[携帯モード] [URL送信]
2


ギリギリのところで終電に乗り込んで自宅マンションの帰路途中にあるコンビニに立ち寄って30分くらいは暇を潰した。雑誌コーナーで立ち読みし、アイスを買おうかそれともプリンを買おうかで迷いに迷って結局つまみを大量買いしてしまった。
あざざーっしたあ。やる気が無い店員の声を背中で受け、外に出るとむわんと夏の熱気が体を突き抜けて手に持った袋をカサリと鳴らした。
家に帰ったら録画していたスポーツ中継でも観ようか、それとも借りていたDVDを消化しようかどうしようか。火を点けずに唇に挟んだままの煙草を上下に揺らしてつまんねえと独りごちる。
明日は(0時を回ったのでもう今日の話しだが)せっかくの休み。しかも珍しく土日休みで先月の一護だったならば白崎のバーになんか寄らず恋人とオールナイトデートに心躍らせていたかもしれないが、如何せん今は自由気ままなフリーである。ちっとも楽しくなんてない。

「やべ、欝になる」

コンビニからさっさと退場して足取り重くマンションへの帰路へとついた。先ずは熱いシャワーからだ。
可愛い元恋人の事を考えるのはやめて極力思考を停止しながら歩けば数分も経たない内に自宅マンションへと付いてしまった。この歳になって一人暮らしの部屋に帰るのが億劫で堪らなくなるとは…末期だな。ひとつだけ短く息を吐き出しながら階段を上がる。
築4年の駅近、バストイレセパレートで角部屋、4階建ての2階にあるすこぶる素敵な物件の我が家。お気に入りの小さいミニカー(ポルシェ911)がぶら下がったキーチェーンをじゃらじゃらと回しながら一段一段上がれば見慣れた人物の影がチラリと視界に入り込んできた。

「あれ?浦原?」
「………こんばんは、黒崎さん」

マンションの渡り廊下、背中を壁に預けて無愛想な(若干眠たそうだ)表情で咥え煙草をした青年は無愛想な表情にお愛想のひとつも浮かべず一護を見て挨拶だけした。

「あからさまなヤツだなお前。んな嫌そうな面すんなってのもう連れ込まねーから」

一護の言葉に眉をピクリと動かしただけで後はやる気の無い返答をしてみせた彼の名前は浦原喜助。最寄駅から池袋経由で20分の場所にある大学へ通う大学生だ。
去年の夏場に引越して来たと聞くがこのご時勢引越しの挨拶はしないのが基本となっているみたいで冬近くまで浦原の存在を一護は知らなかったのだが、一度だけ成り行きのワンナイトフィーバーが仇となって二人を出会わせる。
したたかに酔っ払った一護とその相手のあられもない声が隣まで漏れてしまっていた、らしい。一護はとんと記憶に無いがお昼頃にインターホンが鳴り続け、痛む頭を抑えながらトランクス一丁のその上からガウンだけを身に纏った状態で開けた扉の前にこの男が立っていた。
"煩いんスけど迷惑なんですけど"
"あ?"
初対面でしかも身に覚えのない悪態を吐かれた為に素が出てしまったが浦原は臆す事もなく、小奇麗な顔を歪めたまま暴言を吐いた。
"明け方にアンアンアンアン、覚えがないとは言わせませんよAVだかなんだか知らねーけど窓あけっぱで致してんじゃねえですよ"
"え…マジで?響いてた?"
"ばっちり"
この瞬間、立場は逆転した。
冬と言えど喚起の為に家を空けている時だけインテリア重視の小さい窓を開けている。きっとべらぼうに酔っ払った挙げ句閉め忘れたまま致していたのだろう。一護はサーっと青ざめて青年に謝罪をしようと口を開いたが、タイミング悪くも玄関を横切った(シャワーから浴びて出てきた)白崎を浦原はバッチリ目撃してしまった。
クソ真面目に27年間渡り歩いていた一護は嘘を吐くのが病的に下手だ。あーだとかうーだとか言う前に益々青ざめてしまって浦原から目を反らしてしまう。結局グダグダなまま謝罪する事も出来ないまま、嫌悪感たっぷりな浦原の視線に堪えるだけで終わった。
あの時の嫌な思い出が脳内を過ぎる。小さく舌打ちをしながら鍵を差し込んで回しロックを解除、その際に背後で気配を感じた為訝しげに振り返った。

「…んだよ…」
「鍵、忘れちゃった」
「はあ?」
「今日は?あの白い人居ないの?」
「いねーし別に付き合ってねーよアイツとは。つか何?どこに鍵忘れてきたんだよ…マジ面倒くせえ…」
「研究室」
「…クソ真面目な生徒だこと。今日は泊めてやるから晩酌付き合えこれが条件」
「酒もご馳走してくれるの?」
「…甘いな…俺も…」

ふ、小さな笑いがやけに皮肉めいている。自覚して扉を開き無愛想な隣人を招き入れた。

next>>>




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!