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A:サディストティックな恋を恨みますか?


迎えに来て。
だなんて。まるで語尾にハートマークでもついてるかの様な甘えよう。
たった一行、たった数文字のメールでも、あの男が珍しくも頼ってきてくれた事が嬉しくて、うっかり保存ボタンを押してしまった。

A:サディストティックな恋を恨みますか?

ブロロロ、愛用しているロードスポーツタイプのGBR125Rはいかつくも甲高いエンジン音を発して春の夜風を切り裂く。
季節は春と言っても先週までは冬の残り香がして寒かった。昼は熱くてもお天道様が沈んでしまえばめっきりと冷え込む。
一護はお気に入りのMA-1フライトジャケットを羽織り、手にグローブをつけて出掛ける。暖房で火照った体には春の風は心地好い。それでも、一旦外に出てバイクを走らせてしまえば一気に芯から冷え込む。赤になった信号、待っている間に身ぶるいをして青になるのを待った。
迎えに来て。
絵文字なんて一切使わない無愛想な文章。仕事の電話とメール以外受け付けないあの男からのメール。その文章が頭の中で反映されて、気を抜いてしまえばフとにやけた顔をヘルメット下に晒してしまう。だからこの春冷えの冷たさはありがたい。
なんつーか春の冷たさってアイツみてぇだよな。
青になった信号を見て再びバイクを唸らせながらそう思った。
冬生まれの(しかも迷惑極まりない12/31日!)、冬国育ちの彼は外見も然る事ながら内側も冷え切った男だ。
"あのツンドラのどこが良いわけ?"
悪友でもある白崎は眉間に皺を寄せながら事ある毎に憎まれ口を叩くが、ツンドラと言う表現がぴったりな為に中々反論できない。周りも、恋人である一護も認めるくらいには浦原喜助と言う男はとても冷たい。
体温も冷たいし、声色も低く冷たい、選んで発する言葉ひとつひとつも冷たければその金色の瞳も矢張り冷たい。
正直、なんで好きになったのか分からなくなる時も稀に訪れる。
けれどもやっぱり好きな物は好きで、今日みたいに頼られてしまえば一護はとんと弱くなってしまうのだ。と言うよりも一護は誰よりも何よりもあの男を優先してしまい、誰よりも甘やかしてあげたいと思ってしまう。何と言うか、我ながら末期も良い所だなあと小首を傾げてやや呆れる。
ま、惚れたもん負けって言うし?
諦めにも似た慕情で、春の冷たさに耐えながら男の指定した場所までバイクを走らせた。

***

「遅い」
「うわあ…一応急いで来たんですけど」
「寒い」
「…いや、中で待ってれば良かったじゃん」
「好き勝手に騒いで好き勝手に酔っぱらって好き勝手にどんちゃん騒ぎしてるあの中に戻れ、と?」
「…ジャケット持ってきたのでこれ羽織って。すげえ寒いから」

片眉をあげてみせた浦原は手渡したフライトジャケットをスーツの上から羽織り、不機嫌と見て分かる程の冷めた表情にヘルメットを被せてだんまりを決め込んだまま後ろに跨る。その際、一護の腰に回された男の手の異常な冷たさがジャケット越しからも少し分かってギョっとした。

「おまえ…手、冷たい。これつけてろよ。」

ヘルメット越しに響く自身の声は濁った音を耳に流し込むだけで男に響いてるかは定かではないが、はずした手袋を無言で押し返しながら「貴方が困るでしょうよ」と呟いてギュっとジャケットを握る仕草に一護の心臓はキュンと小さく高鳴った。
寒いけれども困りはしない。浦原はいつだって妙な言い回しをする事がある。
素直に「貴方が寒いのが嫌だ」と言えば良いのに、遠回りをしてつっけんどんに言い放つ。そんな所が可愛いと素直に思う。
なんかこいつ、頭良いのに損してるよなぁ。だなんて思ってしまうから可愛さは倍以上に膨らんで、一護の心臓を高ぶらせるのだ。
へへ。つっけんどんに返された皮のグローブ。
去年の誕生日に貰った質の良いグローブをはめながら情けなく笑った。
ヘルメットって便利だ。どんな表情でも隠してくれる。

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