出た!無知!」

いつもこんな調子である。






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