[携帯モード] [URL送信]
恋情に気付かされた暖かさ


「これで良かったんですか?」

感情が読み取りにくい表情で阿近が聞いた。入り口の前、襖に寄りかかるように立ち、その長い両腕をかっちり前で組む。だらしなく立った阿近を見て浦原はへにゃりと笑む。

「良いんじゃないっすかね」
「…すっきりした顔しやがって」

阿近は小さく舌打をするが、浦原はそれを笑顔でスルー。なんて余裕面。と言うか腑抜けた面に些か腹が立つ。鼻の下が伸びた笑顔、5年前のあんたに見せてやりたいですよ本当。それで自分自身に斬られてしまえば良い。そこまで想像を働かせて、それ良いかも。時空
繋げられるかな。等と少々物騒な事を考えた。

「よし…これで全部っすかね……って何凶悪な顔で笑ってんスか…」
「……局長、時空って曲げられますかね?」
「は?」

浦原に宛がわれた部屋の家具やらは既に運び出され、残るは数十冊の資料と書類、小物といった所。適当な所で荷造りを済ませた後、懐から煙管を取り出してそこに火を灯す。
肺いっぱいに煙を吸い込みそして吐き出す。白と灰色の狭間で紫煙は揺れ、木目の天井へと上がりゆるやかな動きでもって消える。なんとなしに木目を眺めていた。開け放たれた窓から入る心地よい空気。ここは心地好い。研究室にずっと篭りがちだった浦原の肌を淡い日差しが刺し、春の暖かで優しい風が吹き抜ける。季節を楽しむってきっとこう言う事なんだ。今更ながらに思った。

「浦原」

窓の外で揺れ動く白い雲を何気なしに眺めている浦原を一護は呼んだ。暖かな空気が巡るこの部屋を裂く様に凛とした声が浦原の鼓膜に突き刺さる。

「黒崎さん」
「おう、…もう、準備できたのか?」
「ええ、大体はね」

そっか。浦原だけが居ると思った部屋に阿近が居たので少し戸惑った。あの日、阿近に対して大人気なく叫んだ張本人からしてみれば若干気まずい。と言うか彼の上司と体の関係を持った事も、そしてその後想いを交換しあった事も…
どーも。と阿近から挨拶されなかったら、一護は彼の顔を見る事は出来なかっただろう。

浦原が技術開発局に戻ると決めたのはあの夜の次の日の事。元々、副隊長候補がいなかった訳ではない十三番隊にこれ以上よそ者の浦原がこの位置に居座って良い筈がなかった。折角の芽を摘む事となる。そう考えた結果の判断。浦原の判断に一護も納得し、こうして浦原の短いようで長い副隊長生活に幕が降りる。浦原の辞任後、副隊長の席についたのは一護の最も信頼できる相方の茶渡で、浦原はここ数ヶ月、茶渡が始解出来る様稽古をつけていた。お蔭様で茶渡は5日間で(まさに鬼の様な特訓だったと後に聞く)習得。一護も今更ながらに浦原の強かさを知り、自分にも特訓つけてくれ!と真剣な眼差しで言われた時は流石に困った。

「じゃあ局長、先に行っておきます。では黒崎隊長、俺はこれで」
「ああ…えっと、前はごめん…」
「……いいえ」

まあ、可愛かったですよ。阿近は業と浦原に見える様にニヤリと笑い、それから一護の頭を撫でた。ビクっと震えた肩に苦笑して、浦原を見ると。どうだ可愛いだろう。と相手もほくそ笑む。くそ、一枚上手だ。呆れた眼差しで浦原を見た後で阿近はその場から去った。
あの夜、二人の間に何があったかなんて一目瞭然。部屋の外に居る自分が気づかないとでも思ってたのか。否、あの男の事だ、どんなに毒で魘されていようがいまかろうが微量の霊圧で感じ取る事くらいお手の物だろう。それでも敢えて知らない素振りを演じるのだから一枚どころじゃない、二枚も三枚も上手だ。
あの男に捕まった子供を、阿近は心の内で哀れむ。




浦原に特訓を拒まれて一護は少しだけ拗ねていた。なんで茶渡ばっかり。そう口を尖らせて言われたのでその時は耐え切れなくなってその場で口を塞いでしまった。(その後凄い剣幕で怒られたが)

「あいつ…可愛いつった…」
「まあ正直な感想なんでしょうね」

浦原と阿近は似てると一護は思う。飄々とした態度の裏側、そこには凛とした冬の空気を感じさせる様な何かが静かに潜んでいるのだろう。似た者同士とは正にこいつ等の事だ。阿近が大袈裟に触れた為、崩れた髪を直しながら部屋の中に入る。一歩一歩、浦原の元へと歩んでいく。
窓からは春の香りがして、浦原が吐く紫煙が風に靡き窓から逃げていく。少しだけ甘い香りがしたのは気のせいだろうか?

「水色がな、今夜うちで送迎会開くって」
「私の?」
「うん…嫌、なら…」
「いいえお邪魔しますよ。勿論」
「そっか。…うん、奴等喜ぶと思う…」

近くまで寄り、甘い香りがしたのは気のせいじゃないと感じる。浦原から香るその甘い香り。合わさった金色の瞳が優しげな形に変わり、トクンと胸が高鳴る。浦原の声が甘く聞こえる。笑い声も、「黒崎さん」と呼ぶ声も。
ああ、手放さなくて良かった。あの時無理に自分の想いを殺さなくて、彼の記憶を消去しなくて。本当に、本当に良かった。
柔らかな動きで浦原は一護の頬に触れた。

「疲れてない?」
「うーん…さっきちょっと…」
「ちょっと?」
「十一番隊で稽古…」

ああ、と浦原は少し笑う。茶渡の稽古に付き合ってやったが、それは彼の始解が完成しない事には副隊長の座は貰えないと分かっていたからであって、本来なら浦原の荒療治にも似た稽古の仕方は素人向きでは無い。ましてどんなに力を蓄えた者でもだ。

「勝った?」
「勿論!ただ途中で剣八が起きてきて………」
「ああ……逃げてきたんですね」

コクンと小さく頷く。確かに、浦原は考えてあれは鬼と言うよりも獣だな。と失礼極まりない事を考えながら一護の頬を撫でる手を止めない。
小さく息を吐く子供を見る。薄紅に染まった頬は柔らかくてスベスベ。人肌ってこんなにも気持ち良いのか。ニセモノのゴム製人工肌しか触っていなかったからこんなにも暖かくて柔らかいだなんて…今更ながらに思い出す。いや、一護だからか?考えて再び微笑んだ。
一護から色んな事を学んでいる気がする。雪の中に芽吹く椿の華が、春の暖かさに雪が溶け始めて見る空に驚愕する様に。春の暖かさを知る様に、ゆっくりと植え付けられる感情に少しだけ眩暈がする。

「黒崎さん、ありがとう」
「…何が?」
「全部」

全部全部、ありがとうね。浦原はそう言って一護の唇に柔らかく触れた。
春の風が心地好い、一護の柔らかな唇も、この胸を渦巻く嵐の様な恋情も。
















命芽吹く春に訪れた恋情


◆ご愛読ありがとうございました^^
1年を通してやっとhyena初の連載小説、これにてTHE ENDで御座います^^
結局、甘々になったか。そうか…もう少しいざこざがあっても良かったかな〜?って思ってますが、そうなったら終わらなくなってずるずる連載続けてしまう予感がしたのでまとまって貰いました。ええ、意地でまとめました^^(爆)最後ですが、浦原さんにはずっと苗字呼びで一護を呼ばせてます。敢えての苗字呼び。なんかその方がしっくりくるんだな!原作でも苗字呼びですからね^^
5万打とか色々小説UPした後で機会があれば番外編とかも書きたいな〜って思ってます!(結構リクエストが多かった阿修とかw)何気に阿近さんが人気らしい(笑)なぜ?^^私の中で阿近さんは浦原喜助にもっとも近い人物だと踏んでいるので、hyenaでは浦原さんと阿近さんが卑怯なくらいかっこいいです。はい、管理人の贔屓目って怖いねっ!(爆)
また新しい連載を考え中ですので、これからもhyenaの二人を見守ってあげて下さい^^ここまで読んで下さり、どうも有難う御座いました^^

meru






第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!