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ベースに乗ったその声は凄く甘ったるく耳の中に入り、けれど力強く鼓膜を揺すぶった。
フロアから15センチ程高い位置にステージがあり、その少しだけ狭いスペースに収まった彼等ではあるけれど、そのオーラは素人では勝てない程だった。ステージ上に上がった彼等にフロア全体、と言うかこのライブハウス全体が一気に色づいたみたいに。
流石、日本を代表するロックバンドだ。浦原はカメラを構えながらフィルター越しにそう思う。
スタンドマイクが、叫ぶ様なそれでいて語りかけている様な一護の声を吸収し、フロア全体に反映させる。ああやっぱり、歌ってる時の一護は格別にエロい。思ったらなんだか笑いたくなって下品にも口角を上げた。

「どうだ。」
「最高ですね。やっぱりこっちの方が黒崎一護を出すのに手っ取り早い」
「まあ、ファンからしたら歌ってるイメージの黒崎一護が定着してるからな。でも、お前は違うだろう?」

ギクリ、とした。カメラを構えたまま、ファインダーから目を離して隣に立つ斬月を見る。
腕を組み、仁王立ちのまま無表情にステージを見据えるその横顔を伺いながら浦原は得意のポーカーフェイスを崩さずにニヤリと笑った。

「なにそれ」
「日本を代表するロックバンドのボーカリスト黒崎一護と、なんでもないただの黒崎一護。お前が見ていたのは後者の方だろう?黒崎一護と言う人間をそのカメラに収めてきた。だからか?お前が撮る一護があんなに幼くなったのは」

暫く斬月を見た後、浦原はゆっくり、ステージ上の一護へと目をやった。
三つのスポットライトがあたり、一護の眩いまでの琥珀色した髪を照らす。関係者だけのライブでも気を抜かず、真剣に音楽を愛して歌を紡ぐ彼の声はすんなりと浦原の心に入り脈を打たせる。ドクドクと、いつもよりも速く。そして強く。

写真にはカメラマンの気持ちも加わって初めて色味が出ると思っている。それは画家にしても、全部のアーティストにも言える事だろう。気持ちが無ければ、想いが無ければ作品は仕上がらない。心の無い作品なんて紙一枚の様に薄っぺらい。
想いが込められた作品が色づくなら、他人から見た浦原の写真はどうなるんだろうか?皆、ありのままの黒崎一護に恋をしてしまうんだろうか?

「僕の作品は失敗?」
「まさか。遠い存在だった黒崎一護が身近になった感覚を味わうだろうな。また恋をするかもしれん」
「あんたに恋だなんて可愛らしい単語は似合わないね」

失礼な。と無愛想な顔を少しだけ和らげて斬月は笑った。
そう、再び黒崎一護に恋をするだろう。浦原が黒崎一護に恋をした様に、彼のファンもまた…。そう思ってステージ近くに寄ってずっと一護を見ているウルルに目をやって笑う。

関係者だけのライブ招待チケットが二枚、一護から届いた時に同封されていたメモは「紬屋さんの分」と書かれていた。それを手渡した時の彼女のあの喜びよう。多分、彼女は今自分の瞳の裏側に一護を焼き付けているだろう。ある意味では彼女もまた浦原と同じカメラマンの様だ。

「心配しなくても、あんたの世界を奪い去ろうなんて不届きな事、思っていませんから」
「なんだそれは。」

斬月が珍しく苦笑した。
腕時計を見ながらウルルの近くへと歩み出す。刻一刻と時間を刻む秒針が今日はヤケに憎かったので腕時計を外して着込んでいたジャケットの胸ポケットに収めた。
ぽん、と頭に手を置かれて初めてウルルは隣に立ち、微笑みかける浦原に気付く。

「喜助さん……どうしよう、私…」
「ああ、感激通り越しちゃった?」

浦原の問いかけに何度も何度も頭を上下に振る彼女の瞳からはうっすらと透明な涙がライトの光に反射してテラテラと光る。
歌っている一護を見てホウ、と小さく息を吐く。それから全神経を一護へと集中させ、彼女は一護の世界を全て吸収するが如く目を開いて瞼の奥のシャッターを切る。
それを見て、浦原もカメラを再び構えた。
モノクロの世界にライトを浴びた一護は眩い程だった。伏せた瞼の奥で、彼は何を想い歌を紡ぐのか。知る由も無いけれど、浦原は夢中でシャッターを切る。一刻一刻と時間が刻むのと比例して、カメラのシャッター音もそれと重なる。










この瞼の裏に君を焼き付けよう


◆これから敏腕マネージャーの事を斬月パパと呼ぼう(笑)
そんでウルルちゃんに至っては信者です(笑)ライブで感極まって泣いちゃう辺りとか私の理想です^^静かに泣いて欲しいよね。叫ぶとかじゃなくて、こう、静かにポロってイメージです^^もう原作ウルルから程遠いキャラになってきてる……orz
あと、散々この話書いておいてなんなんですが…やっぱり一護たそが歌ってる姿を到底想像できません…やだ…著者失格だわ…orz




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