6 「無邪気だな」 「…僕もそう思う」 一枚一枚、テスト用に撮った写真と商品として扱う写真の見本を無表情で見比べながら斬月は呟いた。 珈琲独特の香りと煙草の香りが漂った室内で、向かい合わせのソファに座りながら浦原は斬月の発言に笑った。良く見ているな。 「これは、黒崎一護では無いな…」 「参ったなぁ」 ガシガシと頭をかき、咥え煙草のままテーブルに散らばった写真の中から一枚だけ取り、自分の目前に持ってくる。 「一護さん、甘いのとか好き?」 「食えなくはない」 本当は好きな癖に敢えてつっけんどんな返しをする一護が可愛くて浦原は心の中で笑うも、一護の瞳は浦原が持つケーキ用の箱に集中している。ヘーゼルナッツ色の瞳だけが素直に好きだと伝えていた。 「ロジカルでね買ってきたんですよ。結構上手いって評判らしいからね」 「え?食った事ねーの?」 「甘いのはちょっと苦手で」 そう言いながら珈琲を淹れる準備をしている浦原の横に立ち、自分用のマグカップと浦原のマグカップを手に一護は箱を開けてケーキを見る。 いつから自分の家に一護の居座るスペースが出来たのだろうか?気付けばこの部屋は一護の体温、一護の香りでいっぱいだ。 最初は撮影用のスタジオでしか会えなかったが、プライベートでも気軽に会う様になってからか一護の警戒心が解け浦原のマンションにも度々訪れる様になった。まだカメラに慣れない一護が素人じみていて面白い。隣に立ちケーキを見ながら美味そうと喉を鳴らす一護は到底日本を騒がせるバンドのボーカリストとは思えない。 「ねえ、今年はライブ無いの?」 「うーん、夏頃にはでかいのやるつもりだけど?」 「そう。もう一回行こうかな〜」 「は?なんで……」 珈琲を二つのマグカップに淹れ、トレイに乗せテーブルまで運ぶ。二つの皿に乗ったケーキを持ちながら浦原の後ろをちょこちょこと着いて来る一護がまるで子供みたいで可笑しくて笑った。 「なんでって、もう一回一護さんが歌っているところが見たいから」 「ふーん……歌ってる俺に惚れたな」 「そうね〜」 「……少しは否定しろよっ!!」 顔を真っ赤にして逆にからかわれた事に怒る一護が可愛くて仕方無い。今手元にカメラがあれば無言でシャッターを切っている自覚がある分、少し厄介だと思った。 黒い革張りのソファに隣同士で腰かけ、浦原は珈琲を、一護はケーキにフォークを刺す。 「美味い?」 「…うめえ…」 「なら良かった」 頭を撫でればガキ扱いするなと払われる。季節のフルーツで彩られたタルトを嬉しそうに頬張りながらガキ扱いするなですって。もぐもぐと口を動かしている姿はまるで小さなハムスター。幼い頃飼っていた記憶のある小動物を思い浮かべながら煙草に火をつける。 「お前は?食べねーの?」 「んー。一護さんの為に買ってきたやつだから食べて良いよ」 コクンと喉仏が動く様がなんともエロい。人が食事をしている様がエロいだなんて自分は相当重症だとこの時初めて思う。 カメラを向ける点で一番重要なのは被写体がカメラに恋をする事だと思っている、だから敢えて挑発するような事を言って被写体を煽るのに、今回ばかりは浦原自体がカメラ越しに一護に恋をしてしまった様だ。この子供はどこかしら危ない。 「ふーん……なあ、誰にでもそう言う事すんのか?」 「え?」 ケーキを目の前にしてもぐもぐと口を動かしながら一護は問いかける。誰にでも?どういう意味なんだろうか。 「や……やっぱりなし。なんでもない」 瞬時に顔を真っ赤にさせながら忙しなく手を動かす一護を横目に見る。 「……誰にでもなんてしませんよ。」 「……そっか…」 少しの沈黙の後、小さく発した声には少なからず喜びが混じっていた様な気がする。自意識過剰にも程があるだろうか? 本人は気付いていないだろう口端についたカスタードクリームを人差し指で拭って自分の口元に持っていき舐める。甘い甘いカスタードクリームの仄かな味が口内へと広がる。 まるでこの子みたいだと思った。 「………なに、して…」 「甘いっすね〜」 「っ〜〜!!たりまえだ!」 真っ赤な顔をした一護を見て笑う。あーあ…この子の想いが分かっちゃった。 甘い甘い、まるでカスタードクリームの様な甘さの想い。 「元気っすか?あの子」 「………どうした。気になるなら自分で連絡を取れば良いだろう」 「まあね」 テーブル一面に散らばる写真を一枚一枚丁寧に見、厳選しながら斬月はちらりと浦原を見た。 海外で知り合ったカメラマンの男は普段はおちゃらけて居る癖にカメラを持った途端に一般人とは異なるオーラを発する。それは被写体よりも強く、カメラのレンズ越しに人を魅了する程の強すぎるオーラ。一度モデルにならないかと冗談めいて言えば大笑いされた事がある。 カメラを持たない自分にその価値は無いとまで断言した男は冷たくも見える瞳で笑ってみせた。 「あと1ヶ月もあれば完成だ。最後に歌ってる場面を撮りたいんですが、機会ある?」 「そうだな……写真集の為に設けるか」 「そこまでサービスして貰えたら心残りは無いっすね」 「なんだ…あの噂は本当だったのか?」 「まあ、あながち外れちゃいない」 どっちだ。と曖昧に笑ってみせる男を目の前に斬月は呆れた眼差しを向ける。 写真の中で笑う一護はどれもこれも一般人と変わらずに写真の中に収められていた。日本を代表するロックバンドのボーカリスト、あの黒崎一護がなんの飾り気も無く優しく笑っている。果たしてこれが吉とでるか凶と出るか。それは一種のギャンブルにも似ていて、昔の血が騒ぎ立てる様に斬月の背筋を戦慄かせた。 頼むから、そんな無防備にならないで ◆斬月さんって…分んない…← あまり掴み所の無いマネージャーさんです(笑)もう一護のパピー的なポジションでいいんじゃない?とハンバ諦めモード(笑) そして両思いなのにお前等ギクシャクしすぎ^^なんやねん、早ぅくっついてまえ。って思ってますが、もうちょっと、もうちょっと待ってよ。と私の脳みそが言ってますんでちょっと待ちます^^^ |