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良い歳の大人がなんてザマだ、初めの頃こそ小言を呟きながらそして暴言を吐きながらアレしろコレしろ自分で出来るだろうボケ!などと言っていた一護ではあったが、次第に罵倒も暴言も怒声も見る影も無く薄れていき喉奥でスーッと消えていった。吐き出されるのは最早諦めにも似た溜息だけ。
偏屈と小馬鹿にした発言ばかりが紡がれる唇は結ばれて開くことはなく、緑色の作業衣を一枚一枚剥ぎ取る一護の指先をジーっと見つめるだけの金色が頭上にあるだけ。その視線を無視し、無心で彼を裸にしてその後は自分も洋服を脱ぐ。
震える指先を悟られない様、彼に背中を見せたまま一枚一枚脱ぎ捨てていく。そうして互いに素っ裸と言う間抜けな格好になっても尚、彼の表情が変わる事はない。まだ、あちら側にいってるのだろう。一護はこの状態になった浦原の事を抜け殻として受け止めている。だから平気だった、抜け殻の彼の前では無防備に裸体を曝け出す事だって躊躇なく出来る。
カラリと開く風呂場、予めテッサイが用意したであろう新しく湯がはられたそこは白い湯気が漂い、視界を悪くしていた。
ふわりと体に纏わりつく湯気でさえも僅かながら温もりを持つのに、繋いだ手はまだ冷たくて心に痛い。
ツキンツキンと痛みすぎて、音さえも漏れてしまいそうだ。一護はギリっと下唇を噛み締めながら自分の体に湯を浴びせ、そして次に浦原の体にも湯を浴びせた。肌に少し熱い湯を浴びせた所で微動にもしない浦原を見上げて軽く手を引っ張って湯船に入る事を施す。
浦原商店の湯船は広い、昔ながらの造りではあるが広々としていて銭湯を思い出させる。
大の男二人が入っても狭いと感じさせる事なく、寧ろ極楽極楽と安堵させるに相応しい湯船があるって言うのに何日も風呂に入らずあんな陰が蔓延る室内に篭るだなんて狂ってる。唇をアヒル口にしながら不貞腐れて、一護はそうっと爪先から湯に沈めた。
白い湯気がほんのり暖かなら、張った湯は皮膚を刺す様に熱い。
春先の冷たさに体温を奪われた体には少々酷でも、ゆっくりゆっくり馴染ませていけば身震いする程心地好い熱さに変わる。
ちゃぷん。
水の跳ねる音が浴室に響いて、次に湯が溢れて零れて排水溝に吸い込まれる音が大袈裟に鳴り響く。
漸く肩まで湯に浸かればお湯の熱さに体が火照り始めて、一護はフウっと気持ち良く息を吐き出す事が出来る。そうして体を温めながら、向かい合わせの浦原を見る。
一護と同じく肩まで浸かる男は、髪が濡れるのもお構いなしでただ湯に浸かっていた。微動にしない瞳も、湯気を映し出すだけで「気持ち良い」とも「良い湯ですね〜」とも呟かない。
ちゃぷり。
暖まった手を湯から出せば肌が少しだけ冷えを感じる。
毛先だけ濡れた金色に指を這わして、浦原の頬を手の甲で触れた。
冷たい。
未だに繋がったままの手は一護と同じ熱さを取り戻しつつあるのに。湯に浸かっていない部分はまだ冷たい。と言うよりもこの部分だけが本当の浦原の冷たさなのだと思い知って、なんだか惨めな気持ちに陥った。
こんなの、勝手過ぎる。
せっかく気持ちの良い思いをしていたのに、触れた男の本当の冷たさに再びツキンツキンと心臓が痛んで仕方が無い。男の冷たさとぽっかり空いた空洞に触れてしまって勝手に傷ついてしまっている。なんて独り善がりな感傷だろう。
アヒル口に尖らせた唇を「アヒルさんっスね〜」といつもの小馬鹿にした調子で言って摘まむ指先も声も、目前の男は全て忘れてしまったんだろうか。
冷たさと引き換えに生温い感情と人間臭さを忘れてしまったんだろうか。
ツキン、そしてちゃんぷん。
水音と心臓の痛みだけが浴室に反響した。

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