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「で?結局ヌード写真出すのかよ?」

おちゃらけた物言いでチューニング中の恋次を後ろから容赦無く殴る。しかも無言で。誰がヌードだと言った?写真集だ。馬鹿。今ここで大事な喉を痛める訳にはいかない。舞台の向こう、大勢の人間が出すざわめきの音が一護を緊張させていた。
今までだって何度もステージに立ってはいたが、こんな大きなステージに立つのは今回が初めて。緊張と、早く暴れたいと言う気持ちがない交ぜになり心臓を一層大きく動かした。

「カメラマンって誰?」
「すんげー態度でかいヤツ!」
「ちげーよ、名前だよ。名前」

同じくベースをチューニングして軽くストレッチをしていた修兵に頭を軽く小突かれる。
そういえば…と。

「………あれ?」
「……名前聞かなかったのかお前…」
「…や、聞いた…聞いたんだが……ちょっと待て……えーっと……なんか時代劇みたいな名前…」
「権兵衛とか?」

今まで黙々と作業をしていたグリムジョーからの発言に、その場に居合わせたスタッフ諸共腹を抱えて笑い出す。権兵衛ってお前がそれを言うか?

「どこで習ってきたんだソレ!っと、そろそろだぜ!行くか!」

グリムジョー本人は偉く真面目に言ったみたいだが、修兵にそう言われてバツ悪そうに舌打をしながらスティックを器用に回す。
開演時間1分前。最高のステージにしようぜ。青春ドラマ宜しく修兵が言い、メンバー全員大声で叫ぶ。

ぶっちゃけライブは最高の出来だったと思う。自分でもやりきった感がある。初めは目の前に広がる人の多さに圧倒されて声が上手く出なかったが、修兵が隣でずっとベースを弾いていたので安心して調子を戻してからは絶好調だった。沢山のスポットライト、客の歓声、ベース、ギター、ドラムが響く音、そのスケールに乗った自分の声。何もかもがメロディーとなって一護の鼓膜を突き破る。それは一種の快感だ。最後のお礼で来てくれた客にありがとうと言った時、観客席から逆にありがとうと言われた。幾人もの客から発せられた声は大きな音となり会場全体を揺らす。一護の心も揺らす。ああ、やっぱり歌ってて良かった。少しだけ涙ぐんだ。




「お疲れ様」

それはライブ打ち上げの席でかかってきた電話から聞こえた音。低くて少しだけ掠れた、あの嫌な男が発する音源。
番号だけが表示されて最初は取るのを止めたが、何回も鳴ってしつこいので止む終えず取れば、やっぱり無視しておくんだったと直ぐに後悔した。

「……斬月さんから聞いたのかよ?」

そう言いながら斬月を睨むも、当の本人はプロディーサーの京楽と酒を交わしながら話込んでいる。

『企業秘密。』
「んだ…それ……で?何か用?」
『くく、相変わらず威勢だけは良いっスよね君』
「っ〜〜!用が無いなら切る!」

電話越しでも相手は一枚も二枚も上手で、せっかく良いライブの後の酒の席、ほろ酔いになってて良い気分だったのにこのままじゃあぶち壊しだ。切ろうとした瞬間、待って。と特殊低い声で言われたのでボタンを押す指が止まる。この男の声はなんだか不思議だ。

『撮影、受けましょう。』
「………は?」
『だから君の写真集。なに?もう忘れたの?酷いな〜』
「え…ちが…っ、あ、…じゃあ斬月さんに…」
『必要ない。スケジュールは彼から聞いて。もう交渉済みだ』
「………はぁっ!!??」
『煩い。じゃ、またね。』

一護さん。と言って一方的に切られる。素っ頓狂な声を張り上げた一護を見て酔っ払った恋次は「なんだ〜?女に振られたか〜?」と茶々を入れてくるのでうざったるくて頬をつねった。
最後に呼ばれた名前に少しだけ心が跳ねたのを、一護は誤魔化す様に酒を流し込む。ドキドキしてるのはアルコールに弱いからだ。顔が赤いのもきっと、酒が回ってるせいだ。

「……名前、なんつったっけ……」

耳元でエコーがかかったように男の声が木霊する。






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