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2年の片思いから救われて漸くお付き合いまで辿りつけた、10も違う年上の彼。
去年やっと21歳になったかと思えば数か月後にはまた10離されてしまった。
年上の彼は常にピシっと皺ひとつない綺麗なワイシャツに身を包むシャカイジンで、自分はまだ学生の延長線を突っ走る大学生。
愛に年の差なんて関係ないと言える10代は卒業したからこそ、なんだかやけに気になってしまう。
お茶でも飲んでけば?誘われた彼の自宅は家賃いくらだよって怖いもの見たさで聞きたくなる程質の良い物件で、矢張りその室内も上品かつ広々としている。
春の冷え切った夜風によって芯まで冷え切っていた体も物の数分で温められた暖房は心地良く静か。
ジャケットとコートを脱いだ彼は黒のネクタイを少しだけ解きながらキッチンへと立つ。
コーヒーメイカーのスイッチを押すだけの動作なのにやけに絵になるその後ろ姿を、ふかふかのソファに座りながら見てるとなんともガキっぽい焦燥感が胸に宿ってしまう。
あーあ。早く大人になりてぇ。
医療系大学を卒業したらすぐに就職先を見つけて彼と肩を並べられるようなシャカイジンになりたい。早く早く、と心が急かしてしまう。彼を見てるとどうも子供っぽく見えてしまう自分自身が歯がゆくて、これは俗に言う劣等感なんだと最近気付いてしまった。

「ミルクは?」
「…あ、入れ……ない!」
「は?ブラック?」
「…おう」

こんな風に要らない意地を張ってしまう程度にはまだまだ青臭い。

「飲めるんスか?」
「うっせえ」
「この言い様」

ク。珍しく喉で笑う彼の表情が見たいと思った。
浦原喜助は滅多な事で笑わない。本人曰く「おかしくも無いのに笑顔なんて作ってられない」らしい。なんとも…彼らしい言い分だ。
人間の無駄な部分を省いて出来たのが彼だと言っても過言じゃないくらいにはいつだって無表情の彼は人が見えない所で笑顔を作るから意地が悪いと感じる。
笑えばもっと美人なのに。
こんな事は口が裂けたって言えやしない。

「はい。今日はどうも」

手渡されたマグカップを受け取ってオウと短く頷く。
白い湯気の出るマグカップに小さく口付けながら隣に座った浦原を横目で見た。
憎たらしい程端正な顔は、横から見ても一分の隙が無い。シャープな顎に鼻筋の通った綺麗なライン。そしてあの冷たい瞳に影を作る様な長い睫毛はやや色素が薄い。

「なに」
「え。や…別に。…あー、今日は飲み会?」
「送別会」
「珍しいな。そんなのに参加するとか」
「無理矢理ね」

あ。だから機嫌悪かったんですね。
苦く笑いながら熱々の珈琲をこくりと飲む。

「あれ…美味い」
「馬鹿高い豆使いました」
「うへえ…こーいうのって何、いつも買ってんの?」
「まさか。貰いました」
「…でしょうね」

金は持ってる癖にインドア派な浦原は数字にしか興味が無いから、身に付ける物も無難で外れの無い有名ブランドを数点、インテリアも見栄え重視ではなく使い勝手重視でネット注文が多い。
一度、買い物に誘ったら酷く面倒臭そうな表情を作られた。表情に面倒臭いと書いてあったのに一緒に出かけてくれただけで嬉しかった覚えがあるが、今では浦原からデートのお誘いを持ち掛けられるので進歩したと思う。
何者にも興味が無く、数字にしか興味の無い彼の冷たい心が一護によって溶かされていってる。そんな気がして愛しさは何倍にも膨れ上がるからこれはもう一生分の恋してるなあと思うのだ。
厄介でいて苦しくてそんでもって感動は何倍にも膨れ上がる。そんな忙しい恋を、一護は隣の男にしてしまった。後悔はないし後悔なんてこれから先もきっとしないだろう。

「あのさ、明日休みなんだけど。学校もバイトも」

点けられたテレビ。
液晶画面に映し出された異国の番組は、頭に痛い単語をズラズラと並べながら流れていく。
チラと横目に見た男の瞳には既に数字しか映し出されてない。
それでも、と舌に乗っけた言葉を淡々と吐き出せば浦原の冷たい瞳が一護を見た。

「それで?」
「…泊まって良い?」
「最初っからそう言えば良い」
「や。でもお前、仕事だったら…って思ったらさこう。なんか…」
「なんか?」

要領の得ない話しが嫌いな浦原の目が細められて居心地が悪くなった。
こう言う時が一番、子供っぽさを感じてしまう。
大学生なんてみんな子供だと言われてる感じがして勝手に惨めな気持ちになってしまうから言葉が変な風に濁ってしまうのだ。あーあ。ほんっとガキ臭い。

「悪いかなぁって」
「フ。遠慮なんて要らんでしょうに」
「え?」

今日はとことん珍しい。
珈琲を飲みながら細められた冷たい瞳は笑みの形を作り、一護に見せつける。
あの浦原が微笑んでいる(そんな生易しいもんでは無くても、きっとこれは微笑みに近い笑みだ)。

「君とアタシの仲なんだし」

ツンドラと定評のある彼が貴重なデレを出した瞬間、一護の心はいっぱいいっぱいになった。キャパオーバー。なんとも下手な言い方だが、一番しっくりきている。だって、彼の気持ちを耳にした瞬間にどっかーん!と心が盛大に爆発したのだから。

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