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闇に降る雨
誓いなんか正直いらない。
永遠に似た鼓動が欲しい。なんて無い物ねだりも大概に。




頭から白のシーツを被った一護を見て流石の浦原も笑いを堪え切れなかった。
馬鹿にしてるとかじゃなくて、ああ。なんて愛しい生物なのだろうと。不意に壊したい衝動に駆り立てられたが、そこは大人なのでグッと堪える。

窓の隙間、目敏い月明かりはスポットライトの様に一護を照らし出した。
上気した頬に唇は少し悔し気に噛み締められたまま。眉間の皺もいつも通りだけど。恥ずかしそうにシーツの端を掴みながらその瞳は浦原へとすがる。


「笑うなよ」
「無理。だって君可愛いんだもの」


言ったらもっと赤くなった頬を月光は見逃さない。
白い白いシーツがより一護の肌を白く映し始める。
どんな物よりも綺麗だと感じた。闇に浮かぶ一輪の百合を思い出す。
純白で無垢、美しいと言う言葉はきっとあの花の為に作られたのだ。そこまで考えて、浦原は笑いながら一護に近寄る。


「後悔っていつ覚えるんだろう」
「…後悔、してんのかよ?」


一歩一歩、足を踏み入れる毎にキシキシと古い畳が鳴いた。まるで讃美歌の代わりと言う様に。なんて陳腐な。

一護の鼓膜を揺さぶり、その言葉は胸を焼き焦がしながら刻まれていく。耳を塞いでいたかった。
逆光で浦原の表情が伺えないのが何より怖く、その次の言葉を聞きたくなかった。
何時だって浦原の言葉に癒され安心し、そして揺れる。
心なしか指先は小さく痙攣していた。


「正直。世界中を敵に回しても良いと、」
「…」
「誓いなんて、所詮口約束に過ぎない」


触れられた頬。
冷たい言葉とは裏腹にその指先は暖かかった。
ああ、生きてる。浦原も、自分も。
逃げる様に(いや、現在進行形なのだが)取り巻く世界から背を向けて走り出した。
後先も考えずに。
これで良かったのだろうか?
浦原から何もかも奪った。二人っきりの世界を手に入れる為には二人の世界を捨てて来なければいけなかった。
代償は、余りにも大きすぎたみたいだ。

ぽとり。

頬を濡らす熱いのが何か知っていたが敢えて無視を決める。
浦原、浦原。
堪え凌ぐ様に、心の中でそう叫んだ。
叫びが聞こえたのか?目の前の浦原が微笑む。


「アタシは前にも君に誓いを立ててますよ。何回も、何回も。両指だけでは足りない。」


流れた涙を舐め取った。すっぱくて、体内に入れた涙が小さな刺を心臓の少し左側。左心房を酷くくすぐる。
良かった、まだ大丈夫。悠長に思えた。


「君に降り注ぐ物が例え雨だろうがなんだろうが」
「…守る。ってか?」
「そうですね。許すつもりもない。そんな、誓い」
「くっせぇ…」


憎まれ口は何時もの事。瞳の裏側から感情が溢れ出す。じわじわと、それでもマグマの様に熱く、熱く。
いつか目ん玉が溶けて無くなるのでは?要らぬ恐怖を覚えて浦原の胸元に飛び込んだ。

花とタバコの香りが混じった。浦原の香りにホッとした。何故だろう?安心したのにまだこの瞳は熱く、潤んでる。
次から次へと溢れ出す涙を止めて欲しくて、強く抱き締めて欲しくて。


「あんたの言葉が、全部刻まれたら良いのに…目に見えない言葉は、どうしたら確かな物になるんだ?」
「…まだ、分かりませんね」
「ふ。馬鹿正直なやつ」


浦原らしい返答に笑いながら涙を流す自分も結構ヤキが回ってるらしい。
はらりと、白いシーツを浦原が捲ったと同時に上から口付けが落ちてきた。
フワリと軽く触れた後、初めて浦原の顔が子供の様に困った表情をしてる事に気付いて少し笑ってしまった。


「なんて顔してんのあんた」
「君が、」


消えてしまいそうだから。
そう言った浦原の声は小さく掠れていて、どっちが。と思い笑う。


「なぁ、…もっかい」


触れ合った筈の唇が再び冷めてしまわぬよう。子供みたく(まだ子供だが)浦原を見て、それで目を伏せた。
それを合図の様に、浦原の手の平が一護の頬を包み込み、この瞬間が一番、時間が止まってるみたい。思いながら落ちてくる唇を待つ。

ちゅ。
矢張、触れた唇はお互いに熱く安心したと同時にまたハラハラと溢れる。涙なのか感情なのか。既に分からなくなった。


「もう、一回」


ちゅ。
瞼から落ちた涙を辿り、熱い浦原の唇が落ちてくる。
愛しい、愛しい、切ない哀しい。曖昧でいて強烈な言葉を紡ぎ出す様に、刻む様に。
音も無く浦原は一護に語りかける。


「もう一回」


まるで何かの儀式みたいだ。
白いベールに月明かりがキラキラ瞬いてステンドガラスの様。辿る様に刻まれる言葉は愛の誓い。
最後に浦原は一護の手を取り、薬指に小さく口付けを。その意図を読み取り再び切なさが込み上げてくる。


「浦原、浦原…っ」


なんて人を好きになってしまったんだろう?
なんて人を愛してしまったんだろう?
涙で濡れた薬指に、透明なリングが浮かび上がる。
こんなに壊れてしまいそうな気持ち、悲しさはシーツに含ませて。
目の前の優しくも不器用な男が消えてしまわない様に、強く抱き締めて、それ以上の抱擁をねだった。
いつの間にか外は雨、崩れそうな程に弱く、それでも強く。
雨音から逃げる様に二人、シーツの中へと潜り込んだ。


















闇に降る雨




三萬打感謝小説

◇やっと出来ました。考え抜いて考えた挙げ句に何故か悲恋にorz良いの…良いの…っ結局はハピエンだからっ!つっても駆け落ちカポーですがね。
椎名林檎の「闇に降る雨」をモチーフに。モチーフ…に…
なんだか玉砕ばかりですorz
敢えてパラレルではなく、原作verで頑張ってみました(ふんがーっ)何もかもから逃げる二人も良いのでは?一護は多分結婚願望は強いと思うの。うん。薬指に光るリングは無いけど浦原たまに刻まれたら本望でしょうか?つか台詞すくねっorz
色々とアレですが…ここまで読んで下さったら光栄です救われます(主に私がっ)


09,05,07
hyena>>meru




あきゅろす。
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