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消えないでほしいの、痛み

真っ暗闇の中で獣宜しく交わった。
浦原の息遣いが耳元で聞こえる、低く呻く様に、そして甘く名前を呼ばれたらたまらなくなった。
何度も吐き出した欲望は止まる術を知らないとでも言う様に、浦原の熱に、吐息に、手に、声に…。再び熱を上げる。
口元から出るのはみっともない声と唾液。暗闇の中、手探りで二人だけの世界を紡いだ。
体は熱で埋め尽くされるのに、心は空っぽだ。
浦原が名前を呼ぶ度に、心の中に巣食う空虚がミシミシと音を立てて心臓を喰い潰す。
その音が、凄く痛い。心臓に痛い、頭に痛い、耳に痛い、体に…、それでも。それでも浦原が与えてくれるのならどんな痛みでさえも愛しいと思った。
お前が与えてくれるのなら痛みさえも愛しいと思ってしまうくらい、気付いたらお前ばかりに囚われていた。
ごめんな、ごめん。
自分勝手な気持ちばかり押し付けてしまって、悪かった。




消えないでほしいの、痛み




目が覚めた。
やけにはっきりとした視界に浦原が入る。ああ、浦原がいる。
目と鼻の先、すぐ近くにある浦原の寝顔にひとつ笑った。
ああ、こんな顔もするんだなお前は。
いつもの意地悪く上げた口角は静かに寝息をあげ、あの薄い緑がかった金色の瞳を瞼が覆う。睫毛も髪の色と同じだ。


「……浦原…、」


ズキリ、名前を声に出したら心臓辺りが痛んだ。甘い響きを成してまだ薄暗い夜明け前の静かな部屋に空しく響く。その響きに背筋がゾワリと戦慄いた。
少し低体温なその頬に触れてみる。指先から侵食する浦原の体温。
浦原の腕が腰に巻かれる様に置かれている。ああ、まるで想いが通じ合った恋人達の様ではないか。
甘い、甘い夜を過ごした後の様な……。


「うら、…原……、」


再び呼んだ。
水に広がった一滴の墨の様に、黒く浸食していく一護感情。波紋を広げてゆっくりと静かに、けれど激情的に。湧き上がる感情に体が耐えきれずに、それは雫となって瞳から溢れ出した。静かに、静かに。音も無く。
涙で濡れた枕元に浦原の名前も沁みつけた。
昨夜の名残。体に刻まれたかの様に甘く疼く痛みだけを一護に与え、喜びに変える。


「これだけは……、」


この痛みだけは、俺が貰っていっても良い?良い?浦原………。

夜が明ける。朝日が素知らぬ顔で昇る。
こんな風に朝焼けを憎む日が訪れるとは思ってもいなかった。ずっと、ずっと昨夜の闇の中で、二人だけの時間のまま、止まってしまえば良かったのに。それを考える度に汚いと思った。こんな浅はかな気持ちを彼に押し付けておいて、自分だけの欲求を吐き出す為に彼を利用しておいて…尚も諦めずに、今度は彼との時間までも欲しいと言う自分の心。汚い、汚い…。(痛い、痛い…)
浦原の腕をそっと取り起こさない様に、ギシリと呻った体に鞭を打って上半身をあげる。見下げた浦原の寝顔を瞼の裏に焼きつけ(涙ですっかり濡れた視界は歪んでいたけれど、)彼の寝顔と体の痛みだけで十分だ。自分に言い聞かせて笑った。
上手く笑えていたか分からないけれど、昨夜の事だけは確かに自分の…。浦原と自分だけの時間で。
儚い様な夢を共有できた事、悪いと言う気持ちとありがとうと言う気持ちを込めて右手を浦原の額に充て、霊圧を煉った。

大丈夫、お前には負担をかけさせないから。

心の中で呟いた。


「…浦っ、原……っ」


本当は忘れて欲しくない。心だけが考えとは裏腹に叫ぶ。なんて弱い…
もうこれ以上、彼を束縛していく訳にはいかないと頭では分かっているのに。分かっていて彼を自分から解放しようとしているのに…触れた手の平から浦原の体温が染み込む。まるで枕を濡らす涙のように、すぅっと自分の肌に彼の体温が溶け込んでいく。
さようなら、笑ってお別れを言った。




「なに、を……っ!」
「あっ!」


唐突に掴まれた手首から僅かに痛みを感じ、一護は片目を瞑る。
歪んだ視界に入ってきた浦原の表情は酷く悲し気で、それでいて怒りを含んでいた。
あの金色の瞳が薄暗闇の中、猫の眼の様に光る。ああ、それも綺麗だ。と思った。
二人分の息遣いが部屋中に響き渡る、煉り出した霊圧は弾けて夜の闇に溶けだした。
浦原、頼むから……そんな泣きそうな顔しないでくれ。


「あなた、今…っなにしよう、と…っ」
「……忘れるんだ、浦原。」
「意味が分かりません!」
「忘れよう。昨日の事、全部。なあ、全部忘れてくれ」
「っ!」


もう一度、浦原の額に手の平を充てる。
どうしてだろう?一護は思った。先程よりも凄く冷静な自分が居る。
うん、そうだ浦原。やっぱり忘れた方がお前の為なんだ…だって、だって…


「やめろ!」
「うら…っ!」


右手を掴まれ、布団の上へと押し付けられる。
その際に悲鳴を上げた体に思考回路が追い付かず、両目をきつく瞑った。


「なんでですか?なんで…なんで忘れようだなんて!」
「それが良い。」
「理由も無しに?忘れた方が良いと言うなら……っ」


なぜ貴方がそんな辛そうな顔をするんですか?
見開いた瞬間、浦原の苦しそうな表情が視界に入って、心臓を強く締め付けた。呼吸困難になりそうなくらい。感情だけが先走る、思考回路なんてショート気味だ。
辛い、体と心が叫ぶ。
痛い、心に巣食う空虚がそう嘆く。
愛しい、お前が…浦原、お前が好きなんだ……

気がつけば恋に溺れる自分がいた。
お前の優しげな眼差しは全部自分だけの物なんだと、優越感に浸る事もあった。
自分の取る行動ひとつひとつに振り回されるお前を見て、嬉しく思った。だから態と、他の男達に隙を見せつけた。お前を試していたんだ。
隊長と副隊長。その立場を全部忘れて、お前は俺の事が好きなんだと、自分の勝手な思い込みでお前を振り回していた事が酷く恥ずかしい。それと同時に見ていられなくなった。
汚い自分の感情を、お前が誰かと話している所を、変える事ができない立場を、悪までお前は副隊長で、いつかは元居た場所に帰らないといけない…
そうしたら、もう浦原の中で自分は守らないといけない立場では無くなる。俺はそれが嫌なんだ…見ていられない。だって、俺がお前の隊長でなければ、お前は俺を見てはくれないだろう?
だからごめん、本当にごめんなさい。
もう自分勝手な思いを押し付けない様に、お前を解放する。














「浦原、副隊長解任を命ずる」



























































秘めた想いを夜に隠して笑った




あきゅろす。
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