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この心臓を仕留める事が出来るのは君だけだよ、と馬鹿げた愛を謡う。


とある条件を出した。
第一に最中は顔を見ない事、第二に最後までは致さない事。二つの条件を叩き付ければ男は少しだけ面白くなさそうな表情を見せたが、譲歩してやっただけでもありがたく思って欲しい。眉間にきつく皺を作って一護は浦原を睨んだ。
きつく睨みむも身長差があるから自然と上目遣いになってしまう、その事を彼はきっと知らない。内心でほくそ笑みながら浦原は折れてやる振りをした(そうでもしなきゃこの男が男に抱かれるなんてキチガイじみた行為を甘んじるわけがない)若干ではあるが"面白くない"と二人は思う。
突き出された条件が面白くない浦原と、くだらないプライドが面白くない一護の影がそうっとぎこちなく合わさり、影絵として寝室の壁に映し出される。

***

夜は少しだけ後ろめたい、浦原はそう言った。
なぜ?と聞けば"貴方を想って眠れない夜を何度も過ごしたから"と、少女漫画もビックリな返答を頂いた。あの浦原喜助の口からロマンチズムな言葉が響いて少しだけ頭を痛めつける。リアリズムだとばかり思っていた男に片恋をした挙げ句、ロマンチズム的思想にばかり浸っていた自分が言うのもなんだが、お前それは盛りすぎだと男に言いたくなった。
二人の関係はまだほんのり甘い程度でそこまで甘やかな物ではない、互いに充分承知しているからこそ男から出された提案が未だに夢見心地の範疇で、ベッド上に押し倒されてとうとう一護は泣きたい気持ちに駆られた。
きしりと唸るベッドのスプリングが耳に心地悪くて"なんか喋れ"と発した。静かな静かな沈黙が二人の柄じゃない、こんな時に限って天邪鬼な男の口からは嫌味を存分に含めたおしゃべりは出てこない。普段なら余計な事までぺちゃくちゃ喋るクセに!心中で吐き出した言葉に被る様に鳴ったのはシーツの擦れる音と、衣類を脱がされている音。ベッドのスプリング音とそれらの音が混ざり合って不協和音を奏でる事に、いよいよもって耳が悲鳴をあげた。

「なんか、喋れよ…っ」
「…なんかって、なに?」

どぎつくも低い声が真上から降り注ぐ事に一早く反応したのは肩。情けなくもビクリと震えた肩が滑稽過ぎて、油断したらこの場から尻尾を巻いて逃げてしまいそうになるのをグっと堪えて両腕で顔を覆った。

「いつもは、うるせーくせに!」
「君だって」
「っ!俺はうるさくねーよ!」
「今は煩いっスね。黙ってくれる?」
「あー言えばこー言う!だんまりが嫌だっつってんだろう、悟れよっ」

交差した腕の、ちょっとした隙間から覗く琥珀色は強かに光り、頬にのっかる赤をより鮮明に仕立て上げる。キっと若干だが涙目で睨まれても怖くなんてないがこれは放置していたら煩さを増しそうだ。浦原は小さな苛立ちを腹の底へと落とし、ゆっくりと上体を起こして一護を見下げる。

「ねえ、性行為中にお喋りしたら萎えると思いません?」
「せ、性行為なんて生々しい表現すんな…っ」
「……今からしようとしてるのは何?組体操っスか?」

言ってからあながち間違っちゃいないなと思う反面、腹の奥底へ落とした苛立ちが少しずつ質量を増やしていく。わちゃくちゃと煩いガキだ、大人の余裕を見せ付けるのにも飽きが来る。
何も知らないだろう彼に圧倒的な快楽を植え付けるのは安易な事、わざわざホテルの部屋まで用意し息苦しい洋装で出てきたのだ、少しはこちらの余裕の無さも配慮して欲しい。本音はそうであったが、浦原にも浦原なりのプライドはある。
このアタシがこのザマ。
油断を見せたら心臓が大いに高鳴る事くらい、自分にも分かる。組み敷いた子供の真っ赤に染まる頬と耳、そして目元を見ただけで眉間の皺がきつく寄せられてしまう始末。あーもう頼みますって、これ以上乱さないで下さいよ。高鳴る心拍音を、彼の耳に当てて聞かせてやりたい気持ちで一杯だったが、そんな時間も無い事実が浦原から余裕を奪い去る。

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